【感想】佐原ひかりさん『ブラザーズ・ブラジャー』
佐原ひかりさんの新刊が出たということでデビュー作にもう一度触れたくなり再読した。文庫化もされたとのことで!
まず、佐原ひかりさんのつくり出す登場人物が好きすぎる。小説の中の人物で、境遇は全然違うはずなのに、とても近く感じる。絶対誰かのファンになる。推しができる。もしくは、全員好きすぎて選べない。今回は、後者。
心に刺さった文はたくさんあるのだけれど、一つだけピックアップしてみようと思う。
『これから幾度となく、わけわかんない、と目をむき合うに違いない。でも、わかろうがわかるまいが、ただ、それらを知っていくだけなんだと思う。』
多様性を重視する世界の中で、みんなの事を理解するべきだ、理解できる人はよい人みたいな雰囲気があるが、自分の全部を話しているわけでもないのに上っ面で理解なんてできるかいなと正直思う。そうじゃなくて、
『知らないことを知る。』
それだけのことなんだって物語を読んでいく中で改めて感じた。理解しようとする努力も大切だけれど、自分だけのものって他人が100%理解できる事じゃない。だから、理解しているフリをするのではなく、“あなたはそうなんだね”って受け入れる、あなたを知る。知らなかったあなたのもう一つの窓から覗いて、“こんな景色もあったんだ”って想いを馳せる。そういう自然な流れでいいはずなのに、人間は難しく考えてしまうんだろうなあ。
題材はすごく難しいことのはずだけれど、こんなにも爽やかに気持ちよく読めるもんなんだなあ。小説ってフィクションだけれど、だからこそ、一冊一冊それぞれの世界を擬似体験できて、自分の考えや思いを振り返ることができて、って思うと体験してみたい世界が多過ぎて一生かかっても読みきれない。