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大切な本⑦「国籍と遺書、兄への手紙」

国籍とアイデンティティ


自分が在日コリアンだと意識したのはいつ頃からだっただろうか。二世の両親は朝鮮学校で学んだが、私たちは日本の公立学校に日本名で通っていた。
 食事や季節毎の風習など朝鮮文化は生活の中に溢れていたし、母がカヤグム(朝鮮の弦楽器)を習っていたり地域の在日コミュニティとのかかわりもあったので、幼い時から自分は朝鮮人であるという認識はあった。ただそれを敢えて友達や知り合いに言うものじゃない、という暗黙の了解のような意識も潜在的にあった。

 それでも隠さなければならない理由は自分のどこにもなくて、寧ろそうしたルーツを持って生まれたことを嬉しく思う気持ちもある。マイノリティだろうが何だろうが自分のアイデンティティは大切に守りたいし、誰にも侵害されたくない。

 去年お気に入りの新刊書店で安田菜津紀さんのトークイベントがあり足を運んだ。ご自身の出自を公表されながら様々な社会的発信をされる姿はいつも眩しく見ていたけれど、直接お会いしてさらにそのお人柄に惹かれた。穏やかな語りの中に知性と強い芯が感じられて、似たルーツを持つことが誇らしくも感じられた。

 鷺沢萠さん(もっとたくさんの作品を読みたかった)や崔実さん、李龍徳さんなど同じコリアンだけでなく温又柔さん・李琴峰さんなど日本以外のルーツを持つ方々の作品には、すべてそこに紐づける必要はなくてもきっとそうした背景が少なからずあらわれているように思う。それらにはどこかあたたかい眼差しや毅然としたメッセージ性が潜んでいて、いつもとても勇気づけられる。

 今は本名を堂々と名乗って生活できることが嬉しい。それが叶わなかった祖父祖母世代の思いを勝手に背負いながら生きている。


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