失恋、引越し、ピアス
アクセサリーに目がない。
ショッピングに出かけて、ポップアップショップなんか見つけたらもう、するすると吸い込まれていって、気付いたらピアスを買っている。買うつもりなんてなかったのに。
でもときめきは一瞬で。安物はすぐ汚れるし、錆びるし、壊れる。今までいくつのピアスを買ったか…覚えてもいない。飽き性なのでそのときの気分でピアスをころころ変えて、それでいいと思っている。
そんな私だが、ずっと大事にしているピアスが3つある。一つは、刺繍職人になった高校の友達が大学を卒業するときに作ってくれたビーズの刺繍のピアス。二つめは、元恋人が誕生日にくれたちょっといいピアス。そしてもう一つは、元同僚の彫金師の知り合い(…で合ってるのかな)に作ってもらったオーダーメイドのピアス。
勝負服とか、勝負下着とか、大事な日のファッションって、気合を入れることがあるじゃないですか。私にもそういうのがある。普段は本当にずぼらでだらしない人間だからこそ、大事な日は意識して気合を入れる。それは別に、今日好きな人といい感じになるかもしれないとか、親友の結婚式に行くとか、仕事で写真撮影があるとか、そういうものすごく特別な日にものすごく気合をいれるということではなくて。
美術館に行くから豊かな色遣いの服装にしようとか、クール系の友だちに会うからモノトーンにブーツを合わせていこうとか、そういう雰囲気に合わせた気合いの入れ方だ。逆も然りで、友だちと川辺で日向ぼっこするような日は超ラフな服にすっぴんがいい。気を抜くべきだから、意図的に手を抜くのだ。
そんな感じで私の服装にはあまりこだわりがなく、その場に溶け込むことを第一にしている。まあ手持ちの服がそもそも少ないので、他人から見たら気付かないくらいの不器用な工夫と自己満足だが。
そんな私が唯一自分の意思を出すアイテム、それがピアス。なんかもう、ピアスはお守りだと思っている。そっと顔の隣にいてくれる、強い味方。君がいるから、このありのままの顔で飾らずに勝負していこうと思える。いつもありがとさん。
だから、今日は頑張らなきゃ!とか、楽しむぞ!とかってときは、お気に入りピアス三銃士の中から誰を一緒に連れて行くか選ぶ。
ありのままリラックスした気持ちでいたいときは、大好きな友だちの刺繍ピアス。女らしくいたいときや、仕事で強くなりたいときは元彼にもらったピアス。(彼はキレッキレの仕事人間だったので。)そして、私らしさ全開で面白い人間性出してくぞ〜!ってときは、オーダーメイドで作ってもらったピアスだ。
このオーダーピアスについては物語がある。当時私は同棲していた恋人に振られて大失恋中で、引越し先を探して彷徨っていた。私が東京と折り合いをつけて生きていくには、せめてもの空の広さと、空気の美味しさが必要。常々そう思っていたので、それが引っ越しの唯一の条件だった。
そんな中、尊敬する先輩との不思議なご縁で、とある街に新居が決まった。春は桜が舞い、初夏は緑のトンネルになり、秋には赤や黄色に色づく、素敵な遊歩道がある街。もちろん広い空と、美味しい空気もある。
↓※大失恋引越し騒動についてはこちらもぜひ
そうしてなんとか一人暮らし再出発を一歩踏み出した私は、真冬、とある人物と再会した。
会社の同期の結婚式に参列したときのこと。私はごく平凡な会社員なのだけど、大工になると言って突然会社をやめた同期がいた。彼とはほとんど話したことがなくて、よく知らないまま辞めていってしまったなぁという感じ。そんな彼と数年ぶりに結婚式で再会し、初めてまともに会話をした。
彼が彫金職人になってアクセサリーやインテリアを作っているのはうっすら知っていたのだけど、実際のものを見たのはその日が初めてで。彼が身につけていたブレスレットも、ピアスも、指輪も、全てが圧倒的な存在感を放っていた。強い、と思った。ひとめ見た瞬間にずん、と質量が伝わってくる。それでいて木の葉のような軽やかさが、そこに同居していた。
それでもう、そのアクセサリーに一目惚れしてしまって。アクセサリーをオーダーで作ったことなんかないし、値段が決まっていない買い物をするのは初めてだったし、緊張しながら彼に連絡をした。
彼は依頼を快諾し、丁寧にヒアリングをしながら制作してくれた。引かれるかなぁ…とちょっとビビりながらも、勇気を出して失恋と引越しの話をして、「この街をモチーフにしたピアスを作ってほしい」とお願いした。私はこの再出発を長い長い一人旅の始まりのように捉えていて、その放浪の旅を支えてくれる相棒がほしかった。どんなに心細くても、そいつがいるから勇気が出る、強くなれる、そういうお守りがほしかった。
そんな想いを託したピアス。できれば直接感謝を伝えたくて、片道2時間電車に揺られ、夏のはじめに平塚のアトリエに訪問した。
その日はアトリエで開催していたイベントに参加した。展示を見て回ったり、美味しい珈琲や夕食をいただいたり、ピアスを作ってくれた彼の弾き語りライブを鑑賞したり。(音楽も作れるなんて、研ぎ澄まされた感性の持ち主)
まっすぐで、力強くて、でも響きの先では程よく力が抜けて、透明な余韻が残るような弾き語りに聴き入った。こう、芯が強くあって、熱く燃えている炎を感じるのだけど、その炎は赤やオレンジや青ではない。深くて半透明なターコイズブルーのようなイメージ。アウトプットがアクセサリーか音楽かという違いはあれど、彼の創作物が纏っている世界観には一貫性があるな、と思った。
様々な職人の共同体となっているその"場"は、好きと活気に満ちていて、場慣れしていない私は気遅れしつつも、とても新鮮で良い1日を過ごした。あぁ、やっぱり彼にピアスを頼んで良かったなぁと、一人ひっそりと温かい気持ちになった。
余談だけど、そこには文章を書く方もいらっしゃって。なんとなく展示にも寄ってみると、ときめきの塊のような文章に出会ってしまった。
惹かれたのは間違いなく、引越しというテーマを深ぼって考えていたことも影響していて。永遠にわからなかったパズルのピースが、道端に転がっているのを、あっ、と見つけたときのような嬉しさ。自分の探し求めていたものとリンクするような出会いもあってか、受け取ったピアスはとても特別に思えた。
あれから半年、そのピアスを身につけるほどに、愛着が湧いてゆく。
個人的なことだけれど、引っ越しから1年ちょっと、愛する人を手放した代わりに舞い込んできた新しい恋がつい先日終わりを迎えた。そして、人生の恩人が大学進学祝いにくれた大事なネックレスが突然ちぎれた。はぁ、人生難しいなーと気が遠くなったりもするけれど。
私の好きな言葉に"放てば手に満てり"というものがある。よく言われることではあるけれど、何かを手放せば何かが舞い込んでくるということ。切れてしまったネックレスは、きっとまた新しい何かが舞い込んでくるサインだと信じることにしよう。大丈夫、ピアスの方は無事なんだから。ちょっとくらいの荒波なんか乗りこなして、私はこの果てしない旅を面白がって歩いていける。この先もきっと、ずっと。
お気に入りのピアスを今日も、耳元で揺らしながら。
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