とうきび
とうきび、ってなんだか分かりますか。
そう、とうもろこしです。
分かったあなたはずばり、北海道もしくは東北出身ですね。
関東では少し旬は過ぎたものの、スーパーではまだまだ見かけるとうきび。
我が家では
皮を少し残した状態でラップに包んでレンチンか、芯ごと炊飯器にぶちこんで塩を振って炊く。
美味しい食材に複雑な手間はいらんのだ。
上京したての頃は「とうもろこし」なんて言わなかった、長いし馴染みがないし。
実家ではよく母や祖母が夏になると畑でとうきびを育てていて、毎年すごい量のとうきびがとれた。
母がキッチンで寸胴のような大きい鍋に何本もとうきびと大量の塩を入れて茹でる。キッチンにはなんとも言えない柔らかい香りと共に、茹でたてのとうきび達が大皿の上で湯気を放っていた。
それをハムスターのようにガシガシと食べるのが好きだった。
話はそれたが、つい最近スーパーでとうきびを見かけて、ふと自分の口から出たのが「とうきび」ではなく「とうもろこし」だった。
無意識に出たその言葉に驚いた。
つい去年ごろまでは「とうきび」だった気がする。
でもその時、口からついて出たのは「とうもろこし」だった。
それからこの野菜を見かけるたびに真っ先に出てくる言葉は「とうもろこし」になった。
ここ数日間そのことについて薄く考えていた。
とうきびじゃなくてとうもろこしって言った自分に軽くショックを受けていた。
自分の中で故郷が薄らぎはじめているのかもしれない。
上京から約10年の時をかけて、波で岩肌が削れるように少しずつこちらの土地に身体がなじみ初めている。
なんともいえない気持ちになった。
思えばまともに実家には帰っていない。
諸事情があり実家には子供達を連れて帰ることができない。
なんだか寂しいような、仕方のないような。
自分がどこの人間でもないような、僅かな喪失感がないわけでもない。
どこかのタイミングで地元に戻っていれば、と考えたこともあったけど
上京したことで夫に出会えて子供達も授かることができたことを振り返れば
今の人生は100%正しかったと言い切れる。
小中高生のころ、あれほど出たいと思っていた地元が恋しくなるなんて思ってもみなかった。
地元に住むことはなくなってしまったけど、時々思いを馳せながら子供達がもう少し大きくなったら地元に帰ってみようかなと思っている。