『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』の話
どうも、私です。
今日は、「第14回 シネマ歌舞伎の話」をします。
格好良すぎて、頭抱えるよね。
お付き合い下さい。
◆
姉「もうさ、ポスターの時点で優勝やん」
と予告編のみならず、ポスターのデザインに姉が感動したのが、
『歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉』
『劇団☆新感線』のいのうえひでのりさんが演出、中島かずきさんが脚本を担当した本作は、
大和朝廷に抗う蝦夷の長・阿弖流為(市川染五郎さん(現・松本幸四郎さん))
かつて、阿弖流為と愛し合っていた女・立烏帽子(たてえぼし)/鈴鹿(中村七之助さん)
民に慕われる、若く真っすぐな大和の武人・坂上田村麻呂(中村勘九郎さん)
を中心に物語が展開されるのだが、ポスターのスタイリッシュさもさることながら、予告編で繰り広げられた殺陣の美しさに、私達は目を奪われた。
姉「というわけで、見に行きましょう」
私「行きましょう」
母「お母さんも、行きたいけど」
もはや、恒例と化したやり取りをし、私達3人は映画館へ出かけた。
※ここからは、ネタバレがあります。ご注意下さい。
スタイリッシュな殺陣
本作には、スタイリッシュな殺陣が数多く登場する。
開幕早々、踊り子に変装していた立烏帽子は、自身の名を騙る偽物達と対決。
そこに駆け付けた田村麻呂、北の狼と名乗る阿弖流為も参戦するのだが、三者三様の戦い方、殺陣に息をのんだ。
立烏帽子は踊りのように美しく、田村麻呂は荒々しく、阿弖流為は只者ではないと思わせる身のこなしだった。
姉「3人共、格好良い」
私「歌舞伎では、あまり見られない殺陣だね」
母「スタイリッシュ」
他にも、自身の過去を思い出した阿弖流為が、蝦夷の神・荒覇吐(アラハバキ)の遣いと対峙。白く大きな獣の姿をした遣いを相手に、見事な殺陣と見得を披露するのだが、その姿は圧巻だった。
姉「染五郎さんのことが、好きになっちゃう」
私「また1人、お姉ちゃんの推しが増えましたね」
姉「ありがとうございます」
母「感謝してるもの。笑」
大和朝廷に渦巻く陰謀
また本作は、阿弖流為だけでなく、田村麻呂にも大きく焦点が当てられている。
右大臣であり、田村麻呂の伯父・藤原稀継(坂東彌十郎さん)と田村麻呂の姉で帝の巫女・御霊御前(市村萬次郎さん)から、征夷大将軍の命を受けるのだが、阿弖流為を認めていた田村麻呂は苦悩。
正義感に溢れる田村麻呂は、最終的に引き受けるが、稀継と御霊御前にその正義感を利用され、陰謀へと巻き込まれていく。
この時の田村麻呂の苦悩し、信頼していた稀継と御霊御前に傷つけられる姿は、見ていて苦しかったし、稀継と御霊御前の2人には、本気で苛立ちを覚えた。
姉「私達が歌舞伎で見るときの彌十郎さん、大体こんな役ばっかり」
私「『鰯賣戀曳網』くらいじゃない?いい人だったの」
姉「いい人を演じる彌十郎さんを下さい(?)」
私「直ちに(?)」
母「腹立つなぁ……」
姉「お母さんが、本気で腹立ってるもの。笑」
コミカルな場面もある
蝦夷と大和朝廷の争い、阿弖流為と田村麻呂の互いを認め合う姿、阿弖流為と鈴鹿の恋を描いている本作の空気は、基本的に重い。
そんな中でも、クスッと笑えるコミカルな場面はいくつか存在しているのは、ありがたい。
蝦夷の村で再会した、阿弖流為の幼馴染・蛮甲(片岡亀蔵さん)が、くま子(人間ではなく熊)と過ごしているのを見た鈴鹿が、手を挙げる。
鈴鹿「はい」
蛮甲「何だ?」
鈴鹿「何で熊がいるの!?誰も突っ込まないから、聞きますけど!!」
蛮甲「熊じゃない、くま子だ。俺の妻」
鈴鹿「妻!?」
蛮甲「熊はいいぞ(ドヤァ」
というやり取りが繰り広げられたときは、思わず笑ったし、阿弖流為と田村麻呂が御霊御前と結託している禅師・無碍随鏡(澤村宗之助さん)に対して、互いに大見得を切る場面では、
「高麗屋!」
「中村屋!」
と演者同士で声援を送り合っていて、
随鏡「何で、そんなに大見得を切りたがるんだ!」
と突っ込まれると、阿弖流為と田村麻呂は互いに顔を見合わせた後、答えた。
阿弖流為、田村麻呂「性だ(ドヤァ」
こういう場面、大事。
また、蛮甲は片岡亀蔵さんが演じているだけあって(?)、すぐ誰かしらを裏切っては寝返りを繰り返していたのには、姉と顔を見合わせた。
姉「亀蔵さんの時点で、怪しいとは思った(?)」
私「やっぱり、そうなるよね(?)」
母「蛮甲、寝返りすぎじゃない!?笑」
立烏帽子/鈴鹿の秘密
互いを愛したが故の過ちにより、記憶を失っていた阿弖流為と鈴鹿。
再び出会った2人は、互いの存在と過去を思い出し、かつてのように同じ時間を過ごしていく。
しかし、鈴鹿には秘密があった。
稀継の手によって、瀕死の重傷を負い、目も見えづらくなってしまった田村麻呂。
それを助けたのは、1人の女。
田村麻呂「名前は?」
女「鈴鹿といいます」
田村麻呂「鈴鹿……」
女「蝦夷の阿弖流為様に恋をし、そのときに犯した過ちにより荒覇吐という神の怒りを買って、ここから出られなくなってしまったのです。今でも、あの方を思い出します」
そう悲しげに笑っていた鈴鹿と名乗る女は、田村麻呂を追ってきた佐渡馬黒縄(市村橘太郎さん)に殺されてしまう。
阿弖流為からもらったという首飾りを、田村麻呂に預けて。
目が見えるようになった田村麻呂は、亡くなってしまった鈴鹿の体を抱きながら、
田村麻呂「ではあの立烏帽子は、鈴鹿は誰なんだ?」
と呟く。稀継率いる軍と戦っていた阿弖流為と鈴鹿に合流した田村麻呂は、稀継の思惑と鈴鹿のことを阿弖流為に話す。
阿弖流為「お前は誰なんだ?」
そう問われた鈴鹿は、それまでとは違う冷酷な目で応えた。
「私は、荒覇吐」
姉「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
私「そういうことかぁぁぁぁぁ!!!!!」
まさかすぎる展開に、衝撃が走る。荒覇吐は、
「なぜ、私の為に闘わない?なぜ、私を愛してくれぬ……?」
と叫び、阿弖流為や田村麻呂と壮絶な戦いを繰り広げるのだが、その姿はどこか切なくて泣きそうになった。
そして阿弖流為は、荒覇吐を倒し、神殺しとなった。
阿弖流為と田村麻呂の絆
蝦夷の為に、と朝廷にやって来た阿弖流為。
田村麻呂との話し合いで、和睦を決意したからであったが、それは御霊御前の策略によって阻止されてしまった。
朝廷のやり方を見て、怒り狂った阿弖流為はもはや人では無くなり、ついに田村麻呂との対決となる。
田村麻呂「偽物の国を守るのには偽物の剣で充分だ」
と出会った時からそう笑い、刀を抜くことはなかった田村麻呂もこの時ばかりは刀を抜き、阿弖流為と対決。
互いに、本気で向き合い、刀を振るった結果、田村麻呂が阿弖流為を討った。
阿弖流為「覚えておけ!これ以上、蝦夷に手を出すときは、俺は祟り神となり、この都を呪う!」
田村麻呂「…分かった!」
阿弖流為の最期の言葉を聞いた田村麻呂は、勝利を喜ぶ御霊御前に宣言する。
田村麻呂「これより北の国は、征夷大将軍・坂上田村麻呂が預かる!私でなければ、祟り神、阿弖流為の力は抑えられない!この朝廷にも、禍が及ぶぞ!」
こうして平和が訪れ、阿弖流為と田村麻呂を模したねぶたを前に、人々は賑やかな時間を過ごし、それを阿弖流為と鈴鹿は寄り添い、見守っていた。
終演後。
姉「染五郎さん♡」
私「乙女なんよ」
母「惚れてもうてるやないか。笑」
姉「最後、染五郎さんがカメラに向かって手振ったの可愛い♡」
私「七之助さんも手振ってたね」
染五郎さん、勘九郎さん、七之助さんの色気に頭を抱えながら、私達は劇場を出た。
姉「ほんで、亀蔵さんは『ナウシカ歌舞伎』のクロトワといい、寝返るねー。笑」
私「蛮甲もクロトワも、最終的には元に戻るとはいえ、寝返り過ぎやろ。笑」
姉「寝返らない亀蔵さんも見たいわ(?)」
私「確かに(?)」
母「彌十郎さんも、腹立つわー」
姉「七月大歌舞伎の『俊寛』でも悪役だったしね」
私「今回も、圧倒的悪役だったね」
常に寝返る人扱いになってしまった亀蔵さんと常に悪役扱いになってしまった彌十郎さんのことを想って、苦笑していると姉が言った。
姉「言っていい?」
私「どうぞ」
御霊御前みたいな見た目と喋り方のババア、いるよね。
いるけど、ババアはやめなさい。笑