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「平造夫妻」2 お役目編 「仮面の忍者赤影」青影・陽炎の両親のお話 R18 2101文字
「何を、戯けた事を申すか!」と家老の一喝と同時に、殿は切ってくれようの勢いで後にかけてある刀を手を伸ばし掴み、組んでいた足を崩し立ち膝になり(馬鹿な事を言う侍女だ、ならばさっさとかかれば良いものをと思い、口に出た言葉は)、
「今朝の、春に雪は予兆と思うたが、きさまを切れの合図のようだな」と、
刀を打ち下ろそうとした瞬間、殿の尻が落ち、直ぐに切腹の姿勢になり、着物を左右に開き、腰の脇差しを抜く
銀の刃はぎらりと光り、殿の驚いた顔とは反対に自身の動作で、脇差しで腹を刺し、刃を握り手で横一文字に一気に引き、呻き声と共にくの字の姿勢で倒れる殿
正室も側室、子供達も意表つかれすぎて声が出ないでいた
小さいお子達は、ただきゃっきゃと声を上げており
「殿、殿ーーーーー、殿、殿、殿」
家老が、大きく叫び
誰も、死を迎える予兆とは思わなかった
今朝の春に降る雪が
誰もが、領地の一族のよい兆しと思っていた
その直後、家老とは違う、何か大きな抵抗を振り切るような振り絞った大きな声が響く
「殿ーーーーーーーー」
その瞬間、殿の首がゴロリと、血飛沫と共に転がった
皆の目に視界に入ってはいても、殿の横にいる事に不思議のないその家臣は、城内で一、二を争う刀の腕の持ち主
だらりと力なく持つ刀には、血がべったりとついている
「殿!殿!殿ー」と、声を上げ、体の倒れた殿に駆け寄った家老は、直ぐに転がった殿の首に駆け寄る
血のついた刀を持っていた家臣も、吠え声のような叫び声を上げ、発狂しそうな勢いでいた
「あらあら、忠義の熱い」
とぼそっと、小さく呟く侍女
回りの女房に子供、殿の兄弟達も、殿がくの字に体を曲げ倒れた時、何も動く事がなかった
動けなかった
誰もが脳裏に、桜に降り積もった雪を、日が高くなり、また雪が舞うように降り、散る桜とあい混ざった目にした光景を一瞬、一瞬、一瞬を繋ぎ合わせるように思い浮かび、その事と連動するように、これは真の事かと、それぞれの顔に浮かんでいたのが、殿の首が、殿の倒れた体からどくどくと血の流れる中転がったことで、家老の殿と叫ぶ声で、全員が連鎖反応のように声を上げていた
殿に頭を下げた侍女が、一番近い三男の脇差しを抜き、襖を手をかけた家臣に投げ付け、背中から胸に刺さり、襖に寄りかかるように倒れ動かない
「きゃぁーーーーーー」と
また一斉に、侍女達の叫び声が上がる
持っていた膳を落とす音に、お椀や中身が飛び散る音に、逃げようとして、転がってる膳につまずき転ぶ者、出て行こうとする者達を、脱兎の勢いで家臣を侍女達を、一番近い長子の小刀を抜き刺していく、侍女の動きは早く軽い
殿の弟兄弟2人が、すくっと立ち上がり、すすっと歩いたかと思うと、二人揃って、月の形を見せるように刀を抜き、一人は城主の元服の済んだ長子が命乞いする間もなく切りつけ、もう一人は殿の女房の横のまだ三歳にならぬお子の頭半分を切り飛ばす
盃のように転がる、幼児の眉から上の頭
奥方、侍女一斉に声が上がり、家臣達は度肝を抜かされいた
広間に広がる、殿以外の血
花が開いたように芳る幼子の血
突如、血の匂いに戦で他人が斬った血が、顔に、口に、鼻下にかかる事を気にした事はない。必死で煩わしいと思ったこともないが、あの興奮、あの時の血の味、口についた血を舐め、鼻についた血を嗅ぎ、記憶を引き出すような幼児の血に
喉奥に流し込みたくなったのか、目の色を変え、自分の本性に目覚めたようにお子の体を引き寄せようとした家臣が瞬間、静の刀に召される
幼児の頭を刀で吹き飛ばした弟の殿は、続いて女房の隣の九歳のお子の頭に、刀を突き立てる
二人の主君が切りつける刀で、次々と身体が欠損していく子供の手足に身体
切れ味の鈍った刀を、ちっと一振りし、自分を見上げるまだ小さな手のお子の眉間に突き刺し、空に舞う凧のように振り回す
大空に、戦で掲げた旗が共に靡いているように見える光景に、侍女も家臣も息を飲む
戦に慣れた家臣達も、直ぐに動けないでいた
殿ご兄弟を、お子達を止めるのに切るしかないのかと、直ぐに刀が抜けずにいた
弟家族の元服の済んだ長子が、次々と血に飢えた刀に、餌を与えるように家臣にかかっていた
殿の御兄弟の奥方達は、自分の夫の戦場での野蛮さを、非道さを理解した
何か常軌を逸してると思う、通常ではないと
だけど、戦をする者は、血を欲しがっているから、血の匂いを嗅ぎたがっているから、戦をわざわざすると言う気持ちが心いっぱいに広がる
夫が戦を出る度に「ご武運」を「勝ってお戻りに」と言っていた事をまざまざと後悔する
何度も、勝って帰って来た事を頼もしく思った事が、これと思った
巻き添えにあった村人達の事を思う
戦等、止めるべきであった
血の上に成り立った、自分達と思う
自分の夫が血を欲しがり、血の匂いを嗅ぎたがっている目のギョロつき、歪んだ顔を目の当たりにし、ひっと怖れ慄き、夫の刀の餌食となる瞬間、耳に法螺貝の音が、落馬する兵士の音、馬の恐れいななく鳴き声、舞い上がる砂の場所に自分がいるような幻に、聞こえないはずの合戦の音が聞こえるように思う音を塞ぐように、なすすべもなく耳に手をあてようとしていた
続く→
「平造夫妻」3