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ばかみかんとヤブ医者


私は確かにこの目で見た。
「ばかみかんさーん。診察室Cへお入り下さい」
と看護師にアナウンスされ、男が診察室へと入っていくのを。ばかみかんとは本名なのだろうか。彼の素性が気になって仕方がない。

しかもばかみかんが呼ばれたのは、担当の毒鯰(どくなまず)医師(90)がデタラメな事ばかり言うため患者たちの間で「ハズレ部屋」と呼ばれている診察室Cときているではないか!
これは面白い事になってきた。ばかみかんと毒鯰の攻防が見ものである。

地獄耳である私は、診察室Cに最も近い席に座ると2人の会話を容易に聞き取ることができた。
「ばかみかんです!本日はよろしくお願いいたします!病院に来るのは初めてで、少し緊張しています」
「どうされなすった」
「ばかみかん、最近痛いんです」
一人称がばかみかんだった。
「どこが痛いのかね」
「胸です。ドキドキ、胸が痛むのです」
「それは大変じゃ。今すぐこのビリゲロミンを飲みなされ」
思い出した。このヤブ医者、事あるごとに「ビリゲロミン」とかいう得体の知れない薬を薦めてくるんだった。この前ネットで調べてみたら体内踊爺体活性剤とか書いてあって、ますます意味が分からなくなった。踊爺体って何だよ。
「ああ、痛い。今どんどん痛くなっています」
「それはいかん。ビリゲロミンを50錠は飲まんとな」
「ドキドキ。さっきよりも痛みがひどくなっています。あ、分かったぞ。ばかみかん、原因が分かりました!」
「ついでにわしも飲んでおくとしよう」
「このドキドキする痛みはどんどん増しています。あなたを見るたびに」
ばかみかんも毒鯰に劣らぬやばさである。
「どれ、今日は2000錠飲むとするかな」
「つまりこれは恋なんだ!」
「ゴクリ…ビリゲロミンが身体中に染み渡ってゆく。力がみなぎって、…あっ、あ…」
「毒鯰さん、このばかみかんと人生を共に歩みませんか!」
「…ビリ…ゲロ…ミン…」
「毒鯰さーん!」

その直後、毒鯰は緊急治療室へと運ばれていったという。
ばかみかんがどうなったのかは私も知らない。



(追記)
もしもこの話を読んで爆笑して下さる人がこの世に1人でもいるとしたら、私はその人と絶対に真の友達になれる気がします。

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