読書記録_007【ミシンの見る夢】
◆ 詳細
出版社:河出書房新社
【 https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309208206/ 】
著者:ビアンカ・ピッツォルノ
訳者:中山エツコ
◆ ポイント
・階級社会で女の子が手に職をつけて生きてゆく
・ご都合主義的で爽快な展開はないが、とても読みごたえがある物語
・著者は「あたしのクオレ」などの児童文学作品を手掛けたイタリアの女性作家。本書は大人向けの内容ではあるが、中学~高校生も読めると思う。
◆ 感想
昔のイタリアのお針子(サルティーナ)のお話である。
物語の中の男性優位や階級社会の様々な厳しさは、現代から見ると信じられない描写も多々ある。
しかしフィクションとはいえ、著者は自らの思い出や人から聞いた話、当時の新聞などからヒントを得て書いたという。きっと似たような出来事や事件はそこかしこで起こっていたのだろう。
本書についている帯の「お針子は、見た!」のキャッチコピーは、いささか軽率に思えて苦笑してしまったが、当時のお針子は他人の家に出入りして仕事を請けていたため、某有名ドラマの家政婦と同じように(意図せず)その家の複雑な事情を垣間見てしまうこともあったようだ。
主人公は当時の様々な家の事情を垣間見、時に事件や思惑に巻き込まれる。そんな時、身寄りのない彼女の助けとなるのは祖母から受け継いだ技術と誠実さ、そしてその仕事を通じて得た信用と交友関係である。
自分は「技術や知識を身に着けることは、翼の精度を高めること(=選択の幅を広める)」ととある方に言われたことがある。
けれど今よりも時代が下れば、選択の幅どころか「なんとか食いつなぎ、生き残るすべ」だったのだと痛感する。
明るい話だけではない物語だが、いつも主人公に救いの手を差し伸べてくれる年上の友人・エステル嬢の存在はとても爽快で、読み手にとっても救いである。
エステル嬢は、年若い主人公に「ほんとうの愛など小説にしか存在しない」と痛感させてしまうエピソードの一因ではあるが、自由に旅行をして様々なものを見聞し、時折帰ってきては素敵なプレゼントを贈ってくれ、外の世界を垣間見させてくれる。
主人公がエステル嬢の信頼を勝ち得たのは、お針子としての仕事ぶりだけでなく、一番悲惨な辛い瞬間に立ち会い、守り、支えたのが大きい。
エステル嬢も主人公が一番の苦難に陥った時、富豪令嬢としての権力を最大限に振りかざして助けてくれる。
生きるすべは技術や知識だけでない。
こつこつと築いた友情や信頼関係も命綱なのだ。
(エステル嬢だけでない。幼いアッスンティーナが物語終盤で意図せず発揮した小さな偶然も、結果として主人公を救った)
主人公と青年グイドとのロマンスも素敵なのだが、富豪令嬢のエステルやプロヴェーラ家の女性たち、恐ろしいドンナ・リチニアといった女性の登場人物の存在感と比べると、どうしても敵わない。
たぶん、これがロマンス小説ではない、女性の静かなしたたかさを描いた物語だからだろう。