2020年11月の記事一覧
邪悪な魔法使いの存在を知るものはいない
あるところに邪悪な魔法使いがいた。非常に邪悪な魔法使いだ。邪悪な魔法使いは邪悪な魔法で好き放題していた。子どものポケットにこっそりダンゴムシを入れたり、ちょうど足の小指をぶつける位置に家具を動かしたり、遅刻しそうな時に限って五分くらい時計を遅らせていたりした。こんなものはかわいいもので、車椅子利用者用の駐車スペースに平気な顔で車を停めたり、電車の優先席に寝転んだり、深夜のコンビニの前にたむろした
もっとみる彼女を傷付けたのは真実だった
ぼくは激怒した。彼女が傷付けられたからだ。
彼女を傷付けたのは真実だった。しょうしんしょうめいのしんじつ。どこから見ても傷ひとつないような、完全無欠の真実だ。それがどうした、と、ぼくは腹を立てた。なぜなら、彼女が傷付けられたからだ。彼女はさめざめと泣いていた。打ちひしがれ、立ち上がることなどもう二度とできないのではないかという有様だった。なんてかわいそうなんだろうと、ぼくは思った。泣く彼女の姿
巨人たちの絶滅について
むかしむかし。
かつて、この地上には巨人たちがいた。その天を衝くような巨体は、人類では到底及ばない怪力を持っていた。人類では十人がかりでも動かせないような巨石も、巨人は片手で軽々と持ち上げることができた。人類では何年もかかるような森の開墾も、巨人の手にかかれば草むしりみたいなもので、一晩で終わるほどだった。それほどの力の持ち主である巨人たちである。彼ら巨人たちが、地上の覇者となっていておかしく