「平造夫妻」11 お役目編 「仮面の忍者赤影」青影・陽炎の両親のお話 R18 1822文字
天高くに上がる火柱の皮膚を焼くような炎の熱気に、三人は見惚れていた
九侖に地翔は忍び装束に覆面の上からでも分かる熱気に少々圧倒され、たち吉は冷えた夜気のせいなのか彼らよりも一歩前に出ていた
火から生まれた龍の腹を見ている気持ちに、辺りには、場にそぐわない春風のように薫る芳しい甘い匂いがしはじめていた
三人が、三人とも心奪われいた
忍びでお役目も十分にしてはいても、なんとも言えない甘い匂いに、赤い炎の熱気に引き寄せられる蛾のように、飛び込みたくなる気持ち迄、三人揃っていた
たち吉が、ふらっと一歩前に出る
その時、背後からたち吉に峰打ち一つで、地面に転がす静
九侖、地翔二人は、平造に素早く後ろ首を突き刺され倒れ、平造と静は炎の明るさが届かぬ、闇に消えていく
そこへ門兵と上忍の忍びが、到着する
平造と静が、目を細め見ていた
動きで、上忍とわかるその様に
庭のほぼ中央で上がる火柱の前に、倒れている三人
炎の音以外は、異様な静けさを思う
雨戸の閉じてない御殿
巨大な炎で照らし出される広間の、地獄の底を見るような酸鼻に息をのむ二人
殿一族の事は、頭領飛影に耳打ちされていた
一茶と正門に来た時に、簡単に告げられた
「殿が切腹をされていた。介助は誰がされたか分からぬ。ご兄弟長子、お子達もご正室、側室も。どのような事があって、あの結果になったかわからぬ。妖術師も亡くなっておる。詳しくは九侖と地翔に聞くとよいが、今聞いた事を少し詳しく聞くに終わるが」と伝えられた
信じられぬ事で、面食らった
その九侖と地翔は、手練れで炎の前で倒れている
まだまだ寒い山の春、炎の明るさに皮膚が干りつくような熱さに、甘い匂いに心惹かれる余り、自分が回りの闇と同化し固定した景色のように思うも、すぐに倒れている三人の心配と火事ではない安堵さが、気を引き締めさせる
慌ててきた
慌ててきたのに、これはと思う
天に登る勢いの炎に、なんの意味があるのだと思う
火事の心配はあれどと思うと同時に、我ら里の雑木林の外から、妖術師の仲間が来る合図か?我らを囲う為の合図か、と考える
が今日里に、そのような人々を見なかった
だが、この時期里の桜を見たさに、訪れる近隣の村の人々の数も多い。まさかと考える
雑木林は、この炎で手薄になってるはず
火を消さなければと
今日の用心に、いつもに比べ多く配置させていたものの
我らを囲む人数は考えられず、今思った事は気のせいと思うも、敵を侮るな、敵を侮るなと十兵衛の頭の中で声が響く…
近くで見れば見る程勢いのある炎に、龍のごとくと高く魅やる炎に、甘い匂いに、頭の中が痺れてくるように感じるのを、また再度気を引き締め思った
「何があった?」
倒れている忍び二人を、身を屈め確認する頭領の右腕十兵衛、百道より十下であるが嗄れた声に驚愕と焦りがある
それも、そうである九侖と地翔があっさりと殺されている
首の差し口で、わかる
「この炎は、何があってこうなっている」
庭の炎で照らしだされた、雨戸の閉まってない御殿は広間の奥迄見えている
優先で、生きてる可能性のある方にと向けた後の驚愕に、十兵衛は自分の目がまだ信じられないでいた
門兵は、信じられぬ光景に声を上げそうになったが、目が泳ぎ出し、倒れているたち吉が目に入り、さっき迄一緒にいたたち吉に声をかけていた
「おい、おい。おい!」抱き抱えるようにして、ほおを叩く。よく見ると、どこも刺されているように見えず、兄貴分の門兵は忍び二人が倒れている様子に、少しは役に立てばと助太刀に来た気持ちも吹っ飛び、たち吉の胸に耳を当て心臓の音を聞き安堵する
少し弱まりつつある炎に照らし出される自分達に、御殿の広間、炎でよく見える夜の庭に、塀を超え次々と集まってくる仲間の忍び達に気づく十兵衛
安心もあれど、炎に気を取られ過ぎたと思う十兵衛
火事と思い急いできた忍び達は、火事でない事に驚くも安堵するも、倒れている三人に、門兵と十兵衛
巨大な炎で照らし出される広間の惨劇は、地獄絵図
皆目にした光景に、ぐるっと天地が一回転するように思う者、息が止まったように思う者、阿鼻叫喚が見えるような様に、伝令で聞き知る覚悟をしていた者もいるが、まだ伝令を知らず集まった者も多く、数々の修羅場の経験がある者達でも、心が驚愕に満たされるであろう
奇怪な死に様迄とは言えないが、自分達の足元が崩れ、存在意義を問われるような、沼地に足を突っ込み、ずぶずぶと下に沈み捕らわれるような絵図に驚愕でしかなかった
続く→
「平造夫妻」12 お役目編