好きな季節はいつかと聞かれて、自分の誕生月のある季節を答える人はどのくらいいるのだろう。
「秋がいちばん好き。だって誕生日があるから。」
小学生の自分がこう言っていた記憶がある。
年々上がる夏の気温、酷暑をどうにか乗りきる頃に訪れる、ふと気がつくさわやかな風が吹く日。
地面にひとつめのどんぐりを見つける日。
それでも今年は木々の葉がなかなか色づかなかった。
ようやく赤や黄色の風景に囲まれると、秋生まれとしてはそろそろバースデーケーキはいちごに白いクリームか、それともチョコクリームかと昔と変わらず気持ちが浮き立ってくるのだ。
冬に咲く存在感のある椿より、その少し前、晩秋から花をつける山茶花が好きだ。
花びらが八重になっている形がいいのだ。
何かを大切に幾重にも包んでいるようではないか。
バスの中で見かけた「秋のバラフェスタ」のポスターのバラたちも、その真ん中に小さな宝物でも隠しているように、何枚もの花びらがほころび重なり合いながらひらいていた。
都内唯一の植物公園として「神代植物公園」が開園したのはは1961年のことである。
もともとは東京の街路樹などを育てる苗園と呼ばれる場所だったそうだ。
ジンダイ、という名前に聞き覚えがあり、幼い頃に「深大そば」という有名なおそばを家族で食べに行ったのをうっすらと思い出した。
植物公園の隣には、東京で最も古い浅草寺に次いで2番目に古くからの歴史を持つ深大寺がある。
そしてその周辺には名物深大そばのお店がたくさん軒を連ねているのだ。
こうして、春より香りが強いのだという秋バラと、懐かしいおそばの味を確かめに武蔵野の森へ出かけることになった。
暦の上で立冬を迎えても、季節は秋だと言い張っていた。
せっかく錦のように染まった木々の葉は次々と落ちていき、冷たい風に震えたある朝、もう冬がそこまで来ていることを知る。
なんて短くはかない季節なのだろう。
それでこそ、だからこそ秋なのか。
日毎に強まる寒さに秋の終わりを実感する。
秋の残り香を探しながら、そろそろ自分のためのケーキを選びに行こう。