読書記録_002【思いはいのり、言葉はつばさ】
◆ 詳細
出版社:アリス館
著者:まはら三桃
装画:まめふく
【 出版社URL: http://www.alicekan.com/books/post_183.html 】
◆ ポイント
・中国の女書(ニュウシュ、女文字)をテーマにした物語
・装丁や装画が物語の内容と見事に調和しており、品があって可愛らしい
・小学生向けの児童文学なので、大人ならば短時間であまり体力を使わずに読める。(むしろ色々と人生で経験をしてきた大人の女性にこそ響く内容である気がする)
◆ 感想
女書は中国南部で主に女性の間だけで用いられてきた文字だという。
女性が文字(漢字)を習うのを良しとされてこなかった時代、女性の間だけで密やかに使われてきたという文字があった、というだけでも興味をそそられる。
現在、女書は失われつつある文字だという。美しい文字が失われるというのは大変残念なことなのだが、裏を返せば女性が学ぶことを禁じられ、抑圧されることが減ってきたという証でもある。
(そのような時代があったということを記憶に留めておくためにも、そんな歴史を繰り返さないためにも、廃れさせてはいけないのだけど)
主人公チャオミンの微笑ましい成長を軸に物語は紡がれ、時折、チャオミンの母や姑の関係、そして少女たちの結婚への不安がアクセントのように影を落とす。
“辛いときは、書きましょう
苦しいときは、歌いましょう”
これはチャオミンの母親の言葉だ。
辛い現実や古い慣習、他人の心は変えることは難しい。けれど自分が持ちうる手段で心を解き放ち、困難を受け流すことは出来る。力づくで嵐に抗う方法もあるが、柳のようにしなやかに受け流すことも生きるすべである。
この物語はそれを再認識させてくれたし、一番心に残った。
また、本書は章のタイトルのつけかたが秀逸である。
「女書」と検索していただければすぐに画像を見ることが出来るが、女書は繊細で流れるような書体が特徴的で、優美に伸びる「蔓(つる)」のようにも見える。本書は三章構成となっており、その三つの章のタイトルは「蔓」とチャオミンの成長をなぞらえているようで著者の感性やセンスの良さを垣間見ることが出来た。