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インド旅|ただいま、日本🇯🇵
土曜日の早朝、混沌の国インドから帰国した。
飛行機から一歩外に出ると、冷たい空気に身を包まれ、寒さに首をすくめる。インドに飛び立つ前からこんなに寒かったのか、この1週間で急に寒くなったのか。毎日30℃超えの常夏に順応したての身体では、その判別もつかないくらいとにかく寒い。
寒いことを除けば、日本に帰ってきてから全てのことにいちいち感動していて、日常が半透明に輝いて見える。東京ですら空気が綺麗だと思えるし、粉塵で視界が悪いこともないし、トイレも清潔で、空は青く澄んでいる。生野菜を好きなだけ食べたり、レストランの水を何も気にせずに飲めるし、家に帰ればホットシャワーを好きなだけ浴びることができる。電車は遅れないし、車は美しく整列して走っているし、クラクションを鳴らす人もいない。おつりを全部もらえたか目くじらを立てて確認する必要もないし、物を買う時に不当な値段をふっかけられることもない。もちろん、3歩歩く度にキャッチにしつこく声をかけられることもない。
全てが予定調和で、ことごとくスムーズ。
日本という国は恐ろしく快適で、恐ろしく緻密で、恐ろしく無口な国だ。
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序盤でスマホの盗難に遭った私は、旅の道中でずっと暇を持て余していた。とにかく周りをぼーっと眺めたり、その辺を通りかかった知らないインド人と雑談したり、持ってきていた書類の上に落書きしたりして1週間を過ごした。それでも何もすることがなくなったら散歩をするか惰眠を貪っていたので、ほんとに旅に出てたんだっけ?と思うくらい健康で元気が有り余っている。
毎日10時間くらい仕事でPCと向き合い、4時間くらいスマホを触る生活をしていたことが信じられなかった。スマホ、7年も使ってちょうど買い替え時だったし。家族、恋人、同僚、友人…私と日本を繋ぎ止めるあらゆるものが目の前で弾けるように一瞬で消えてなくなって、ただ目の前にあるものが全て。情報がシャットアウトされることが、こんなにも贅沢。(インドは時計がないので、時間すらわからなかった)
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スマホを盗まれたという語り草が一つ増えて、デジタルデトックスもできて、なんか私ラッキーだったなぁ。(一緒に旅をしていた友人にはホテルの予約や道調べで迷惑をかけたので、そんなことは口が裂けても言えない。)
…と呑気な感想を述べているけれど、こんな風に思えるようになったのはさすがに旅の中盤からで。初日はほとんど泣きそうなくらい帰りたくて、怖くて怖くて怯えていた。
夜のデリー空港から一歩外に出た瞬間、おぞましい数のインド人がまくしたてるように話しかけてきて、ずっと後をつけてくた。(全て怪しいリキシャの客引き)メトロのチケットを買うのに、ぼったくられた。鳴り止まないクラクションの騒音、スラム街の異臭、野良犬とハエ。夜のデリーに震え上がりながら、やっとのことで辿り着いたホテルで、今度はツアーのオプション申し込みの勧誘をしつこく受けた。
もうこのままホテルから一歩も出たくない。こんな所で、バックパック1つだけ背負って彷徨い歩いて、1週間も生きていかなければならないなんて。無理だ。
目に映るものや、話しかけてくる人の全てが恐怖で、常に気を張っていた。気を抜くと呼吸を忘れそうだった。インドに到着して、まだたったの数時間なのに。ただ移動をしただけなのに。
ホテルの部屋に入って鍵をかけた瞬間に友人と2人で顔を見合わせて、ふたりして大きなため息をついた。
「………まだ何もしてないのに、あり得ないくらい疲れたね」
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とんでもない場所に来てしまった。私は生きて帰れるのかな?最悪死んでもいいけど、長時間痛めつけられるとか、やばいことになった状態で日本に帰るとかは嫌だな。あとまあ欲を言えば、ガンジス川までは辿り着いてから命尽きたい。私が死んだらどういう順番で知れ渡り、誰がどんな言葉を口にするんだろう…生命保険に入ってないから親は損だなぁとか、粉々になったメンタルでありもしない妄想を膨らませた。ただ隣にいてくれる旅慣れた友人の存在だけがどこまでも絶対的で大きく、私の命綱だった。
あぁ…本当に想像を絶する治安の悪さと混沌…!もう逃げ出したいし、帰りたい。全然わくわくしない。なんでインドなんかに来てしまったのか。
だけど、これこそがまさに私の求めていた刺激でもあった。そういう意味では全てが予定通りだ。恐怖に震えながら、私は日本で想像していた通りに気力を振り絞った。期待を遥かに上回る絶望度合い。ここはとんでもない場所だ…!なんて最悪で、なんて最高!
私は明日の朝から心を入れ替えて、自分の中の野生児を全力で呼び覚まして、このカオスを心ゆくまで楽しむのだ。そのためにここに来たのだ。心を落ち着けるために恋人に連絡をして、「カオスを楽しむ、怖さを楽しむ」と心の中で唱えながら眠りについた。空気が悪くてマスクなしでは寝れないような部屋でも、疲れが優って熟睡だった。
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そうして始まったインド旅。毎日色々な出来事や出会いに溢れていて、想像も及ばないような素敵な旅になった。今までの旅の中で、ぶっちぎりナンバーワンだと自信を持って言える。
インド自体を好きかと言われればどちらかというと嫌いになったけれど、旅をするには最高すぎる。このまま、あのぎゅうぎゅうの寝台列車に乗ってインドを一周したかったなぁ。若かりし頃の母が訪れた南インドは、どんな場所だったんだろうか。恋人が訪れたインドの北の果てにあるレーは、どんな場所だったんだろうか。
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そうしてちょっと後ろ髪を引かれながら飛行機に乗り、日本に帰ってきた。もうなんか全部どうでもいいし、スマホの手続き面倒くさいな、このまま1日誰にも連絡せずに寝て過ごそうかな、と思っていたのに。家に帰ってPCを開くと、ほとんど無意識のうちに恋人に連絡していた。
いつも返信が遅い恋人から3秒で返信が返ってきて、諸々の事務手続きに付き添ってくれると言う。ふーん。ちょっとむっとした気持ちになりながら、それでも嬉しさが勝って、スマホを盗られてやっぱりラッキーだったかもしれないわと、苦笑した。
スマホは全然一人で買いに行けるし、恋人を待たせるのが目に見えていたので申し訳ないなぁと思ったけど、そういう一人でもできることを一緒にやってくれる人がいるっていうのはとっても幸せなことだ。もう私は遠慮とか、そういうのをやめることにして旅に出たので、甘んじて恋人を家まで呼びつけた。スマホなんかより、ただ会いたかった。いちばん好きな人に、いちばん最初に。
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その日はスマホを買って、銭湯に行って、ふたりで鍋をして、温かい布団でくっついて眠りについた。冬の幸せ全部セットみたいな1日で、普通は帰国当日に詰め込むことじゃないよなぁと思った。でもしょうがない、私は欲張りだから。
恋人の首筋に鼻を寄せて、その落ち着く匂いを嗅ぎながら、昨日まではインドのPM2.5まみれの粉塵を吸い込んでいたんだよなぁと冷静に思う。ほんと、ものすごい差。
今私は、自分のアパートのキッチンでスツールに座って、シチューを煮込みながらnoteを書いている。肌寒い部屋の中に、玉ねぎとかぼちゃの優しい匂いが漂っている。帰国後の美味しいもの爆食フィーバーも過ぎ去り、仕事にも復帰し、ゆっくり日常が戻ってきた。
旅の出来事や感じたことなどは、ゆっくりnoteにしたためていこうと思う。書きたいことが多すぎて、しばらくはずっと旅のことばかりになりそうだ。
インドに行ったこと、改めて本当に良かった。
一生忘れられない、宝物みたいな旅になりました。
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2024.11.11