2020年7月の記事一覧
どこまでも、どこまでも
愛人になることになった。のだと、思う。部屋を借りてもらって、そこに住むことになった。家賃はもちろん、光熱費その他諸々、全て支給される。これでただの慈善事業だと言うのだったら絶対に裏がある。こうして全てを与えておいて、愛人として囲うとか。つまり、わたしは愛人になったのだろう。どのみちそういうことだ。
まさかこんなことになるとは思いもしなかった。だいたい、愛人になるなんてことを予想しながら生きてい
お嬢様はとても心優しいかたでございます
お嬢様はとても心優しい方でございます。たまに癇癪を起こして、たとえば、子猫に手を引っ掛かれたというので捨てさせたりするような、そうした子供らしい残酷さを持っていたりもしますが、それはお嬢様がまだ年若いからであって、先日も学校から帰って来るなり私めをお呼び止めなさってこうおっしゃったのです。
「世界にどれだけ多くの恵まれない人がいるのか知ってる?」
私めには学が無いのでとんとわからない旨をお
星のかけらの子どもたち
突然静かになって、ぼくは恐る恐る顔を上げ、そして立ち上がった。頭の上をうるさく飛んでいた爆撃機も、雨のように降り注いでいた爆弾も、まるで夢だったみたいに消え失せていた。それだけではない。あたりには何一つ無かった。見渡す限り焼け野原だ。ぼくの家も、友だちの家も、工場も、お父さんが勤める役所も、ぼくらの学校も、何も無い。所々から上がる煙、その臭いは現実味が無かった。
足元を見ると、人が横たわってい
望むものならなんでも
世の親の例に漏れず、父も親バカでした。それはもう、目に入れても痛くないというくらい可愛がってくれましたし、悪く言えば甘やかされて育てられました。もちろん、愛情を注がれたことには感謝しています。その点、私は実に幸福な人間だと思います。私の不幸は、父の財力があまりにもありすぎたこと、いえ、それも幸福なのかもしれません。それが不幸だと嘆くのは、それこそあまりにも贅沢過ぎます。不幸は私が凡庸な人間である
もっとみるわたしは彼を殺さないことにした
わたしは彼を殺さないことにした。
彼を殺すのに十分な理由はあったし、確かに彼がその腕力に訴えればわたしなど一ひねりだったかもしれないけれど、状況的にわたしの方が圧倒的に有利で、しかも致命的な傷を負わせられる武器までわたしは手にしていた。さらに幸運なことには、殺人を犯したところでわたしが逮捕されることも、裁かれることもないのだ。
政府は瓦解し、無政府状態になっていた。それは大木が切り倒されるの