はじめての失恋は涙が出ない【オリジナルSS】
はじめての失恋は涙が出ない
「今日空いてる?」「20時カラオケ」このメッセージだけで、もう合図みたいになっているらしく、
「お前ほんと続かないな。」
カラオケ屋に着いて早々、光は飽きれた顔する。
私はいわゆる恋愛体質らしく、好きな人が365日必ずいて、その分失恋することも多かった。そのたびに高校時代からの友達である光をカラオケに呼びつけては、泣きながら失恋ソングを歌う。毎度のパターンに飽きれながらも、光はそれに付き合ってくれていた。散々泣いて歌って酔っ払って、
「光ぅ…私恋愛向いてないのかな…。」
と泣きつく私に、
「そうだな。向いてないな。」
と少し笑みを浮かべながら光は返す。ここまでがお決まりの流れになっていた。
今日もまた半年付き合った彼氏に振られ、光をいつものカラオケ屋に呼び出した。そしてまたお決まりのパターンの繰り返し、と思いきや、光は少し難しい顔をしている。
「光、なんかあった?」
「いや、お前には先に言っておかなきゃと思ってたんだけど、」
思わぬ枕言葉に背中がスーッと冷たくなるのを感じた。この感覚には何度も身に覚えがある。振られるときの、あの空気。
「俺さ、結婚することになったから。だからもうこういうの付き合えない。お前のこといいなと思ってたこともあったけど、お前俺のこと見てなかったから…。」
雷に打たれたような衝撃だった。光に彼女がいたことすら知らない。高校からずっと一緒で、なんでも話せて、大学が離れても絶えず連絡を取っていたのに?社会人になって、この関係に安心しきっていた私の身体中に、喪失感が広がっていく。
そのあとは気まずくなってすぐ会計をして解散した。私はこれまでの光とのことを思い返しながら家に向かう。好きだった人はちゃんと好きだったし、付き合った人のこともちゃんと好きだった。でも、甘えていた。「だめになっても、光がいる。」そう心のどこかで思っていたのかも知れない。「そんな奴より、俺がいるだろ。」って言ってくれるのを、どこか期待していたのかも知れない。家に帰ってからも、一滴も涙は出なかった。私の慢心で光を失ってしまった。もう落ち込んだときに安心させてくれる人はいない。時間を巻き戻したい。
「お前、恋愛向いてないな。」
って笑う光に、
「でも光がいてくれるから。」「好きだよ。」
を伝えられていたら。どれだけ後悔しても遅かった。光、いなくならないでよ。話聞いてよ。呆れていいから、そばにいてほしかった。
End.
こちらはRadiotalkの収録企画で
けいりんさん主催「お題で創作」に
参加した作品になっております。
朗読したものはこちら。