「平造夫妻」5 お役目編 「仮面の忍者赤影」青影・陽炎の両親のお話 R18 2320文字
この時、月は白く空に上がっていた
桜の時期の酉の刻、ちょうど日は沈み
桜の時期と言っても、夜は冷え込む春の山
集まった五人の忍び、すでに御伝の広間の前におり、頭領の飛影が二度と指笛を短く鳴らすも、応答はない
今日は、玄流斎殿に主君の弟二家族と、正室と側室にお子達が揃っての日
だからこそ二人、腕のある忍びをつけていた
開け放たれた戸に、障子
うつ伏せや仰向けに倒れている無数の家臣に
侍従達
動いている者の気配のない、静寂
月は見え隠れし、雲ばかりが流れ
月明かりと、広間の三つ程の灯し火と
門の前の篝火から火を拝借した松明一本の火
日は少し前に落ちたと言っても、まだ然程暗くなくとも広い大広間、そこまで月明かりが広間に入る訳でもなく、闇に慣れた忍びの目であっても、刻々と夜の色に沈んでいく空の色に見るには厳しく
はっきりとは見えなくとも、取り替えたばかりの畳の青い匂いが、無惨さを掻き立てた
御伝の広間に、散ってる大量の薄白い桜に違和感を思う
余興にしてはと思う程の、大量の桜
倒れている家臣の中には、もがき苦しんで倒れたように見える姿に、刀に斬りつけられた姿
中に入ろうと、縁側に足をかけた飛影と飛翔
飛翔から受け取った飛影は、松明の火で顔や手が、火脹れのようになっているのが見え、苦悶の顔
「待て!それ以上入るな!下がれ!下がれ!」
飛影の大きく言い放つ声に、皆何を言わんとするか嗅ぎ取り全員下がり、広間を遠巻きに見る位置につく
「確認は一刻後としよう。匂いはしないが、毒を撒いた可能性がある。倒れている者に顔や手に火膨れのように腫れがあり、毒としか思えぬ、刀傷があるようにも思え」と飛影
全員頷く
「三平、百道。ニ名一緒にぐるっと見回って来い。城はいい。玄流斎殿の付き人二名、御伝につけた二名の確認を。室内は気をつけい
毒の可能性が高い。奥方の香炉を利用したかも知れぬ。無理をするでないぞ。何かあったら、直ぐに合図を」
飛影の厳しく心配する声に皆頷き、指笛に返しもなければ姿を見せ無い事に、敵の手にと思い、両名気が入る
「わしと地翔は、ここで待っておる。一茶は、門番が来る迄、ここにおれ。後二、三名御伝に来るはずだ」
両ニ名、見回りへと姿を消す
「多分桜と一緒に、毒を使われたのですね」
大量の桜がそう思わせ、地翔にそう言わせた
「厄介な、迂闊に近寄れぬ。余興に使う桜の量でもないしな、それにしても誰が?」
縁側の下に、慌ててはき散らした無数の草履
「外から開けた事で、桜が散ったのか」と飛影
広間に、夥しく散った桜に地翔が言う
「この時間、風は強いですから...」
「そうだな...」何かが、腑に落ちない飛影
その時、また風が強く吹きだし、飛影と地翔、三平は縁側から離れた場所と言っても更に、さっと遠くに飛ぶ
毒が舞い、吸う危険性があり
月はあっても、暗い闇の中、風は広間の桜をふわっと舞上げ、風と風がぶつかったのか、広間で桜はくるくるっと大きく円を描き、流れ、反対の廊下の壁に風がぶつかり桜は、また舞広がり風が収まると、大量の桜は元の位置に戻ったかのように見える
先程とは同じではないとは、分かってはいても、二人には同じ場所に戻ったように、そう見えた
が、また風は少し吹き
桜はさざ波のように動き、風が止まると同時に畳に沈み、半月の明るさ暗闇の中、薄白い桜は浮かんで見え美しい
「こんな事がなければ、美しいと素直に思うものの」と飛影は言い
思った気持ちを一茶が言う
「この惨状で、異界の入り口のように思いました。殿には申し訳ないのですが」
「・・・」殿御一族の惨状に、このように素直に言う一茶の事を、心よく思わない飛翔
「そうだな... 。 一刻待っても難しいか。また、毒が散ったのでは」飛影も桜の様に同じ気持ちを思ったものの、はっきりと口にしない
溜息をつく三人
直ぐにでも確認したいが、自分達の命の軽視はできない
そこに、門番が松明を掲げ走ってやってきた
忍び達と同じ速さはなく、正門から真っ直ぐの場所になく時間のかかる御殿の場所
「遅くなりました」
門番は、広間の縁側からかなり離れた位置にいる忍び三人に息を切らしながらいい、いかにも上部の者と言う雰囲気に(これが上忍)と言うものかと緊張をする
そして、一人が忍びの頭かと思うも、殿のご状態はと足を踏み出そうとするも、御殿の広間から離れていても、忍び三人の殿の前に立ち塞ぐような姿に、威すくむ
悔しく情けない気持ちが起こるも、三人の間から暗い広間を見る
何があったと思っても、散ってる桜が美しく目に映る。悲しく申し訳ないように思い、はっきり見えずとも、暗くとも目を凝らしながら息をむ。自分の持ってる松明の明かりが、意味なく思える
上座の殿の場所で、倒れた体がある
暗くとも倒れた体が、思い違いと思えど倒れた体、ご衣装がと思う
灯し火で、薄ら浮かび上がって見える体
体はあるのに、頭が見えないように見える
暗さではと思うも、広く視線を彷徨わせる
ごろっと、転がった丸い物があるように見え
(丁髷は、丁髷の形は)と、目が必死に開く
「殿ご一族は、亡くなられた。玄流斎殿も。まだ何も分からぬ。毒を粉末で撒いたようで、近づくのは難儀」と告げる地翔
一気に、泣きそう顔の門番
「走ってきた早々申し訳ないが、近くの木々の枝を折って、薪木の用意を。三平も一緒にだ」と飛影
「分かりました。でもそれなら、風呂や釜の薪が」門番はピシッとした声にハッとし、泣くのを堪えたような声で言う
「わしらの見える範囲で、集めい」と飛影
目が覚めるかのように「はい」と門番は言い、一茶はうなづき、薪木になる枝を集めに行った
門番は、走りながら泣き出しいていた
嗚咽迄は出ないものの、枝の落ちていない庭に、木の枝を見上げ、顔をぐちゃぐちゃにしていた
続く→
「平造夫妻」6 お役目編