もし大量の張り紙の中に「わたし」がいたら……無害、「行方不明展」に行く。
簡単に死ねないからわたしはわたしをやめたいし、すーっと消えていなくなりたい。そんな気持ちは、暗渠みたいにずっとあります。
「死ぬ」のはなんかほ~~んのり怖いくせに「消える」には、ひんやり冷たい川の水に、火照った足を浸すような心地よさを覚えます。
そんなわたし、行方不明展へ行くの巻。
米津玄師じゃないですけど、「ドーナツの穴」みたいでした。
人やものや場所がないことによって、よりその存在を強く感じてしまう……残された側の情報から、いなくなったひとやものたちの輪郭を知ると言いますか……。
そうそう、懐かしさを覚えるものにも出会えました。
これ思い出したんです。
懐かしいなぁ……就職したばかりの頃、まとめサイトでオカルト板ばっかり読んでいましたっけ、怖がりなのに。
きさらぎ駅も読んだし、いつものエレベーターに乗ったら知らない建物に着いた……というような話も読みましたね。
(そんな感じの映像作品ありましたね、実際映像にされると不気味さがあってよかった)
知らないところにひとりで放り込まれてしまうのは怖いです。
言語も文化も違うところは当然不安ですが、どう見ても自分が生きている世界なのにどこか少しだけ違う……というのも相当不気味。
でも、そこで今までのわたしではなくなれるなら、それはそれで悪くない。
わたしはわたしを辞めることが可能ならと、何度となく記憶喪失を夢見ましたし、身元不明になりたいと思ったことも、幾度もあります。
「違う世界に行ったって、うまくやれる保証もないのに」
そんな展示もありましたね。確かにそう。そうなんですけど……。
免許証保険証マイナンバーカードクレジットカードにスマホ、どこかに属し、何かでなければならないこの世に疲れることは度々で、どれだけ生きてもきっとこの息詰まる感じに慣れることはありません。
なにものでもなくなりたい。
きっと、そういう気持ちになること、あなたにもあるでしょ?
今の世って、余白が少ない気がします。
必ずなにかにならなくてはいけないし、全てに白黒はっきりつけることを迫られているようで、息苦しくなりはしませんか。
白くて狭く、昼光色がやたら眩しい部屋に閉じ込められて、己と言うものの正体を暴こうとされている感じ。ああ……疲れちゃう。
行方不明展、思ったよりこぢんまりとした会場に、思ったよりも人が集まっていて、みんなほんのり怖いのを味わいに来たのかなと思うと同時、みんなもうっすら疲れているのかなと思いもしました。
この世からの、束の間の逃避を夢見て……。
基本的には写真撮って良いの、すごいですよね。いいんだ。令和っぽい。
これはわたしみたいなこと言うなあと思い、ありがたく撮らせていただいた展示物です。
何気なく落ちていた竹の子族の写真、テレビの横にあった「卵」のメモ、「2024年8月5日」に見つかったプール。
展示物以外にも、すみっこや隙間に点在するもの、何の説明もなくぽろぽろ落ちているそれらが、より世界観を強固にしていましたね。
明るい部屋。それでも隙間に生まれる薄暗がりが、その薄い影が、じわじわ滲んで侵食してくるような、不気味さと違和感。
薄気味悪くって、だけど、誰かの大切な記憶だったかもしれない。
壁の隙間に、熱心にカメラを向けているひとがいると思ったら、アンケートがありました。
アンケート、わたしは迷わず「はい」。
残されたひとたちがどう思うかなんてわたしは知らないし、知ることはできないし、たぶん本気で消えたいひとはそんなことまで考えない。
身勝手なんですよ。
でも、いなくなってしまえばそんな文句ももう聞えませんからね。
会場をあとにすれば、殺人的な太陽が降り注ぐ日本橋。
さっきまでの場所がまるで、白昼夢のよう。
夢と現実の間をそぞろ歩いたようなきもちです。
そういえば数年前、パソコンの中身を整理していたら、誰が書いたのかわからないけれど、とても綺麗な表現の小説(二次創作)が出てきたんですよ。
誰の創作を保存したんだろう?と思いつつ読み終わったのですが、最後に、自分の名前が書いてあった時にちょっとぞわっとしました。
この小説を書いた覚えがまるでない。
忘れているだけなのかもしれないけれど…。
でも、わたしはわたしでなくなれば、わたしのことを受け入れて、認めて穏やかに生きていけるのだという可能性もほんのり見出しました。
もし……今わたしが、わたしに関する一切を忘れてしまったら……わたしはわたしをどんな気持ちで見るのでしょう……。
その時、わたしを知る人がいるなら、どんなわたしを語るのでしょうか。
もう去ったジャンルだし、その二次創作は処分しました。
とてもじゃないけど、わたしが書けるようなものとは思えなかったし……。
もしかしたら、他の人の作品引っ張ってきて「こうなれたらなぁ」って戯れに自分の名前書いただけの可能性も、ありますけどね。
もうわかんないよね。
「真偽不明 記憶の行方不明」です。
無害