塩は氷を融かすのか、作るのか(4)
前の記事では、0℃の氷水に食塩を投入すると、水と氷が混ざりあっている水の側だけ食塩水となって凝固点の降下が起こる結果、水と氷の状態をいったり来たりしている平衡状態がやぶれて氷が水になる変化が優勢な、偏った変化になることを指摘しました。その結果0℃の水が増えると、新たに自由な運動ができる水分子の量が増えた分、必要とされる内部のエネルギーを周囲から調達する必要が生じ、その結果食塩を投入した氷水は周囲の熱エネルギーを奪って周囲の温度を下げる、という説明までで前回記事は力尽きました。この記事は続きです。
溶けると周囲の温度をさげる話
結局、氷水に食塩を投入すると、氷水の水の側だけが食塩水となって凝固点の降下が起こる結果、水と氷の間の相互の行き来の平衡状態がやぶれ、氷が水にかわる変化が卓越して全体として氷が溶けることになるわけですが、その際周囲の熱を奪うので、外部からマクロに見た場合に温度が下がって観測されるわけです。
つまり、食塩による凍結防止の役割とジェラートが作れる程度に冷える効果は、一見逆向きの働きの様に見えましたが、氷が溶けると同時に溶けるがゆえに冷える、そこがここまでで存在を予言した理屈の「ワンクッション」(もう忘れられてそうですけれど)というわけです。凝固点がさがったから温度も自動的に下がりました、ではない、と言うことですね。
重要なのは、食塩水となった部分や元氷であった部分の水の温度が下がるのではなく、ミクロ視点で氷から水に変化したその部分とは別の周囲の部分の熱を奪って温度を下げる現象であるという点です。
あくまでミクロのサイズでの構造の上での話ですから、実際には非常にこまかく混ざりあっていて、どこが温度がさがってどこが0℃のままかといった区別は、マクロの視点ではよくわからいように思います。
ただ、全体として温度が下がるという現象になるのは確かなことです。
結論
結局食塩を投入した氷水では、ミクロな視点での各部分の周囲の温度を下げる効果が積み重なり、マクロの視点では全体として温度が下がると言ってよいのではないでしょうか。そしてこの、氷が溶けながら温度が下がる現象は、すべての氷が溶けきった時に新たなエネルギーの必要が無くなって終了となります。その後は周囲から熱をもらって徐々に温度が同じになって行くのでしょう。
凍結防止とジェラートを作れる様な温度低下とは、ひとつの現象として、実はちゃんと両立していることがこれで説明できました。
しかし、もしも以上の様な理屈によって凍結防止と温度低下が同時に起こるのだとしたら、凍結防止剤を道に散布した際には、路面の凍結は防止されるものの温度自体は下がるということになりますよね。つまり、素直に凍らせておけば路面温度は0℃前後で推移していたものが、凍結防止剤を撒いた結果、凍りはしないものの、温度は気温等の変化にあわせて(ひょっとしたら一時的にはそれよりも低い温度まで)さらに低下する、といったことも、条件次第では発生するかもしれません。
路面凍結防止により事故を防ぐ当初目的は達成されていますが、凍らないけれど路面温度は低下傾向になるという、別のリスクが出てくる可能性はある様にも見えます。
つまり、例えば少量の別の水をそういった、温度が低下した路面に撒いた場合、撒いた水には凍結防止剤は含まれていませんから、その新しくまいた水が自然状態よりも急激な凍結をもたらすといった可能性は考慮する必要がありそうです。絶対そうなるわけではないとは思いますけれどね。
ただ、そのあたりはうっかりすると、「凍結防止剤を撒いたんだから無条件に安全性が高まった」という意識がが生じかねないところです。現象の性質まで正しく理解することは、結果起こることだけを暗記する場合よりも「ただし、新たに水を撒くのはまずい」といった気づきを生む等、事態を正確に見通すことにも、役立つのかもしれません。