2022.5 良かった新譜
kinda alright / plague skater / RAY / TORIENA / Trophy Hunt / Windwaker / くだらない1日 / ゆうらん船
kinda alright - rewilding
(Album, 2022.4.29)
ペンシルバニア州フィラデルフィアの4人組。マスロック寄りミッドウェスト・エモの煌めきとイージーコア由来の陽性ヘヴィネスに、Skramzの獰猛さを加えた...と文章にするとそこまで特異な音楽性でもないんだが、各要素の抽出のプロセスかあるいはスポイトを当てるポイントの選び方に慧眼が光っている。重いけど爽やかで、健やかだけどひねくれてる、一筋縄ではいかない引っかかりがあります。
plague skater - psep
(EP, 2022.5.16)
ニュージャージー州のWill Schwesterによるワンマンプロジェクト(ただし、作曲・演奏の両面で、度々彼の友人が参加している)。"Scuzz Pop"(不潔なポップ)を自称する、Lo-fi / ノイズ・エモパンク。
個人的に今年最もリピートしている音源ことBirds Fear Death「livestream death compilation」に近い音楽性だが、刹那的に荒々しく駆け抜けるBirds Fear Deathに対し、こちらはやや感傷的でメロディアス。
そんな2作を聴き比べていると、ノイズという表現に、少なくとも2つ以上の方向性があることに気が付く。即ち、ノスタルジックな情景や感情、物理的あるいは精神的な遠景の描写としてのLo-fiなノイズと、複雑さや激しさがピークを超えた感情の表現としてのRAWなノイズ。もちろんこれは上記2作に限った比較であり、ノイズが持つ意味合いは実際にはもっと果てしなく多岐に渡っていることだろう。「音質の良さ」はいわずもがな、「音質の悪さ」も深い世界だ。
RAY - Green
(Album, 2022.5.25)
「圧倒的ソロ性」と「『アイドル×????』による異分野融合」をコンセプトとする日本のアイドルグループ。昨年リリースのEP「Yellow」収録曲や、既にライブでもお馴染みの「わたし夜に泳ぐの」「TEST」など、佳曲揃いのアルバムだが、個人的に特に印象に残るのは#7「スカイライン」。正直今まで、ポエトリーリーディングというアートフォームを理解できていなかった―――朗読と音楽が結び付く必然性を見出せていなかったんだけど、この曲にはそれがある。言葉のイメージを何倍にも膨らませるサウンドスケープ。そして、板の上に立つ「演者」が語ることで初めて意味を持つ詩。"ある選択からはその選択をしなかった世界が生まれ、ある結末からは新たな始まりが生まれる"という一節は、『RAYでなかった世界のRAY』を想起させる。そこに浮かぶ姿こそが、RAYと切り離されたアイデンティティ=「圧倒的ソロ性」なのではないだろうか、とか。単なる音と言葉が持つ以上の奥行きを生むこの楽曲が、今まで知覚できていなかった世界を教えてくれました。
TORIENA - RAW
(EP, 2022.5.13)
日本のプロデューサーによるEP。約8年ぶりとなるTREKKIE TRAXからのリリースとなる。ここ数年のTORIENAさんは毎年良いアルバム出しててずっと確変状態で素晴らしいですね。
TORIENAさんのキャリアは、チップチューンとエレクトロの融合+キャッチーな歌ものを軸にした「SIXSENSE RIOT」以前と、ハードなレイヴサウンドに舵を切った「PURE FIRE」以降に大別でき、本作も「PURE FIRE」の延長にある作品である。しかし「RAW」では、前者の頃のTORIENAさんの魅力、それも8bitサウンドやポップな歌メロとは別の、言語化しにくい、しかし記名性を持った作曲センスが発揮されており、本作をもって「PURE FIRE」以降の試みとTORIENAさんの元来持っていた(単なるジャンル分けではない)個性が分かち難く結び付いたと言えるのではないだろうか。もうこっから先は何をやってもTORIENAさんのフィールドだ。凄い。
Trophy Hunt - The Branches On Either Side
(Album, 2022.5.20)
ニューヨークの"Ecstatic Grind"を掲げる3人組。Middle-Man RecordsとZegama Beach Recordsからカセットもリリースされている。"Ecstatic Grind"の看板の通り、スクリーモ〜ブラックメタルの陶酔と刺激による快楽に身を任せつつ、ポストロック的アトモスフィリックなクリーントーンやポストパンクのようなフレーズ、ガバキックが程よく水を差していて素晴らしい。Sugar Woundsの昨年作が気に入った人にもオススメしたい、享楽的でありながらエクスペリメンタルな作品。
Windwaker - Love Language
(Album, 2022.5.6)
メルボルンを拠点に活動する4人組によるFearless Recordsからのデビュー作。Paleduskと同経度で共振しつつ、いかにもアメリカのレーベルらしい(つまり、FearlessやRiseらしい)所謂New Core的な、R&B風メロディー・歌唱を軸にした、アヴァンギャルド・シーンコアとでも名付けたい一枚。リードトラック「Beautiful」は数年に一度レベルのキラーチューンだと思いますが、同時にこれめちゃくちゃPaleduskじゃん! という感じなのでファンの方は是非聴いてみて欲しいです。この手のサウンドのアルバムでは久々のヒットでした。
くだらない1日 - rebound
(Album, 2022.4.29)
東京の4人組ミッドウェストエモ/インディーロックバンド。Wikipedia曰く、「メロディアスで感情的な音楽性、そしてしばしば心情を吐露するような歌詞によって特徴付けられるロック・ミュージックの1スタイル」が「エモ」とのことだが(引用元)、10年代前後の所謂エモ・リバイバル以降からは、辞書的な言葉では説明しづらい「『エモ』を演奏することのエモさ」のパフォームが目的化されていて、その最たる例のようなバンドが彼らだろう。「アメフト部」「激情部」「力水(英題:Mineral Power)」なんて悪ふざけのような曲名と、ポスト・ロック〜激情ハードコア〜マスロックなど多岐にわたる楽曲を展開しながら、ブレない軸を感じさせるのは、彼らが「『エモ』を演奏する」という命題に突き動かされているからに他ならない(American FootballやMineral、Fall Out Boyやenvyまでもが時として同じカテゴリに括られるのって、冷静に考えるとおかしいよね。でもそのおかしさが彼らの音楽の面白さになってる)。
しかし一方で、本作ではラッパー iida Reoとのコラボレーション「やすらか」が印象に残る。iida ReoはSkramzからの影響を明かしていたり、moreruとコラボレーションとしていたりとアンダーグラウンドなロックシーンと深い繋がりのあるラッパーではあるが、しかしインディーロック文脈のエモとヒップホップのクロスオーバーは、これまでそう多くはなかっただろう。
彼らのコラボレーションが、単なるサウンドの食い合わせの良さや、くだらない1日メンバーとiida Reoの個人的な関係以上の親和を生んでいるとしたら、エモが自己言及性を獲得したことに鍵があるかもしれない。つまり、ヒップホップが「リアルなヒップホップ」を志向するのと同様に、エモは「エモのエモさ」を追求する。強い帰属意識、或いはある種のナルシズムが異ジャンルを共鳴させたとしたら、このアルバムは、マシンガン・ケリーがポップパンクを復権させ、メインストリームがパラモアやアヴリル・ラヴィーンを再評価する理由を思いがけない角度から示唆している。なんかスゲーことに気付いちゃった!?
ゆうらん船 - MY REVOLUTION
(Album, 2022.5.25)
Gateballersの元メンバー・サポートメンバーやカネコアヤノのバンドメンバーらを擁する5人組。個人的にも年間ベストな一枚であった前作「MY GENERATION」は親しみやすさと実験性を兼ね備えたエクスペリメンタル・フォークロックといった趣であったが、本作ではさらにジャンルレスに、オートチューンまで駆使したオルタナティブR&B/ダンスミュージック的な要素も取り込みつつ作編曲でも音響面でもより踏み込んだ表現に達している。「ゆうらん船」というバンド名や、前作までのフォーキーなサウンド・ソングライティングの印象から、どこか牧歌的なイメージが持たれているのでは? という感もあるが、今作では緊張感が張り詰めていて、とにかくカッコいい。RADIOHEADのOK Computerに迫る極上のエクスペリメンタル・ロック。あと、これは勝手な個人的印象だけど、歌唱やメロディーラインに、BUMP OF CHICKENを思い出す瞬間もある。俺はRADIOHEADもBUMPも大好き。ゆうらん船も大好き。