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少女と竹箒
同級生と較べても
ちっちゃな少女は、
自分の身体よりも大きな竹箒を
そのちっちゃな手のひらで握り締めていた。
お昼休憩の後の、掃除の時間。
人通りの少ない旧校舎の近くにある側溝。
溜まりに溜まった落ち葉を
ひとり真剣に掃いている。
同じ掃除班の子たちはお喋りに夢中で、
ちっとも掃除を手伝ってくれない。
咎めることもなく
ぼんやりとそんな事を思った後、
ちっちゃな唇をむ、と突き出して
再び竹箒を握り直す。
あ、先生がちりとり持ってきてくれた。
先生、
落ち葉掃いても掃いても全然集まらないよ。
秋は毎日お掃除するのが大変ね。
でも、
いつも頑張って掃いてくれてありがとうね。
思えば、
いつもこうしてひとりで地道に頑張っていた。
真面目な彼女は、
周りがどれだけふざけようと、掃除をサボろうと
やるべき事はちゃんとやった。
周りにそれを押し付けることもせず、
ただ黙々と。
本人はそれを当たり前と思って、
平気な顔をして日々を過ごしていた。
損な性格だとか、苦労人だとか
そんなことを歳上の子たちに
憐れまれたりした。
サボってるのがバレなきゃいいじゃんとか
真面目にやったって疲れるだけだよとか
そんなことを同級生に言われたりもした。
そうなのかなぁ、そんなもんなのかもなぁ。
この世界には
"世渡り上手" なんて言葉もあるのだし、
確かに「上手くやる」ことも
賢く生きる方法として間違ってないのだと思う。
でも、あの子たちは知っているだろうか?
こうして丁寧に、手をかけて
一生懸命頑張っていると、
君たちには見えない世界が
ふいに現れたりするんだよ。
掃除中
落ち葉を掃くことに夢中になりながらも、
たまに顔を上げては
綺麗な空だなぁ、とか
秋の匂いがするなぁ、とか
そんなことをのんびり考える。
いつも一生懸命で、だけどかなり呑気で
真面目なだけじゃない少女は
同級生の知らない景色を
そのまぁるいの瞳で見つめていた。