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古代のフリスビーを発掘する
ここは地中海に近い遺跡。わたしは発掘調査に加わっている。
「教授、この辺りではどんな物が出土するんですか?」シャベルでせっせと土をほじくりながら、わたしは尋ねた。
インディ・ジョーンズそっくりなその教授が、帽子の中に水筒の水を注いで再びかぶり直す。
「いやあ、暑いな。頭が茹だってしまう。なんだって? 何が出るかと聞いたのかい? オスマン帝国時代の甲冑だとか剣なんかを期待してるんだがね」
「見つかるでしょうか?」
「さあなあ。ここに来て早、半年。まだ、何1つ成果を出しちゃいないからな」
実に心許ない。
わたしはこの教授が大好きだったので、どうにかしてこの調査を成功させたいと願っていた。
そのためにも、せめて1つでいいから遺跡を発見できないかと奮闘しいてる。
そんな祈りにも似た気持ちが天に届いたのか、シャベルの先が固い金属らしい物に当たった。
「教授っ、何か出ました!」わたしは大声で呼ぶ。
離れた所で作業をしていた教授が小走りにやって来た。
「どれ、もっと掘ってみよう。慎重にな、慎重に、だ」
掘り進めて現れたのは、直径が30センチほどの金属製の円盤だった。
「なんでしょう、これ。まるで、フリスビーのようですね」
「フリスビーか。なるほど、確かにそう見える。銀でできているようだな。古代トルコ人の使っていた武具の一種かもしれない」教授が推測する。
「フリスビーって、武器だったんですか?」わたしは驚いた。
「意外なことではあるまい。ブーメランやカイリーも狩猟のための道具だっただろ? それに、君。ヨーヨーだって、ありゃあ、れっきとした武器なんだぞ」
「へー。あ、じゃあ、けん玉もそうですよね、きっと」とわたし。
「ん? 違うだろ。ただの玩具だな」あっさり否定されてしまう。
「やっぱり、投げて敵にぶつけるんでしょうか?」
「それか、手の甲に付けて楯として使ったのかもしれん。もっとも、実戦で使われていた物は銀などではなく、鉄や銅を使ったろうがね」
「すると、これは装飾用なんですね」わたしはこびりついた泥をこすり落とした。「表面に、何か植物の紋様が刻まれています、教授」
教授はフリスビーを手に取り、まじまじと観察した。
「ふむ、これはヒヤシンスだな。そういえば、この辺りは原産地じゃなかったかな」
「ふと思ったんですが」
「何かね?」
「もしかしたら、かつての貴族達が、遊び道具として使っていたんじゃないかなあって」わたしは意見を述べた。
「ああ、考えられるね。現在のフリスビーのように、互いに投げ合うというのとは違うだろうけど」
「円盤投げのように、飛距離を競うんですね」
木製ならともかく、こんな重い物など投げて、もしも頭にでも当たったら大変なことになる。
「いったい、どんな者たちがこれを投げていたんだろうな」遙か昔へ思いを馳せるように、教授はつぶやいた。
明るい太陽の下、咲き乱れるヒヤシンスの原でフリスビーを投げる貴族達。時折吹くきまぐれな風に煽られ、思いがけない方へと飛んでいってしまったこともあったろう。
そんなのどかな光景が、まるで、いまさっき見てきたかのように浮かぶのだった。