一周回ってからの同じ景色は ぜんぜんちがうかった 八章
八章 過去からの贈り物
沢田さんのところでの木工修行はあっという間に半年が過ぎ「一年おってもいいよ!」と言ってくれたので、あと半年お世話になることになった。しかし、そんな楽しい生活が続くなと思っていたところに一本の電話がかかってきた。それは「花田が飛んだ!」と下村くんからの電話で、僕の脳裏にもあることがよぎった。
まだ印刷会社にいるころに花田くんの会社の資金繰りが悪くなり銀行からも借りることができなくなった。それで僕にも保証人になってほしいと話を持ちかけてきた。その時は一度断わり電話を切ったのだけれど、再び電話がかかってきて「200万円持ってくれたらええわ!」といわれた。長い付き合いの友人が本当に困ってるのだろうということと、離婚もして一人身だったのでそれくらいならどうにか出来るかと思い、保証人になることを引き受けていたのだ。
下村くんから連絡があったあと、何日と経たないうちに闇金業者から電話があり、「わあわあ」とガラの悪い言葉で詰め寄られた。とわいえ、どうにもできなかったので「少し待ってほしい。」と一旦電話を切った。そして200万円と思っていた借金は連帯責任として何億円かを保証人の人数で割った金額の600万円ということだった。「600万円!ちょっとまってくれよ!話が違うやないか!」と言っても花田くんとは連絡が取れない状況。それと闇金業者からの執拗な電話。沢田さんのもとでの毎日ゲラゲラ笑って過ごしていた修行生活が、笑ってはいられない生活に一変した。
後からわかった事だけれどちょうど保証人になった頃、闇金業者から勤めていた印刷会社に連絡があったようだった。「あんたとこの〇〇という社員が、うちの保証人になってて、もし万が一なんかあったら、あんたのとこでなんとかできるんやろな!お前とこの社員が肩代わりできひんかったら、お前とこの会社の株なんぼかあれするで!」というよな内容だったらしい。大企業ではなかったけれど、会社の利益は安定していて悪い噂などで影響を受けるようなことは避けたい状況だったと思う。これが一年分の給料を渡され、会社を辞めることになった理由だった。
僕自身は下村くんを騙したわけではなかったんだけど、ぐるになって落とし入れたように思われてしまい、僕のことは信用できないと縁を切られてしまう始末。東京でお世話になっていた、担当の営業の人達も「下村くんになんていうことをするんだ!」みたいなことになってしまっていて、そんな人達とも疎遠になってしまった。せっかく、東京を離れるときには涙まで流してくれていたのにと、やりきれない思いに苛まれた。自分で蒔いた種かもしれないけれど、誤解が取り返しのつかないことになってしまっていた。
花田くんがこの件に巻き込んだ人は少なくなくて、弁護士が入ることになった。そして保証人として負債を抱えた人が集まることになったのだけれど、そこには何十人と人が集まっていて、なかには泣いていいる人もいた。
保証人なんてなりたくはなかったけれど、仲の良かった花田くんだからと思い引き受けた200万円。それは僕の知らないところで600万円に膨れ上がり、法的に整理をした最終的な負債金額は400万円になった。
会社から手渡されたお金だったり保険があったので400万円は支払うことはできたんだけど、これから家具屋として開業するための資金の大半が消えてなくなってしまった。過去の自分の一瞬の判断と出来事が、自分の費やした時間や人との関わりを奪い去っていくようすは津波のようだった。
残った資金をすべて木工の機械などにつぎ込んでゼロからの家具屋として開業。不安は拭い去れなかったけれど、沢田さんや工務店の常務さんから下請けのようなカタチで仕事をさせてもらったりしていた。とはいえ自分でも仕事を取ってこないといけないと思い、知り合いの大工さんにショールームスペースを作ってもらったりもした。
そんなふうに家具屋として過ごしてはいたのだけれど、失敗が続いたりこの仕事だけでは食べていくことは難しい状況だった。そんな理由で身体障害者向けのグループホームでのアルバイトをしたりしていた。ちょうど40歳になったそのころに7年間付き合っていた彼女とも別れたりもあって、気持ち的には落ち込んでいたし、自分のやっていることがから回っているようにも感じていた。
※このお話は少しだけフィクションです!お聞きしたお話に基づいての物語ですが、客観性はないかもなので事実かどうかはわかりません。登場人物は仮名です。