外娼だと思っていたら……
プノンペンに移住したての2013年。
まだ街の灯りもまばらで夜は暗かった。
都会暮らしに慣れている自分には、この闇が怖く、圧迫されるような感じがした。
夜、遊び場からバイクで帰宅する道は、外娼、いわゆるたちんぼうがパラパラ立ち並ぶ道だった。
いつもチラ見しながら通りすぎるだけだった。
そんな中でも、すごい視線を感じる女がひとりいた。
学校の前の街路樹の下に立っていた。
遠くからでも感じる目ヂカラ。
怖いなーと思って3日間あまり見ないようにスルーした。
4日目、好奇心からちょっと話かけてみようかと思った。
いつものように暗い夜道をバイクで走り、遠目に視線を感じた。チラ見すると、確かにずっとこっちをみてる。よしよし。
そして到着。あら?いない?
近くにくる間にいなくなっちゃった。
まあ、仕方ないかとあきらめて帰宅した。
5日目、今日こそあの女に話かけよう。
そして、遠目に発見し、また視線を感じながら近寄る。
あれ?また、いないや。
6日目、今日はずっと女を見ながら近づこうと決めた。遠目に発見。ずっと見ている。ん?いない。
近くにいくといつのまにかいない。
目の錯覚なのか?
7日目、意識して遠くからみてみた。いない。
今日は遠くからでもいない。
8日目、視線感じた。みる。近寄る。いない。
何日か繰り返してわかったこと。
意識するとみえない。意識しないと視線感じる。
そして、ある時、また視線を感じ、でも見ないようにして通り過ぎた。
ふと、そういえば、過ぎ去ったあとはどうだろうとバックミラーをみた。
なんと!僕のすぐ真後ろにいた。
びっくりして思わず大きな声を出し、目をそらした。
はっきり顔がみえた。
老婆だった。
目があった。
人がいる比較的明るいところまで猛スピードで走り、ようやく落ち着いた。
それ以来、あの道を通るのをやめた。
しばらくして、昼間に通ってみたら、学校はとりこわされけど、街路樹はそのままだった。
数年たち、久しぶりに夜通ってみたが、外娼たちは一掃されていて、街路樹下からの視線も感じなかった。
それ以来、夜はまたあの道を通って帰るようになったが、まだバックミラーは見られないままでいる。
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