『春興鏡獅子』の話

どうも、私です。

昨年はお世話になりまして、ありがとうございました。
本年も、よろしくお願いいたします。

さて、今日は「第8回 シネマ歌舞伎の話」をします。


シネマ歌舞伎を見始めてから、初の舞踊物です。


お付き合い下さい。

1度は、見ておけばよかったと後悔していた人がいる。


中村勘三郎さんだ。


以前にもチラッと触れた通り、俳優祭で上演された『灰被り シンデレラ』での継母・金子を演じる姿を映像で見た私。

その時の、灰被り・お国(坂東玉三郎さん)とのやり取りが、

お国「申し訳ございません。奥様、お嬢様方。私、お勝手の掃除を、あ、お台所の掃除をしておりました」

金子「あんた、お勝手かお台所かどっちなんだい!大体、あんたね、ムカつくのよ!笑」

お国「笑」

客席「笑」

と、玉三郎さんとの実際の上下関係を無視したアドリブ全開の台詞だった為、私もTVを前に爆笑し、最後まで食い入るように見た。それまでの勘三郎さんについては、バラエティー番組で見ていたのもあって、


明るく陽気な笑顔を見せる、歌舞伎役者さんだなぁ。


と思っていたし、俳優祭を見ているときもそれは変わらなかった。


きっと、勘三郎さんの演目は面白いだろう。

彼が演じる演目を1度でもいいから見てみたい。


そう思う頃に、勘三郎さんは亡くなり、また、
「歌舞伎は敷居が高いから、私のような人間としてまだまだ未完成な人間はお呼びじゃない」
という謎の考えもあって、姉が『シネマ歌舞伎』を見つけてくれるまで、歌舞伎に対する興味はあっても行動に移すことはなかった。


だから、お姉ちゃん、ありがとう。←


そんなヘタレ人間の私に、チャンスがやって来たのは昨年冬。
『春興鏡獅子』が上映されることになったのだ。

姉「勘三郎さんの舞だよ!」

私「絶対見ます!」

実は、勘三郎さんが主演の作品、『野田版 鼠小僧』が少し前に上映されていたのだが、運悪く時間が合わなかった私達姉妹。

だから、勘三郎さんの舞が見られると知った時、絶対見たい、と思った。



※ここからは、ネタバレにご注意下さい。



  • 改めて知る、中村勘三郎という歌舞伎役者

作品によっては、上演当時を振り返るインタビュー映像や演目のメイキング映像が冒頭で流れることがある『シネマ歌舞伎』。
今回は、勘三郎さんの歌舞伎役者としての人生や『春興鏡獅子』に対する思いを紹介するドキュメンタリー映像が流れた。


中村勘三郎という人は、歌舞伎を心から愛し、沢山の人から愛された、太陽のような人だったんだな。


とドキュメンタリー映像を見終わる頃に感じたその時、幕は開いた。



  • 舞台は、大奥

正月七日の『御鏡餅曳き』の日、お小姓・弥生(中村勘三郎さん)は奥女中達に踊るように勧められる。

『御鏡餅曳き』とは、諸家諸侯より献上された正月の鏡餅を『お舟』と呼ばれるそりに載せ、それを御膳所の役人や下男たちが大奥の中で引回し、また引回すにあたって賑やかな音曲や仮装などの余興を伴うという行事のこと。普段は将軍以外男子禁制ですが、この日は御鏡餅曳きとして立入る事が出来たそうです。

奥女中達「踊ってよ」

弥生「嫌だぁ」

と押し問答を何度もした末、弥生は踊ることを決意。

弥生「仕方ないなぁ…」

と恥ずかしそうな表情は見せるものの、いざ踊って見せるとその舞はとても美しい。
振り袖の袂を使った振りから手踊り(小道具なしの舞)、2枚の扇子を手に取り、季節の移り変わりや牡丹の花が咲く様子を舞ってみせるのだが、扇子をくるくると回してみたり、右から左へと投げてみたり、と曲芸のような舞を見せる場面があって、とても鮮やかだった。


そりゃ、こんなに素敵な舞だったら見たいわな。



  • 獅子頭に宿る魂

舞を披露する中、弥生は獅子頭を手にする。
獅子が住むという清涼山の石橋が深い谷底に掛かる様子を舞っていたその時、どこからか飛んできた蝶が獅子頭に止まった。

すると、獅子頭が生きているかのように蝶を追いかける素振りを見せるのだ。
弥生が舞っているからではなく、自らの意思を持って。

戸惑う弥生が、そのまま獅子頭に引かれるようにして花道を退場すると、今度は胡蝶の精(片岡千之助さん・中村玉太郎さん)が現れ、鈴太鼓と鞨鼓を使った舞を披露する。


この舞が、まあ可愛い。


千之助さんも玉太郎さんも、子役が演じるには難しいであろう舞を難なく舞っていたのだが、何より、千之助さんが見せる流し目や仕草がすでに仕上がっていて、

姉「子役でここまで出来るの、凄いな」

私「これは……」

と心から感動した。



  • 荒ぶる獅子

胡蝶の精が可愛らしい舞を見せた後、花道から獅子の精(中村勘三郎さん)が登場。

姉、私「格好いい……」

その勇壮な姿と荒々しくも、美しい舞。
獅子の精と戯れるように舞う、胡蝶の精。
3人の見せる舞に、私はただ圧倒された。

そして何より、『狂い』が凄かった。
(獅子の毛を大きく勇壮に振る場面のこと)


映像で見るだけでも相当な感動を味わったのだから、生で見たらきっと倒れるだろうな←


と思いながら、私は勘三郎さんの姿をじっと見つめた。
そして、今回、この舞踊物を見られたことに心から感謝した。



終演後。
私達は、しみじみと感想を話し合った。

姉「美しかった……」

私「舞踊物もいいですな……」

姉「勘三郎さんはもちろんだけど、玉太郎さんと千之助さんも凄かったな」

私「子役であの舞は、凄い」

姉「でも、やっぱり、勘三郎さんは凄いな」

私「あの人は、本当に凄い」


本当に、太陽みたいな人だったな。

そうだね。




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ひやむぎ
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