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発達障害児の親は、なぜ「幸せ」を見つけやすいのか?
先日、マリさんのこんな記事を読んだ。
日常の何気ないひとコマを綴った記事だったのだが、なぜか無性に「良い記事だなあ」と感心してしまった。
それは、おそらく「身近な小さな幸せ」がとても綺麗に表現されていたからだろう。
身近な幸せについて考える
自分の暮らしの中で「身近な幸せ」と言えば、やはり子供たちと過ごす日常だ。
私が仕事の日に起こった出来事は、いつも妻が伝えてくれる。
妻は、日常の小さな幸せを見つけるのが得意だ。
発達障害の息子たちの育児は大変なことも多いはずだが、彼女が話してくれるのは決まって「幸せのひとコマ」だ。
そんなことを考えていると、ふと気づいた。
「発達障害児の親は、身近な幸せを感じ取る力が強くなるのでは?」
この仮説には、恐らく科学的な根拠があるのではないかと思い、色々と調べてみた。
※(あくまで「発達障害児の育児は大変だ」というのは私の家庭内での実感であり、すべての家庭に当てはまるとは限らないことをご了承いただきたい。)
1.対比効果(Contrast Effect)
人間は環境の変化に敏感で、過酷な状況から少しでも良いことがあると、その違いを強く感じる。
この現象は、心理学で「対比効果(Contrast Effect)」として知られている。
研究によると、人間は物事を絶対的に評価するのではなく、直前の経験や周囲の状況と比較して認識するという。
例えば、長い間空腹だった後に食べる食事が、普段よりも美味しく感じられるのは、この効果によるものだ。
発達障害児の育児においては、
「指示が通らないことが多い」中で、初めてこちらの言葉に反応してくれたときの喜びは、通常よりも大きなものになる。
といった形で考えられる。
育児の困難さが大きいほど、小さな成長や成功が、より強く心に響くのだ。
2.適応レベル理論(Adaptation-Level Theory)
私たちは日常の基準に慣れてしまうが、極端に厳しい環境ではその基準が下がり、わずかな快適さでも強く幸福を感じるようになる。
例えば、戦場や極限状態から解放されたとき、普通の生活の些細なこと(温かいシャワー、静かな部屋)が非常に贅沢に感じられるのはこのためだ。
「大変なこと」が基準になっているから、小さなことでもありがたく思える。
というのが、適応レベル理論(Adaptation-Level Theory)だ。
日常生活で例えるとするならば、
「外出時にパニックになりやすい」子が、スムーズに買い物できた日は、それだけで達成感を感じる。
というのが分かりやすい。
健常児なら当たり前のことが、特別な喜びに変わるのだ。
3.報酬系の反応(ドーパミン・エンドルフィン)
過酷な環境ではストレスホルモン(コルチゾール)が増えるが、その後リラックスできる瞬間があると、脳の報酬系(ドーパミンやエンドルフィン)が強く反応し、幸福感が増す。
例えば、極寒の中で暖を取ったとき、通常よりも心地よく感じるのはこのためだ。
日々のストレスが多い分、成功したときの幸福感は強くなる。
ドーパミン報酬系(脳の「報酬回路」)は、期待していなかったポジティブな出来事が起こると、通常よりも強く活性化することが分かっている。
例えば、なかなか喋らなかった子どもが突然単語を発したとき、親の脳内では通常の何倍もの喜びが生まれる。
発達障害育児においても、「想定外の成長」があったとき、報酬系が強く反応し、喜びはより大きくなる。
日々の苦労が多い分、ちょっとした成功の喜びが、より強く感じられるのである。
「小さな幸せを感じる能力」は個人差がある
こうした現象は科学的に裏付けられているが、それをどう受け取るかには個人差がある。
実際、自閉症育児を「苦痛」と感じるかどうかは、その人の視点や考え方に大きく左右される。
たしかに、楽しいとは言えないことも多い。
だが、
「この子なりに成長している」と思えるか
「どうしたらこの子に合う方法が見つかるか?」と前向きに考えられるか
「理解者とつながれるか」
こういう要素があると、少しずつ「小さな幸せを感じる力」が鍛えられていくのかもしれない。
最後に
発達障害児の親の中には、人一倍幸せそうにふるまっている人がいる。
それは決して虚勢ではなく、その人の「幸せを感じ取る能力」が育まれているからなのだろう。
私も、周りの小さな幸せを一つずつ拾い集めていける、そんな親になっていきたい。
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