にじさんじ公式声明文で読み解く運営の「ヤバイ」落ち度~法律違反の可能性と訴訟リスク
「……おい、无翻侭。運営が公式声明出してるよ」
「は、マジで?」
21日の夜、急に通話相手の友人の声が低くなった。嫌な予感を抱えて、にじさんじ公式のTwitterアカウントを開くと、想像を絶する声明が出ていた。
今回の発表を読みながら、私は随所で、「ダメでしょ」、「いやまずいわ」、「こんなん出すとか何考えてんだ」と言っていた、らしい。友人の談で、私は全く意識していなかった。それほどまでに、今回の文章は危うかった。
「マネジメント」のように書かれた圧力の示唆、事実確認の不備はその筋の専門家が確認したら眉を顰めるものだし、夢月ロアの行動も問題を助長していたことは明らかだ。その後に「証拠」としてスクリーンショットを開示してしまった本人も、それを許した運営も、今回の件を甘く見ているのは明らかだった。
これは誠意ある対応ではなく自己正当化で、問題解決どころか、火に油を注いでいる。
その点に関しては、(不承不承ながら)まだ、いい。
今回の問題は「炎上」とか、「不祥事」とか、あるいは「一Vtuberの引退に関わるゴタゴタ」などという些末な形で終わる問題じゃないからだ。なぜなら、運営が行ったことには法律違反の可能性もあり、それが引き起こすリスクは運営会社だけに留まるものではない。公的機関による調査や記者、調査会社等の経済一般に通じる人々が動き始めてもおかしくないものだからだ。それはそのまま企業の信用を落とし、利益を失うことにも繋がりかねない。
今回の記事は、通話していた友人に行った説明を軸に、にじさんじ公式が発した声明文のどこが「ヤバい」のか、そして、どのような展開が起こりうるのか。この2点を解説するものになる。
これまで以上に特定のVtuberについての説明はないし、ここに至って趣味でエロ小説書いているおじさんの領分を越えて、法律や経済に重点を置いて話を進めることを許して欲しい。
①運営の行為は「マネジメント」に収まるのか
「ちょっと確認としていうんだけど。今回の4枚綴りの声明文、全体を通して、運営は中立的立場で書いてはいないんだよね」
「あー、確かに。なんかめいろちゃんの言い分はどこにあんの?って感じだわ」
「これってさ、粗っぽくいうと運営は、『金魚坂めいろを持て余していました、彼女はめんどいやつだったんです』ってことを書いてんだよね。
夢月ロアの要請を受けた運営が動いたものの、「金魚坂めいろが運営のマネジメントに従わなかった」、「彼女は引退を何度も翻意した」、「最終的には信頼関係を築けないと判断して契約解除。本人も合意」、「その後、本人しか知り得ないスクリーンショットの漏洩が認められて契約解除を通知」と、今回の問題が拗れたのは金魚坂めいろに起因するものとして書いている」
「そう言いたくもなるだろうなってのはわかるけど、俺らが知ってること入ってなくね?」
「そう。リスナーが知りうる金魚坂めいろの事情が書いてない。例えば、最初の翻意が一部のライバーから説得を受けて思いとどまったことは、金魚坂めいろ本人が復帰配信で明かしてるんだけど、運営は書きおとした。必要以上に関係者を増やしたくないのかもしれないけど、仮に運営が説得の事実を知らなかったというのは「なぜ引退を撤回するのか」という当然の問いを発さなかったってことになる。つまるところ、悪印象のためにわざと描写を減らしたと考えられるんだよ。だから『他のライバーのプライバシーに関わるため』みたいな注釈で逃げを作った」
「なるほどね。声明文は残っているロアちゃんに肩入れして書いてある、と読んだわけだ」
「そこはまだ良いよ、組織としては当然の防御反応。組織全体と成員を守るために行うこととして通常の範疇。でも、マネジメント業務っぽく書いてあることがダメじゃないか?っていうことが私には引っかかってる」
「へえ。どのへんよ」
「口調の変更に本人はどうしても出てしまうと回答したけど、これをずっと矯正するよう迫った、という点だよね。これって優越権の行使に当たるんじゃないか? 独禁法/下請法で禁じられてるもの」
「あ、前に言ってたやつ?」
「うん。優越権行使は法人と個人事業主間でも成立するし、事務所とタレントが同じ構図で結びついてる芸能界に適用されたことからも充分範疇になると思う」
「じゃあ、見る人が見たら、『これヤバイんじゃね?』って思うって事?」
「この法律知ってる人はだいたい眉しかめると思うよ。なんてことないように書いてあるから、常態化してるかもって余計に懸念する。だって、昨年から今年頭まで、芸能関係は法律に関して勉強会催されたくらい力入れてたんだから、『気をつけましょうね』ってムードだったし。
マネジメントの中で行った当然のことっぽく書いてあるけど、本人が矯正しようがないと訴えた点をあげつらうのは単純に『パワハラ』ものともいえるし。これに問題意識を持ってるかどうかは示しておくべきだったでしょ。グループが掲げる『多様性』ってなんですか?っていう疑義は当然出てくる」
「最悪、どーいうことになるわけ?」
「行政から人が来るよね、独禁法なら監督は公正取引委員会なんだけど。
実態が確認されれば『指導』が入るし、確認されないなら『注意』で終わる」
「注意ってジャニーズが受けたやつだっけ」
「そう。『圧力掛けてた実態はないけど、このままだと起きちゃうかも知れないから気をつけようね』っていうのが『注意』。『こんなことやっちゃダメでしょ。こういう対策をしなさい』が『指導』ってところかな」
「なんだ、そんだけ?」
「うーん、行政指導は企業の価値を落とすのには充分なんだけどね。私としてはメディア関係も動くんじゃないかと思う。芸能界で既に事例があることをやっちまった新進事業の業界。いかにも叩きやすそうだし、法人調査の人間も動く……かも?」
「法人調査ってなによ?」
「会社の信用を調査すること。別の会社と取引するとき、相手が信用できる相手かどうか、第三者に査定してもらうんだけど、それを専門で請負う事業者がいるのよ。基本的にベンチャー企業は財務関係が特殊(オカネ回りの善し悪しが簡単にはわからない)だから、ほとんどしないと思うけど。大企業を顧客にしている調査会社だったら、表沙汰になってない『取引相手の不祥事』をアドバイスするからなあ。いちからは音楽業界進出に力入れたり大きい事業者との案件も多くなってきたりしてるから、調査は入ってもおかしくないかもね」
「へー、よくしらん奴がくるってこと。でも受けないこともできるんだよな。聞いた感じ、強制力なさそうだし」
「うん。でもその場合は、要注意な取引先になるだけよ。でも、投資相手が見限らないんならオカネはあるわけで、オカネがあったら支払い能力あるから取引には支障がない」
「あんま効果ないんだな」
「うーん。そもそもの取引額が少なかったら、なんか起きても裁判でいっか、と思うかも。いちからはそれ以外の『付加価値』として影響力の高さがあるけど、これは説明して理解を得るの難しい部分だろうねー」
②「契約解除」における杜撰さ
「パワハラと相俟って問題なのは金魚坂めいろの卒業の経緯の最後の部分よね」
「ああ、この10の部分な。これって会社側で『判断』したから、事実確認をしていませんってことだよな」
10 金魚坂めいろによる当社秘密情報の漏洩
公式リリース文案の調整を行う中、第三者である社外の配信者が金魚坂めいろと当社との間での本件に関する内容やその交渉経緯をyoutubeの配信にて公表するという事案が発生しました。
同配信内には、金魚坂めいろしか知り得ない情報や、金魚坂めいろ自身のアカウントでしか表示できないコミュニケーションツールのスクリーンショットなどが含まれていたため、当社としては、金魚坂めいろが第三者に対して本件の内容や当社との交渉経緯を漏洩したものと判断しました。
(2020年10月21日発表の声明文より)
「そうするとさ、未確認の事項を理由に一方的な早期の契約解除を通告したってことになる」
「あー……。最初の合意解約の時には『猶予』が設定されていたってみてるわけか?」
「だいたい末締めとかになってるわけだし、そもそも協議中だったしね。そうじゃなかったら、配信権限もTwitterへのアクセスもできない、いわば一般に対して『物言い』できない演者に『あらためて』通告するっていうのは変じゃないかな。つまりクビを宣告した形だけど、その根拠は聴取抜きの自社判断」
「リーク先の外部Vtuberは『本人じゃない』っつってるしな。おまけに金魚坂めいろが連絡網から出された後の注意喚起まで渡ってるから、リーク者は別にいたって示してる。まあ、それが正しいってことが前提の話だけど」
「うん。だから、これは聴取ぬきで行った運営の対応が咎められる。契約解除を早めた件を不当として訴えられたら、『調べてませんでした。でも客観的には明らかに彼女がやったと思うじゃないですか』って裁判でも言うハメになる。裁判は客観的事実を裁判官に提示して理解を得るためのものだから、今回のとはさすがに変えてこないとダメだろうね」
「ふーん。无翻侭は金魚坂めいろが訴えると思う?」
「彼女の財力や本人の状態が悪ければ無理だろうね。でも早期の契約解除は、金魚坂めいろ(の演者)に対する報酬の支払いがどうなっていたか?っていう点も関わるから、そうなるとやっぱり経済事件として扱われてもおかしくないし、民事裁判としてその点を求めるだけでもできると思うなあ」
訴訟コラボとイジらないライバー
「それはそれでヤバくね? 法廷で参考人にVtuber呼んでオフコラボとか洒落にならねえわ」
「まあ仮定に仮定を重ねた話だから本当になるかはわからないけど、公的機関が調べ始めるか、投資した企業がどう判断するか、その関係企業がどういう打算をするか。……なんだけど」
「けど?」
「訴訟コラボは見てみたいよね」
「最低な愉しみ方してる」
「実況・解説も所属Vtuberで出来るでしょ。スポーツ実況やってる人いるし、なぜか日本の法律に詳しい人もいるし」
「裁判所から配信はできねえだろ」
「でも、リーク内容の言い分と食い違ってる部分を無視して運営は「こうです!」って押し通したわけで、対立してる。こういうことは裁判所で明らかにしましょうねってのが落とし所じゃないかな。そうじゃなくても、代理人立てて話することって感じだ」
「そりゃ、確かに」
「まあ訴訟コラボを期待するとして、さ。『裁判実況』配信あったら、エンディングテーマには是非この楽曲流して欲しいんだけど」
「……なによ?」
「東京事変の『金魚の箱』」
「箱から丸い金魚落ちたよ」
(歌詞より)
「おふざけが過ぎるんだが」
「復活の芽もないんだからせめてネタにしろよぅ。炎上したこともネタにしてきたのがにじさんじなのに、空星きらめ以外がだんまり決め込んだことのほうが深刻なんだけど」
「それはそう。マイクラでパンダ探しやってから『炎上に強い』イメージあったんだけど、今回はみんな冷たいんだよな」
「マイクラで『金魚』釣る配信やんねえかなー」
追記(※20年10月25日12時50分)
個人事業主の観点から今回の問題を解説した動画が出たり、
こういうツイート(連投なのでツリー参照のこと)をいただいたりしました。
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