ゲームのシステムと物語世界
はじめに
パズルゲームなどを作る時、ゲームのルールを考えます。
どういう事ができて、それがどういうパズルになるか。
そしてそれは、解法を見つけた時、良いカタルシスとなるか。
などを考えるのですが、それとは別に「このルール、プレイヤーに伝わる?」という事も考えます。
今回は、この「このルール、プレイヤーに伝わる?」についてのお話です。
剥き出しのゲームのルールって
パズルゲームの主人公の能力などのゲームのルール。
これを剥き出しでなんの装飾も無しに書くと、なんだか分からないものになります。
例えば「ソロモンの鍵」のダーナの換石の術。
ボタンを押すと、主人公が向いた方向にブロックが無ければ、ブロックを発生させます。
ボタンを押すと、主人公が向いた方向にブロックが有れば、そのブロックを消します。
なんだか、味気ないですが、プログラムの仕様としては充分なのです。
主人公の向きやブロックの定義は別に必要ですけれど。
ソロモンの鍵 Nintendo Switch
https://www.nintendo.com/jp/software/feature/nintendo-classics/clv-p-haccj/index.html
剥き出しのルールを物語で覆う
さっきの剥き出しのルール、これを覆ったのが「換石の術」という魔法。
ボタンを押すと、ダーナの前に石を創り、前に石が有ればそれを消します。
というようにまとまります。
なんだ、言い換えただけじゃないか、と思われるでしょうが、「換石の術」という仕掛けにまとめるには、その前段階を用意する必要があるのでした。
ブロックを出現させたり、消したりできる主人公の能力。
色々な設定が考えられます。
ソロモンの鍵は元々ゲームセンターのゲームでしたから、複雑な設定をプレイヤーに伝える方法がありませんでした。
プレイヤーが目にするのはゲーム自体のデモループと筐体に貼られた通称「遊び方シール」というものだけです。
何しろ1986年には、まだ、インターネットもパソコン通信も無かったのですから。
主人公を魔法使いにする
そこで主人公を魔法使いにする事にしました。
魔法で石を出したり、消したりできる、と。
主人公も魔法使いっぽいキャラクターにする事で、そのあたりの設定を見るだけで分かるようにしました。
魔法使いの主人公が、石を出したり消したりできる魔法「換石の術」を駆使して、迷宮を突破するゲーム。
こういう大まかな物語としての骨格が出来上がります。
ファミコンになると
ソロモンの鍵は営業戦略上、発売としてはファミコンとゲームセンター用の同時発売となっていますが、開発はゲームセンター用が先でファミコン版が後です。
ファミコンには、取扱説明書が付いており、遊び方シールと比べると多くの情報を載せる事ができます。
そこで、物語を拡張する事になります。(以下ファミコン版をFC、ゲームセンター用をACと表記します)
ACでは、迷宮に物語的な構造は無く、次々とクリアして行けば良い、という流れでした。
FCでは、迷宮に物語的構造を持たせる事で、ショートカット可能なルートを設けるようにするなどの工夫をしています。
どういう工夫かというと、迷宮は黄道12星座宮、という星座をモチーフにした迷宮となり、ソロモンの鍵の名前からダビデの星(上下反転した正三角形2つが重なる図形)の各頂点に12の迷宮が置かれる、という配置にして、ショートカットできるようにしています。
下の図の緑矢印が各星座宮への順路で、点線水色がショートカットです。
登場するアイテムなども、魔法っぽい名称になっています。ACでは確か特に名称は無く、その効果のみの記載だったとかな、と思います。
初めはゲームシステム、そして物語世界と融合していく
ゲームシステムの一部を発想
これは私の場合、と前置きをして。
大抵のパズルゲームを作る場合、そのゲームの一部、と言ってもかなり重要な部分のシステムを考えます。
ソロモンの鍵でしたら「ブロックを〜」の箇所です。このブロックをある程度プレイヤーが自由に操作できる事がこのゲーム最大の特徴です。
こういった、そのゲームの特徴となるシステムを発想します。どうやって?それはまた別のお話です。
そういうシステムを構築したら、それをプレイヤーに分かりやすく伝える手段として、物語世界を創ります。
物語世界を発想
発送したゲームシステムをプレイヤーが「あまり説明を受けなくてもなんとなく分かる」という物語世界を創る訳です。
この「あまり説明を受けなくてもなんとなく分かる」という点が重要です。
とは言っても、プレイヤーの知識は個別に偏在しているので、あー、つまり個々のプレイヤーの知識はそれぞれある程度偏っているので、共通部分に焦点を当てるのはとても難しいです。だから、このゲームが好きそうなプレイヤーはこういう物語世界が好きだろうなー、というくらいで考えています。
厳密にやると、ターゲットとなるプレイヤー像を設定して、そのプレイヤーが好きな物語はこういうのだから、それに適合した物語世界を用意する、というようになるのですが、私は個人開発の人ですから、あんまりそこまで踏み込みません。大手の人はきっと踏み込まないといけないでしょうね。
ゲームシステムを拡張していく
初めに考えたのは、ゲームシステムの重要な部分です。ゲームはそれだけでは成り立ちません。その他の要素も必要です。
だものですから、その他の要素、アイテム、敵、ギミックなどを考えて行く必要があります。
で、考えたとします。例によって「ブロックを〜」という剥き出しなヤツです。
そうしたら、先に考えた物語世界の中に馴染む存在として、それらを嵌め込んで行くんです。
中には、ちょっと物語世界と馴染まないなぁ、というものも出てきます。
その時は、そのアイディアの方を修正するか、そのアイディアを包括するように物語世界を少し変更します。
高度な辻褄合せ
アイディアの方を修正するか、そのアイディアをを包括するように物語世界を少し変更するか。
文章にすると、簡単な内容ですが、実際は結構面倒なのです。
何故かというと、ゲームシステムのアイディアは、相互に関係性があり、安易に変更すると、副作用のリスクが出てきますから。
そして、ゲームシステムのアイディアは、一つだけじゃありません。規模が大きくなれば、数もジャンルも増えていきます。
で、物語世界の方も、初めのうちは柔らかい粘土みたいに加工がしやすいのですが、色々とゲームシステムを包括していくと、固くなって、あまり修正が効かなくなってくるのです。
その両方とも融通が効かないものを、うまく融合させる。
高度な辻褄合せが必要になるのでした。
下地作り
この高度な辻褄合せのスキルに役立つものとしては、次のようなものが役に立ったと思っています。
ゲームを遊んだら、あるいは、遊びながら、そのゲームシステムを解析する癖。
いろんな世界観の物語に触れる。
解析する方は、ゲームセンターのゲームを作っていましたから、自分でプレイする時や他のスタッフがプレイしている時に、どういう風に動いているか、とプレイする意識とは別の意識で解析する癖をつけていました。
家庭用のゲームとは違い、録画したり、繰り返し何度もプレイする訳にも、手持ちのお金の都合上できなかったのです。
いろんな物語世界に触れる、という方は、小学校〜大学の間、色々なSFに触れる事で培われたと思います。
SFは、基本的に同じようで、扱うジャンル毎に色々な仕掛けがあり、世界の範囲、内容も変わってきますから。
ちょっと残念なのは、トルーキンとは出会わなかったので、こちらの世界は後から知る事になるのですが。
その代わり砂の惑星はフランクハーバートが書いた方は全部読みましたけど。(これを負け惜しみという)
おわりに
ゲームシステムをプレイヤーに伝える方法として、ゲームシステムを内包する物語世界を創る。
について、私の経験のお話でした。
ゲームシステムを先に作って、後から外側に物語世界を被せよう、という場合、結構苦労すると思います。
その逆に、物語世界がかなり固く出来上がっており、それに合わせたゲームシステムを作る場合も、相性が悪いと苦労します。この相性、というのは、ゲームシステムを作る人が、その物語世界に共感できていて、さらに、物語世界自体がゲーム的な要素を持っている、という意味です。
そうじゃない場合は、相当難度が高いです。
個人ゲーム開発の場合、物語世界が初めから用意されていない場合もあると思いますし、必要ない場合もあるし、必要な場合もあるでしょう。
必要な場合に出会った際、このお話が微力ながらお役に立てば幸いです。