あの鐘を鳴らすのは⑤
(引用する方法をやっと発見した私)
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煌めく瞬間に捕らわれて
”3km地点“と言う看板が見え、しばらくどんな意味かわからなかった私は呆然としてその場に突っ立ったまま動けなかった
遅れて脳が理解し、あと14kmという絶望にも似た数字に愕然とした、文字通り、この先の道が永遠にも続いて見えた
ここまで走ってすでにヘロヘロなのにあと14km、14kmもあるのか、すでに足も痛い、喉も乾いた、胸も腕もどこも痛い、途方に暮れるとはよく言ったものでしばらくどうしていいかわからず、私はただ雑木林の中を亡者のそれの如く歩いた
無理だ
とてもじゃないが無理だ、訳がわからない
こんなに長いなんてしらなかった、この苦しみがあと14km続くのか、投げ出すにもどうしたらいいかすらわからない、どこの誰に言えば帰れるのか、と言うか帰ることなんてできるのか、下調べすらしていなかった私はただただ皆が進む道を歩くことすらできなかった
しばらく歩いて落ち着いた私は、どうやって帰れるのかを探っていた
仕方ない、おそらくこの規模の大会だ、しばらく歩けばスタッフさんもいて帰りたいですとでも言えば何とかしてくれるだろう、あとは妻に走れなかったとか足が痛すぎて等言ってごまかせばいい、いつも通り少し小言を言われても適当にヘラヘラしてご飯でも食べて帰ればまた昨日と変わらない毎日が待っているはずだ
そう
そんな日々が
そんなのダサすぎるじゃないか
それはあまりにも
あまりにも情けないじゃないか
私の美学の1つに「妻にはカッコつけていたい」と言うのがある、なんだかんだでカッコつけていたい、かっこいいと言われたい
いかにハゲと言われようといかにチビと言われようと、くさい触るなと近寄らないでクズ人間のクズゴミムシ!と罵られようと、妻にはカッコつけていたいのだ、それが私の理想の男像であり、私の目指す旦那像なのだ、クソ!
ここで帰るのは簡単だ、ただ、歩くだけならまだ進むことはできる、ゆっくりかもしれないがただ歩くだけでいいのであれば少しか進むことはできるかもしれない、まだ諦めるのは早い、慌てるような時間じゃないと私の中の仙道が囁く、諦めたらそこで試合終了だよと安西先生まで肩を貸してくれる、ヲタクというのはいちいち都合のいいものだがこの際誰でもなんでもいい、みんなオラに力を分けてくれ状態だ
そうして1歩ずつ、本当噛み締めるように1歩ずつ、私は歩き始めた(続く)