2020年5月の記事一覧
彼の好きなところ三つ
彼の好きだったところは、三つあって、まずは沈黙が気詰まりではなかったところ。
その頃わたしは、今よりももうちょっと若くて、まだ学校に通っていて、もうちょっとだけひねくれていたから、愛想笑いなんて絶対しなかったし、頑張って話を盛り上げようともしなかった。頑張ってる男の子を見ると、わたしの気持ちはグッと冷え込んで、こいつなにやってんの、みたいな目付きでそんな男の子を見詰めたものだ。そうすると、その
ただいま。おかえり。
錦を飾るつもりで飛び出したのに、尾羽うち枯らしてフラフラになりながら帰ってくることになるなんて。
わたしの上京に最後までがんとして反対したのは案の定父だった。父は若い頃から自分の腕一本で稼いできた大工で、頑固で無口ですぐにカッとなって怒鳴って、わたしは父が嫌いだった。クラスメイトの父親たちのような、背広を着ているサラリーマンが父親なら良かったのに、と何度となく思ったものだ。わたしが夢を追って
思いやりあふれる世界
強い風の吹いた翌日、世界はちょっとした混乱をきたした。鉄道のダイヤに乱れが出たのもそうだし、風で飛ばされた看板に当たって怪我人があったのもそうだ。高速道路でトラックの横転する事故があったし、強風にあおられて転んだ人は沢山いた。中には骨を折った人もいた。ベランダに置いてあった鉢植えが落ちてぐちゃぐちゃになったし、外に干してあった洗濯物はみんな飛ばされてしまった。人々はその後片付けに追われた。交通機
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