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2022 マイベストアルバム 【初投稿】

2022年、変わりゆく世界情勢や取り残されたかのようなコロナ禍。凄惨な事件に日々揉まれ続けたような一年でした。そんな一年の始まりに際して、どこぞの誰もがするのと同じように、私も一年の目標なんてものを立ててみました。それが新譜をできる限りたくさんきいて、SNSでよく見る憧れのAOTYなんてものを自分なりに書いてみるというものだったのです。
今回は、邦洋の隔てなく自分が素晴らしいと思った作品を10作品選び、僭越ながら感想を書かせていただいたので、ぜひこの機会に聴いてみてください。アルバムの順番は適当なので特に意味はありません。冗長な上に拙い文章ですが、暖かい目で読んでいただけると幸いです。

ALONE / OMSB


まず一つ目の作品は、日本のラッパー兼トラックメイカーであるOMSBの3作目のソロアルバム。恥ずかしながら私はこの作品で彼の存在を知りました。私が初めて彼のことを知ったのは、J Dillaについて色々調べていた時にMabanuaさんと彼がJ Dillaについて語り合うこちらのインタビューを読んだことがきっかけでした。

このインタビューは彼のそこ知れないHIPHOPの知識と愛、またそれに対する探究心に驚かされました。それからあまり時間を空けずにこのアルバムがリリースされ、初めて彼の作品に触れました。最初アルバムを通して聴いた時にまず頭に浮かんだのは、日本語ラップの作品でここまで衝撃を受けたのは初めてだということです。自分の好きな音楽ジャンルはHIP HOPであるため、様々な作品に触れる機会があったものの、それらは主にいわゆる洋モノのHIP HOPで、邦楽のHIP HOP作品に触れることはあっても、あまり衝撃を受けるような体験はしたことがありませんでした。しかしこの作品はビート、リリック、フローのどれをとっても一級品で、懐かしさと新しさ、優しさと鋭さ、それらが激しくぶつかり合うとともに調和している、どの時代のHIPHOPヘッズが聞いてもにやけてしまうくらいかっこいいと胸を張って言える、そんな作品です。

今作のテーマは、アルバム名の通り「ALONE」であるとOMSBさんはインタビューで答えています。どこに行っても孤立しているという漠然とした気持ち、“一人じゃなくても寂しいし、人といる時のほうが疎外感をむしろ感じたりするし。でも、それを楽しめている時もあるし。”と語るように本作には人との繋がりの中で見出す孤独、孤独の中に見出す人との繋がり、そういったテーマを家族や社会、仲間、シーンといった中に投影しリリックとして紡いでいるのです。

中でも先行シングルでもある「波の歌」は彼自身もインタビューで最初からアルバムの中心になるような曲だと思っていたと語るようにこのアルバムの持つテーマや彼の持つ思想のようなものが色こく現れている楽曲だと感じらます。

下向いてんのに糞踏んだんじゃあ話になりません
疲れない 腹減らない 死なないなら 一生はきっとつまりません
人は喰って踏ん張って寝て起きて盛り子を残すことが全てなのに
その隙間を後生大事に守り だがだからこそ人は人なのかな

OMSB / 波の歌

この部分は個人的にこのアルバム屈指のパンチラインに数えられるでしょう。フローとライミングの気持ちよさで流して聞いてしまいがちなほどの心地よいラインにこれほどまでのリリックを載せている。なんといっても私たち人間は生物の中では唯一と言っていい無駄を許容できる能力を持つ生物である。他の生物は自身の生命活動のため、子孫を繁栄するために最善である行動を最適な場所で行うことが全てなのです。一方私たちは側から見れば無駄としか言いようがないような行動に塗れている。SNSにへばりついて、栄養なんてあったもんじゃないようなジャンクフードにばかり手を伸ばし、ましてや映画や音楽、絵画といった芸術作品を鑑賞してそれらについて感想を垂れるなんてのは持っての他でしょう。しかし私たち人間はその時間にこそ、その余白にこそ美しさを見出せるのかも知れない、その余白に意味を持たせることに生きているのかも知れない、もっと言えば異常なまで効率的なものに私たちは嫌悪感まで覚えてしまうようになっているのかも知れない。とめどなく押し寄せる時の流れは掴めそうになれば引いていき、また押し寄せる、意味もないような繰り返しのような人生、決して抜け出すことなどできない痛々しくも生きなければならない繰り返しの中にこそ私たちの見る幸せはあるのではないかと気付けるのではないだろうか。この楽曲を通してある種の人生に対する諦めのようなものを感じました、しかしそれは決してネガティブなものではなく、私たちがありのままに生きることであり、それが最も人生を美しくするのかも知れない。と、この作品は気づかせてくれます。

日本のHIPHOPの一つの到達点として語り継がれるであろう傑作の一つをリアルタイムで味わえることがまだまだ若輩者の私としてはとても嬉しく、この作品を語り継ぐ一人に私がなれたらなんて思い上がってしまうほど私にとって思い入れのある作品ですので、これからも愛聴させていただきます。

Favorite Song - 波の歌



宇多田ヒカル / BADモード


R&Bシンガーである宇多田ヒカルの3年7か月ぶり通算8枚目のアルバム。
今年の1月リリース直後に聴きましたがこの時すでに私の中ではこのアルバムを超えるアルバムが今年リリースされるのだろうかという不安を抱えてしまいました。それほどまでにこのアルバムは細部まで完成された内容で“邦楽” “洋楽”という垣根を超えて愛されて然るべき傑作です。アルバムとしての強度もさることながらその一曲一曲の力強さにも喰らってしまいました。初期のR&B的な側面と「Exodus」以降のエレクトロニック的な側面、そしてダンスミュージック的な側面が絶妙な塩梅でミックスされたようなサウンドとリズムがアルバムを通して非常に心地よく鳴らされます。今作は主に成長、自己愛、セルフ・パートナー、アクセプタンスをコンセプトとしていて作詞面にその影響は色濃く見えました。また個人的に6曲目の「気分じゃないの Not in the Mood」のアウトロ部分に彼女の息子の歌声が収録されている部分に彼女のユーモアを感じると同時に今作のコンセプトの一部を感じました。本作で特に印象的に頭に残ったのは、4曲目の「PINK BLOOD」の

”私の価値がわからないような人に大事にされても無駄”
”自分の価値もわからないようなコドモのままじゃいられないわ”

宇多田ヒカル / PINK BLOOD

というこの歌詞。これが“宇多田ヒカル”の口から放たれたのです。1998年に当時若干15歳で鮮烈なデビューを果たし、それ以来常に日本の音楽業界の第一線で活躍し続け数々のミュージシャンに多大な影響を与えている、誰もが羨むような存在である彼女の口からこの言葉が生まれるからこそ付随する意味がそこにはあると思います。自己という存在やアイデンティティに対する疑心や葛藤、他者との間に介在した価値、これは誰もが生きていく上で抱えうる問題でありながらもそれを抱えていると時には自分だけが孤独にその問題に向き合っていると思ってしまう。そういったことに自覚的でありながらも前に進んでいく、それが成長であり大人になるということであると訴えるとともに、そうすることによって私たちの生を肯定してくれる、そんな力強い楽曲であると感じました。

邦楽のこれからの未来を示唆するような、希望に満ちた本作は年始の予想通り今年一年My Bestの中から抜けることなんて一時もなく私の2022年を彩ってくれる作品でした。そして先日発表されたPitchforkによるAOTYにもこのアルバムが載っていたのが同じ日本人としてとても嬉しかったです。

Favorite Song - PINK BLOOD



Haruy / MAO


今年デビューの東京を拠点に活動するSSW、HaruyのデビューEPである今作は昨年他界した現在活動休止中のバンドSuchmosのベーシストでありバンドマスターであるHSUがHayata Kosugi名義で全曲プロデュースとコライトで参加した作品です。これはつまり彼の遺作の一つであると言えるでしょう。私自身Suchmosが大好きでバンドの休止発表後、メンバーの個々のソロ活動を追っていた時に彼女の存在を知りました。一言で彼女の歌声を表すなら”和製Sydney Bennett”。もう一聴した瞬間にこの人ほんとに日本人かと思わされる歌声で、透明感と清涼感そしてドリーミーさと儚さが素晴らしいバランス感覚で共存しているのです。
トラックももうこんなん嫌いなわけないと言いたくなるようなHSUさんのベース音に澤村一平さんのドラム。短編の映画を何本か見るような感覚で一つ一つの楽曲の世界に取り込まれるような感覚がありました。そういった意味でこの作品は視覚的な音楽とでもいうのでしょうか、彼女の声には一つの世界の情景を作り出してしまうようなそんな魅力があるのです。

なかでもEP最後の楽曲「Ryan」はそれが鮮明に感じられる楽曲だと思います。この曲の制作の真っ只中にHsuさんが亡くなりこのEPがリリースするかどうか曖昧になり、時間が空いて発表することが決まってから歌詞を書き始めたので歌詞はHSUさんに向けたものになったと彼女はインタビューで答えています。私はこの曲を初めて聴いた際に力強くも儚く消え入るような情景が浮かび上がります。これはHSUさんの死を美しい旅立ちに準えるとともに自身の音楽活動の旅立ちを彼に伝えるかのように、そしてその全てを”駆け抜けて”という言葉にのせて届けているのではないかと。彼女にはこういった自身の境遇や体験を作品の中で一つの情景としてリスナーに共有することができる歌声が備わっているのです。

彼女自身はソロでの作品を発表する前にTastyというスリーピースバンドでBa / Voとして活動されていました。こちらのバンドは現在解散していますが、Tastyの作品は彼女の美しい陶酔するような歌声を楽しめるとともに気高さや美しさの中に若さや儚さが混在するような素晴らしいバンドサウンドも堪能できるのでHaruyファンの方もそうでない方もぜひ聴いてみてください。


まだまだ今作について書きたいことはあるのですが長くなり過ぎてしまうのでこの辺で止めておきます。実際今年一番聴いた作品であり今年一番出会えてよかったアーティストでもあります。来年こそ必ずライブに行って生で聴きたいと思います。

Favorite Song - Lovely


redveil / learn 2 swim


アメリカ東海岸メリーランド州プリンスジョージズ郡出身のラッパーredveilの3作目のアルバム。Tyler, The CreatorやThe Internet を自身の音楽への興味のきっかけと語るのも頷けるほどメロディアスで心地よいビートに彼の思慮の海に飛び込むようなリリックを乗せてスピットした作品。このアルバムの感想を一言でまとめるとすると、「年齢詐称してるだろ」でした。これは本当に信じられないのですがここまでの作品を全部セルフプロデュースで完成させている彼は2004年生まれのまだ18歳なのです。自分より若いラッパーがここまでの作品を発表しているという事実に時の流れを感じるとともに彼だけ流れる時間が人より多いのではないかとすら思わされます。

今作は18歳という危うさが生み出す一瞬の輝きとも言える時間、留まることすら許してくれない世界の流れに対して身を置き抗い泳ぎ続けるという彼の恒久の覚悟、その二つを一つにパッケージングしたような作品といえるでしょう。アメリカの中でも特に黒人の割合が高いプリンスジョージズ群いわゆるpg countryに生まれ育った彼は18歳という若さながらも自分の置かれている環境や境遇に非常に自覚的でありながらも、さらに彼は自分のコミュニティを背負っていくだけの覚悟を既に持ち合わせているのです。それは今にも彼を飲み込んでしまう可能性すら秘めているほどのものなのです。そして何よりも彼はその思想と覚悟を音楽作品という形で芸術として昇華するだけの才能も同時に持っているのです、、、

私の一番のお気に入りの楽曲は先行シングルである「diving board」です。この楽曲はまさにredveil自身がこれから歩んでいく険しく美しい人生に対する覚悟を水の中に飛び込むための飛び込み台に見立て吐き出します。そういった意味ではアルバムタイトルを最も反映した楽曲とも言えます。

Hold my nose, hold my breath 
Take it step by step off the porch
Where predecessors pass the torch, they y'all can rest
Need my words to live forever, ain't no safety in the vest

redveil / diving board

ファーストバースのこの部分はまずライミングもさることながら最後のラインで ”彼の思想や生き方を写した言葉は永遠に生き続ける必要がある。救命胴衣に救いはない。”と言う。彼の持つ言葉の力はこの先も永遠に何かを変え続け力を持ち続けるのに対して救命道衣というものは短い時間助けてくれるだけで問題を根本から変えるものではないと対比する構成になっているのです。彼の言葉の通り、人生という名の険しく常に変わり続ける荒波の中に生き続けるために必要なのはその場しのぎの安静や救命胴衣ではなく自分の力で踠き苦しみ耐え凌ぎながらも泳ぐ術なのだろう。向こう岸は決して見えない見える頃にはもう浮かんでいるだけの屍なのかもしれないそんな不安を認めつつも我々は海に飛び込むのです。

まだまだ底が見えない大海のような彼の才能はどのような作品を送り出していくのか、我々リスナーはそれらに飛び込む準備を飛び込み台の上でするのです。そんな彼の傑作をリアルタイムで楽しめたことを噛み締めるためにこのリストに入れさせていただきました。

またこの作品については私よりも断然詳しく素晴らしい文章力で久世さんがこちらの記事で書かれているので気になった方は是非こちらも読んでみてください。

Favorite Song - diving board



Kendrick Lamar / Mr. Morale & Big Steppers


アメリカのカリフォルニア州コンプトン出身のラッパー、ケンドリックラマーの5年ぶりのソロアルバムで所属するレーベルであるTDEから発表される最後のアルバム。世界中のHIP HOPファン、いや世界中の音楽ファンが最も新作を待ち望んだアーティストの一人であるケンドリックラマー、過去の作品の絶対的な完成度とセールスからくるこの作品に対する痛いまでの期待の眼差しを他所にこの作品は何の前触れもなく急遽リリースが発表されその数日後にはリリースされました。

今回の作品は今までにないくらい内省的でプライベートな自分の半径数メートル内ないし自分の中にある問題について吐いたそんなものであった。彼の今までの作品、GKMCやTPABらの作品を経て彼は有り余るほどの社会的地位と名声を手にし現代に生きる黒人の代弁者で指導者、さらには救済者ともされた。その際たる例として言えるのは彼の代表曲の一つであるAlrihgtがBLMの運動のアンセムとされていたことでしょう。ケンドリックラマーという人物の影は止まることを知らず彼の知らない”何か”となっていく、今作で彼は内省的な言葉を吐くことでそれが返ってその幻影とそれを生み出した私たちリスナーとの対話となっているのです。個人的にHIP HOPの中でも内省的な内容について歌う作品が好きなので今作は大好きなラッパーが大好きなテーマについて歌う、私に取ってはこれ以上ないような作品でした。しかし一曲一曲聴き進めていくごとにその気持ちを叩きのめされたような気がします。それに変わって何か自分の中にあったものが削り取られていくような畏怖とも呼べる感覚が、ケンドリックラマーという一人の人間の中にある広大な世界が自分にぶつかっていくるようなそんな感覚が残りました。

そして彼はこのアルバムを通じてカルチャーという言葉の持つ軽薄さのようなものに対して継承を鳴らしていました。誰かが誰かを憎しみを持って攻撃するそしてその報復をするものが現れる、この負の連鎖をカルチャーという語を用いて賛美してきた事実にその内情を知る彼が一石を投じたのは非常に意義のあることだと思います。しかしその思いも虚しく今年も数多くのラッパーがそのカルチャーの元に亡くなってしまったのです。中でも2010年代にこのカルチャーの中心に生きそれを自らの人生と作品をもって体現してきたTakeoffが亡くなったことはこの問題に向き合わなくてはいけないのは何もそのカルチャーに身を置くものだけではないと思わせるような意味がありました。

HIPHOPという音楽ジャンルと文化、社会、人々を取り巻く環境の変化、その中心的な位置に座っていた彼から放たれる言葉の変化、これらを生み出したのは我々リスナーなのかもしれない。アーティストからリスナーへという音楽の構造は少しずつ変わっていくのかもしれない。そんなことをも思わせるHIP HOPにおける重要な作品であったのでマイベストに入れさせていただきました。

Favorite Song - Mirror



Sudan Archives / Natural Brown Prom Queen


アメリカロサンゼルスベースのバイオリニスト兼SSWであるSudan Archivesのアルバム2作目である作品。近年のオノ・ヨーコのトリビュートアルバムへの参加などで注目を集めている彼女の最新作は彼女ならではのルーツと音楽のバックグラウンドの影響を大きく感じさせると同時に、クリエイティブに新たな実験的なサウンドに挑戦し、その二つを絶妙なバランス感覚を持ってポップに落とし込んでいる部分もあるという作品です。

今作は彼女の養子先であるロサンゼルスと彼女が育ったシンシナティの両方の家がある町を背景にして彼女の人生において常に中心的な存在であった家族や友人、恋人といった彼女に近しい人々のことを歌っている。そしてそれと同時に自身のアイデンティティなどにも自覚的で、人種や性別、外見のことについても扱っているアルバムになっています。例えば先行シングルである「Selfish Soul」について彼女はIndia.Arie の「I Am Not My Hair」という曲がインスピレーションになっていると語っており、その言葉の通りアメリカに蔓延している髪型や髪の毛と女性の美を結びつけるという既成概念的価値観を批判すると共に、それだけが美しさではないのだと、人々の持つ美しさに気づかせてくれるような作品に仕上がっています。そしてそういったメッセージをハンドクラップとバックコーラスが鳴り響く非常に肉体的で野生的で本能的なビートと軽やかで美しいバイオリンの音が鳴り響くトラックに乗せて叫ぶのです。

そしてこのアルバムはそれぞれの曲と曲との繋ぎ方が素晴らしく綺麗なのも注目すべき点です。それぞれの楽曲がシングルカットしてその音楽性とメッセージを深く楽しめるのですが、それだけにとどまらずアルバム全体のつながりの良さからアルバムそれ自体を一つの楽曲としてみれるほどにシームレスに心地よいアルバムのフローが優れていると言えます。しかもこのアルバムはHIPHOP、R&B、ハウス、アフロセントリックソウルなどの多様な音楽をミックスさせてそこにさらにバイオリンという彼女のエッセンスを加えた複雑なサウンドを扱っているにもかかわらずここまで美しいまとまりを感じられる構成にまで仕上げているというのが驚きでした。

総じてこのアルバムは非常に本能的で野生的なアルバムであると思いました。それはこのアルバムは人間的な喜び本質的な美しさというものを賛美するような曲に溢れているからです。サウンド面でもリリック面においても非常に評価されるべき点が多い素晴らしい作品なのに日本での知名度はまだまだ追いついていないと思ったので一聴した段階でこれはもっと多くのリスナーにこそ聞かれるべき作品だと思わされました。それをするにはここで紹介するのも一つの手ではないかということでこのランキングに入れさせていただきました。

Favorite Song - Chevy$10


Beyoncé / Renaissance


アメリカヒューストン出身の世界的スターBeyoncéの6年ぶり7作目の最新作。世界中で絶賛された前作「Lemonade」を経た世界的R&Bクイーンの帰還作である今作を一言で表すとするならば”マンパワー!”でしょう。Mike DeanやThe Dream、Syd、Skrillex、Hit-Boy、Drake、そして夫であるJay-Zなどの錚々たるメンツが名前を並べています。そしてそんなに豪華でそれぞれのカラーもあるメンバーが参加しているにもかかわらずQueen-Bの名に恥じない彼女の絶対的な存在と実力を持って自身の作品として一つにまとめ上げているので、彼女一人として、作品全体に関わっている全ての人として”マンパワー”という言葉が一番しっくり来るのではないかと思いました。サウンド面としては今までの彼女の作品とは一味も二味も違うハウス、クラブ、ダンスミュージックという方向に舵を大きく切ったものとなっており、Drakeの今年の作品と共にメジャーシーンにおけるクラブミュージックの再興に大きな役割を果たす作品ともいえるでしょう。

今作の一番大きなテーマは”解放”でしょう。それはアルバムタイトルが「Renaissance」という復活や再興、再生を意味する言葉にしていることにも表れているといえるでしょう。しかもこのコロナウイルスのパンデミックに揺れ動く情勢の中でこのタイトルをつけているのはペストの流行とルネサンスが起こった14世紀のことに掛けているように感じられ、こういった部分のセンスは流石の一言に尽きます。ここでの解放は自己の内面的な解放にとどまらず外見の既成概念からの解放の意味も含まれています。内面的解放については、リードシングルである「BREAK MY SOUL」をはじめアルバムの中のいくつかの楽曲はクィアやトランスジェンダー、ゲイなどのさまざまな性に対する賛美的な内容であり、またそれと同時に黒人コミュニティへの賛美にもなっていることからもわかるでしょう。外見の解放についてはボディシェイミングの批判を掲げていることからそういえるでしょう。そしてそれをBeyoncéという世界で最も影響力がある人物の一人に数えられるスターが標榜する、それも世界中のあらゆる人種、性別、国籍、ジャンルで活躍するアーティストたちとのコラボレーションや共作という形を通して行うのです。この事実は私の中でも世間の人々の中でもこのアルバムをが評価されている大きな要因の一つであるといえるでしょう。

一番のお気に入りなのはもちろん「PLASTIC OFF THE SOFA」です。なぜならこの楽曲は私の大好きでやまないアーティストでありOdd FutureやThe Internetのマンバーとしても知られるSydney Bennettとの共作であるからです。このことについてはSyd本人もSNSで大いに喜びを見せておりそこもこの曲を好きな要因です。サウンド的には爽やかで涼しげなR&Bナンバーで聞いてるだけで笑みが溢れてしまうような仕上がりです。Sydらしさが随所に滲み出ていてセルフカバーを是非抱いてほしいななんて思っています。圧倒的POPアイコンでありクイーン的な存在であるBeyonceと元々先鋭的クリエイティブ集団であるOdd Futureに所属しTyler, The Creatorに才能を見出されたオルタナティブR&Bシンガーが混ざり合うことでこんな化学反応が生まれるということを知れた意味でもアルバムにおいても非常に意義のある楽曲でしょう。

結局のところ、どれだけの時を経ても絶対的な女王としてシーンを牽引していくことの難しさを感じさせてくれないほどに、それをスタイリッシュに涼しげにこなしてしまう彼女の実力に感嘆させられた、そんな作品でした。噂では来年ツアーを開催するらしいので今私は新しい楽曲たちのライブでの輝き方と彼女の圧倒的なスターパワーを生で見られる可能性に心を躍らせています。

Favorite Song - PLASTIC OFF THE SOFA




Quadeca / I Didn’t Mean to Haunt You


アメリカのラッパー、SSW、プロデューサーであるQuadecaの3作目のスタジオアルバム。今作は彼の二枚目のコンセプトアルバムであり初の完全セルフプロデュースアルバムでもある。彼は元々自身のYoutubeチャンネルで10年ほど前から動画を投稿しており、そのチャンネルでは音楽の紹介や解説に関する動画をメインとして実に200万人近い登録者を持っているというYoutuberとしての経歴を持っているのも非常に現代的で面白い部分です。

今回の作品は彼にとってコンセプトアルバム第二作目ということでそのコンセプトは亡くなったばかりの亡霊の視点で描かれる物語が進行していくものになっている。亡霊はアルバムの進行と共に悲しみと困難にぶつかりながらも成長していき自分の存在と向き合い続けるのです。そしてこのアルバムは最後の楽曲を聴き終わってからもう一度最初から聞いても全てがつながっていて永遠にここから抜け出せなくなるのではないかと思わされるほどループする作品です。そして聞けば聞くほどじわじわと自分の中に染み込んできて作品の中の世界に自分を取り込まれそうになる、そんな力を秘めた作品です。

一番好きな楽曲は「tell me a joke」です。サウンドとしても陳腐なギターがバックで鳴っていると思ったらだんだんとエレクトリックな音が聞こえだし迫り来るようなベースとドラムと共に恍惚ともいえる美しいコーラスが耳に入り込んでくる。そこからは一転したように広大な音の世界が広がりその微睡の中に包まれながらも何か解放感と不気味さが共存するように進んでいく。ヴォーカルの声だけは最初から一貫して死人を想起させるかのような声色で生死の境が曖昧になっているかのように思えます。この曲の前の曲である「sorry4dying」の中で自分の屍と自分のいない世界を目の当たりにした彼をこの楽曲では扱っているのですがこの亡霊が彼なのかどうかが判断できなくなっていきます。そういったストーリー展開においても非常に重要な位置付けの曲であるといえるでしょう。また、楽曲のMVmo非常に細部まで彼のこだわりが感じられ彼のヴィジュアルアーティストとしての思慮の深さにも驚かされました。

今年聞いた新譜の中で衝撃が一番大きかったのはこの作品で間違い無いと思います。最初聞いた時はサウンドがもう凄すぎて脳が追いつかないような感覚と陰鬱でダウナーな声色、かと思ったら美しい祈りのような表情を見せるなどもう何が起こっているんだって感じで聴き終わったらどっと疲れが来たのを覚えています。Frank Oceanの影を感じたのは僕だけでは無いと思うのですがこれの理由を言語化する術をまだ持ち合わせていないのが悔しいばかりです。何より彼は新作の更新スピードが速いイメージがあるので既にここから彼はどのような境地に向かっていくのか楽しみな存在でもあります。また彼のYoutubeチャンネルの動画をまだ数本しか見れていないのでこれからたくさん見てみたいと思います。

Favorite Song - tell me a joke  


The 1975 / being funny in a foreign language


イギリス発のバンドであるThe 1975の5作目となるスタジオアルバム。最後まで入れるか迷ったのですが、やっぱり大好きなバンドなので入れざるを得ませんでした。このアルバムを入れるか迷った最大の理由、それはMattyへの一方的な嫉妬でしかありません。もうなんでこれをやるのがMattyであって僕じゃないんだというただのリスナーの虚しい勝手な嫉妬のやっつけでこのランキングから外すか迷いました。Mattyにしっかりと謝罪の意を示すとともに敬意意を表させていただきたいです。アルバム全体のテーマからそれぞれの楽曲が持つテーマ、リリック、そしてサウンドのどれをとっても全てに必然性があるのです。それができるのはやはり完璧主義者Matthew Healy の作家としての才能あってこそだと思わされるのです。

今作の全体のテーマとしてあるのはもちろん"愛"なのです。今までの作品、特に前作「Notes On A Conditional Form」では現代におけるありとあらゆる問題について乱立するように散りばめ社会に対して投げかけていた彼らが今作では打って変わって、それらとできるだけ離れてシンプルに忘れ去られていたポップミュージックという音楽が本来持つ強さ、楽しさ、美しさみたいなとこに重きを置いて愛を歌うこれだけでもう最高と言えるでしょう。そしてそれを極上のバンドサウンドにのせる、今このバンドが持つバンドサウンドとしての魅力をそのままドキュメンタリーのように生きたまま閉じ込めた、ある種刹那的でありながらもこれまでで1番再現性にも満ちているとも言える楽曲たち、この矛盾すらも彼らの手の上では美しく輝くのです。

「I'm In Love With You」は中でも最上級にピュアなラブソングでポップソングと言えるでしょう。今までの作品でここまで純粋に真っ直ぐに愛しているという言葉を歌ったのはMattyとしては異例のことではないかと思います。「Somebody Else」ではもう君を求めてはいないけど僕以外の他の誰かといる君を想像するのが嫌だとか、「The Sound」では君の名前すら忘れてしまったけど君の気配だけは今でも覚えているとか、「Sincerity Is Scary」では別れ際の未練タラタラな連続長文メッセージのような内容を歌っていたので、好きなら好きって言えよ!って思いながらもそんな捻くれて拗らせた恋心に共感している自分がいたりもしたのですがこの曲ではそんな回りくどい言葉をかいつまんで端的にいうと君に恋しているなんて言いやがる、どこまでずるい男なんだMattyとここでも嫉妬してしまいました。そんな純粋に愛を歌った曲に酔いしれるのも今作の見どころの一つなのではないでしょうか。

しかしこれがライブになると一転してこれらの楽曲が持つ意味が新たに浮かび上がってきて我々リスナーはThe 1975というバンドの味わい深さにまた気付かされるのです。「Looking For Somebody (To Love)ではMattyが持っているギターをライフル銃に見立てて走り回る人々を"Looking for somebody to love"と歌いながら撃ち抜く演出がある。これは近年のアメリカにおける青少年の銃乱射事件をモチーフにしている。この瞬間を持って to loveの持つ意味が悍ましいものになって私たちの前に現れる。しかもこれをアメリカの観衆ましてやティーンの女の子ファンが多い面前であからさまにやるのがまた面白いのです。ライブの中では他にも生肉を食べたり腕立て伏せをして徐にタバコを吸ってお酒を飲むなんて演出もあるのですがこれを"I hate masculinity"とかいう彼がやるのももう最高なんです。

入れるか迷ったと言いながらこれだけ絶賛してしまうのはこの作品がバンドの産物として完成されていることの裏返しとも言えるでしょう。実は来春の来日公演に行くことができるのでこの目と耳でThe 1975を楽しむためにもこれからもたくさんこのアルバムを含め彼らの作品を楽しませていただきたいと思います。

Favorite Song - Part of the Band


SZA / SOS


いよいよ最後に紹介するのは、アメリカ出身のR&BシンガーであるSZAの3作目のアルバム。このアルバムは12月9日にリリースされたのですがその時私は既にこのリストの作成に取り組んでいたため聞いた瞬間もうこれ以上悩みの種を増やさないでくれとSOSを出そうかと思いました(Little Simzにもおんなじことを言いたいです)。それはなんとの嬉しい悩みではあるのですがこの時期にこれほどの作品を出されるこっちの身にもなってほしいものです。彼女の作品も前述したケンドリックラマーと同様に前作の完成度故のファンたちからの期待と真っ向から対峙することになるとわかっていました。しかしここはその大きな期待に十二分に応えるだけでなく彼女の新たな可能性や境地すらも提示したそんな作品であったと言えるでしょう。

今回のアルバムはサウンド面に関しては色々な要素が少しずつ入っていると本人が語るようにTravis Scott やDon Toliver、Ol' Dirty Bastardなどのフィーチャリングアーティストに加えPharrell Williams などをプロデューサーとして招くなどR&Bというジャンルに囚われることなくクロスオーバーした音楽で唯一無二の彼女にしか作ることができない作品となってる。内容的には「少し怒っているけど、中には本当に美しくてソフトでハートフルなものもある。失恋のこと、迷子のこと、そして怒りのことなど。」と彼女はインタビューにて語っています。作詞面だは前作Ctrl と同様に彼女らしい嘘偽りない彼女の心の声そのものが反映されています。だからこそ漏れ出すSOSのメッセージもそこにはあるのです。

中でも私が好きな曲は14曲目の「Nobody Gets Me」です。この曲は今年BTSとsnoopとのコラボでも記憶に新しいbenny blancoがプロデュースしている作品です。アコースティックのギターに乗せて彼女の彼女らしいハイノートを素晴らしくマッチさせた王道なバラード曲で、こういう曲をファンが待ち望んでることをSZA本人もわかってくれてるような気がして嬉しいです。内容的には今はもういなくなってしまった恋人に今になって後悔してる自分をうたったものです。こう言った内容の曲はいくらでもあるのですが彼女はそれすらも彼女のものに変える力を持ってるのです。今作の大きなインスピレーションでもある英国のダイアナ妃のバックグラウンドや発言に重ね合わせて聴くと更に深みを持って私たちの前に現れるのがこの楽曲を含めアルバム全体にあると言えます。他の曲もサウンド面だけでないサンプリングされた言葉やフレーズにも注目すると新たな発見があるのも面白い部分と言えるでしょう。

彼女がインタビューでこの作品に共感できない人は幸せな恋愛をしているんだといっていたのですが本当にその通りでしかないと思いました。この作品を聴いたリスナーとしては泣いて笑って怒って癒されて励まされる、というように喜怒哀楽がごちゃごちゃになる程色んな感情がぶつかり合いました。でも作品としてはごちゃごちゃになりすぎずアルバムという単位の芸術として成り立っているのが面白くも思えました。これからも色んな感情にぶつかった際にこのアルバムの曲のどれかが私のそばにありつづけてくれるだろうと思わせてくれるような素敵なアルバムでした。SZA is BAAAAAAAAAACK.

Favorite Song - Nobody Gets Me


惜しくもTOP10には入らなかった作品

Top10には入らなかった作品ですがこれらの作品もどれも素晴らしく最後の最後まで悩んだのでここで供養させていただきたいです。感想を書く余裕が私にはなかったので紹介のみにとどめさせていただきます。こちらの作品も是非ともみなさんに聴いていただけたら嬉しいです。

billy woods / Aethiopes

Arctic Monkeys / The Car

Harry Styles / Harry's House

mom / ¥の世界

The Weekend / Dawn FM

坂本慎太郎 / 物語のように

七尾旅人 / Long Voyage 

JID / The Forever Story

Alvvays / Blue Rev

優河 / 言葉のない夜に

羊文学/ our hope


終わりに

長々と自分の感想を垂れるだけの文章をここまで読んでくださりありがとうございます。初めて音楽の感想を言語化してみて、その難しさに挫折しそうにもなり、自分の音楽知識の浅薄さを感じましたが、それと同時にまだまだ聞いたことない音楽があることへの期待がさらに膨らみました。しかし、嬉しいことに今年も新たにたくさんの素晴らしい音楽と素晴らしいアーティストに出会うことができました。来年のリリースが噂されている作品(聞いていますかFrank Ocean 、 君のことだよ)も既にいくつかあるので来年はこの企画を今回よりも磨きをかけた文章力でできるよう精進します。

これからもこのアカウントでは自分の好きな音楽や音楽や音楽について書いたり書かなかったりするので読んだり読まなかったりしてください。そのくらいの熱量と距離感で続けていきたいと思いますので何卒よろしくお願いします。

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