ウーファースピーカーを作る#2 設計編
前回の基礎編に続いて、今回は設計について書いていく。
設計は、基本的には設計ソフトに頼るけれど、自分で調整する際に理解しておかなければいけないパラメータがいくつかあるので、それらを踏まえて設計までの道のりを書き残しておく。この記事を書いている時点で、設計を終えて木材のカットまで注文してきたところ。
1. スピーカーユニットのパラメータ
スピーカーユニットはサイズや音域以外に色々な種類のパラメータがある。
Theile-Small Parameter(TSパラメータ)と呼ばれるものがある。
ここではスピーカーユニットの選択やスピーカーの設計(特にサイズ、形)の際に重要になるものだけ書いておくので、詳しい説明は下記サイトやPDFを見てみてください。
Resonant frequency (fs:最低共振周波数) 音が鳴るときに、スピーカーユニットの可動部分の重さと支持部分の強さがバランスする点で、スピーカーユニットが出せる最低音。日本ではf0と書いている。ウーファースピーカーでは低音を出したいので、200Hz以下で低ければ低いほどよい。なお、エンクロージャーに入れたときのスピーカーとしての最低共振数は数はfsと異なる(密閉型の最低共振周波数fcはfsより高くなる。バスレフ型の最低共振周波数fbは設計次第でfsより低くなる)。
fsが低いスピーカーユニットは、サイズが大きいものが多いが、今回選んだVISATONのKT100Vは fs=37Hzで、10cmというコンパクトさと、3000円程度という価格のバランスがよい。
Total Q factor (Qts:総合共振尖鋭度) 最低共振数の音を出すときの、共振の制御に関する値で、電気的な共振もの(Qes)と機械的な共振の(Qms)から計算される(Qts=Qes × Qms ÷ (Qes + Qms))。
Qtsが大きいほど少ない電力で効率的に音を鳴らせる(音が減衰しにくい)分、制御しづらくなる、ととらえてよさそう。
低音をエンクロージャーで響かせない密閉型ならQtsは高い方がよく、響かせるバスレフ型ならQtsは低いのがよいらしい。Qts<0.4でバスレフ、0.4-0.7で密閉型が推奨されているが、サイトによって記載はまちまちだった。
なお、Qtsもfsと同じく、エンクロージャーに入れることで変化する(Qtcと呼ぶ)。
Qtsによって、エンクロージャーの設計方針(アラインメント:後述)が決まったりする重要な要素。
Suspension equivalent air volume (Vas:等価柔軟性空気体積) ざっくりいうと、振動系の動きやすさの指標。スピーカーをピストンに取り付けて鳴らすとき、振動板(ダイヤフラム)のバネの強さと、ピストンの空気の圧縮抵抗がつり合うようなピストンを、体積で表したもの。体積が小さくなればなるほど圧縮するのに力が必要(=バネが強い)なことは想像できると思う。低音を鳴らすには高温を鳴らすよりも振動の力が必要なので、Vas が小さいものほど振動板の力が強く、小さい体積のエンクロージャーでも低音を鳴らせる。逆にVas が大きいものは振動板の力が弱く、エンクロージャーを大きくしないと低音域を出すことが難しくなってしまう。
つまりコンパクトなウーファースピーカーを作るなら、Vas が小さいものがよい。
スピーカーユニットのパラメータはメーカーのサイトに載っていると思うけれど、Loudspeaker Databaseというサイトはよくまとまっているので、今回はこのページを活用しました。http://www.loudspeakerdatabase.com/
2. スピーカーのエンクロージャーの設計パラメータ
おさらいになるが、エンクロージャーは、コンパクトな密閉型にするか、低音を出しやすいバスレフ型か、低音を出しつつ高音をカットするバンドパス型(ASW型)がある。
エンクロージャーを選ぶ際に、EBP(Efficiency Bandwidth Product) という指標がある(EBP = fs ÷ Qes)。Qtsとはまた違う指標で、EBP<50が密閉型に向いており、EBP>100がバスレフ型に向いているという。
また、バスレフ型のエンクロージャーには理想的な(≒音階によらず一定の音量で音が鳴る)設計パターン(これをアラインメントと呼ぶ)があるようだ。
アラインメントとは?
バスレフ型の基本設計の考え方と思っていればよいようです。スピーカーは、幅広い音程で、音量がフラットになるような設計が望ましいとされますが、そのための設計方針はエンクロージャーに入れたときの共振尖鋭度(Qtc) に応じて異なるらしい。ここで、スピーカーユニットの総合共振尖鋭度(Qts)の値によって選択すべきアラインメントが異なる。
Qts≦0.4の場合は、QB3、SBB4、SC4を使う。これらのアラインメントは「フラット型」で、低音までフラットで、fbから低い音の音量が緩やかに下がっていく。
Qts>0.4の場合は、SQB3、BB4、C4を使う。これらのアラインメントは「ノン・フラット型」で、fbあたりで音量が大きくなる(低音が強調される。肩が出る)。
QB3が一般的に使われるらしい。
こうした難しそうな部分は設計ソフトが自動でやってくれるので、自分で触るのは下記のパラメータのみでよい。
エンクロージャーの板厚:10mm以上は必要?推奨?らしい。よく使う部材のMDFが板厚9mm、12mm、15mm…とあるので、12mmか15mmが一般的なようだ。寸法を小さくして容積を稼ぎたいときは薄くする。薄すぎて音圧に負けて振動するようだとダメ。今回は小さくて少しでも容積を増やして低音を出したかったので9mmにした。
エンクロージャーの容積(縦、横、高さ):エンクロージャーの内側の容積が最重要。Qtsのところで書いたように、容積を小さくするほど低音が鳴らなくなる。同じ体積でも、エンクロージャーの奥行きによって後述する音の群遅延速度も変わるらしい。下記のほかのパラメーターをいじりながら、置くスペースと低音の兼ね合いで変更していく。
ダクトの開口部の面積(バスレフ型):バスレフ型はエンクロージャーに筒状の穴(ダクト)を設けるが、ダクトの開口部の面積は狭ければ狭いほど、「エンクロージャーに入れたときの最低共振周波数」(fb)が下がる(低音が出せる)。そうすると今度は開口部の空気速度が速くなり、低音の音量を上げたときに風切音が鳴ってしまう。
ダクトの長さ(バスレフ型):穴が長いほどfbが下がる。短いとfbも上がるし、開口部の空気速度も下がる。ただし、長くしすぎると低音の音量が下がり始める。エンクロージャーの寸法より長くはできないので、奥行きとの兼ね合わせで設計が重要。
3. ローパスフィルタを利用するかバンドパス型か?
上記ではバスレフ型の事を書いた。エンクロージャーをバンドパス型(ASW型)にすると、低音を鳴らして高音をカットする設計(=ウーファースピーカー向き)にできるが、設計で作りこむよりは、そもそもスピーカーに音を流さない方が鳴らす音を制御しやすい。
そういう制御をするものを「ハイパスフィルタ・ローパスフィルタ」という。
ウーファースピーカーには、高音部分をカットするローパスフィルタを使う。今回は50-200Hzの可変ローパスフィルタつきの2.1ch対応アンプを買った。約4500円。※出力がLR逆だったので注意。
4. コンパクトさと低音のバランスを実現するには
2.で理論的なことは書いたけれど、要はコンパクトにすると低音を出しづらくなる。低音を鳴らしてコンパクトにするためには、スピーカーユニットで、fsが低く、Vasが小さいものを選ぶ。それに限る。そのスピーカーユニットの標準設計でも大きすぎる場合は、許容できる最大のエンクロージャー体積のなかで、ダクトを狭く、長くして、かつ開口部の空気速度(後述)を低く保ちながら、群遅延時間(後述)が長くならないようにするしかない。
ここからは、いよいよ設計ソフトの出番となる。
5. 設計上のポイントとなる音のパラメータ(バスレフ型)
エンクロージャーのパラメータを変更する際には、音に関するパラメータの変化に注意する。低音を出すため、そして音のばらつきを抑えるために重要なパラメータが下記のものになる。
スピーカーの音量(db):音程(周波数)の低音から高音まで、同じ電力を出力した時の音量。なるべく平坦である方が元の信号を正確に再現することになる。山ができるとその音だけ強調されることになり、バランスが悪くなる。逆に、重低音を狙って強く出す設計もできる。
空気速度(バスレフ型):「2. スピーカーのエンクロージャーの設計パラメータ」で書いたように、開口部の空気速度はダクトの面積や長さによって変わる。fb付近で最大になる。これが10m/secを超えると、その音で風切音が聞こえるらしい。音量を上げすぎなければ気にならないらしい。
群遅延時間:瞬間的に発生する音が、周波数に依存して、遅れて聞こえる現象がある。その遅延時間のこと。遅れそのものが悪いわけではなく、人間の聴覚が検知できなければいいと思う。下記のサイトによると、50Hzで55ms、75Hzで24ms以下なら大丈夫そう(国際無線通信諮問委員会による、高品質信号伝送線の満たすべき条件)。なお、密閉型エンクロージャーではほとんど気にしなくてよいが、バスレフ型では設計次第では影響が出てくる。
1st port resonance frequency: WinISDのVent部分に出てくるパラメータ。出したい音より最低1オクターブ高ければ良い、と書いてあるのを見たが、よくわかっていない。
チューニング周波数:バスレフ型のスピーカーの最低共振周波数(fb)をチューニング周波数と呼んだりする。理由はエンクロージャーの設計で変更できるから?。Qtsの値によって、どれくらいが適切か決まるらしい。WinISDでは自動的に適切なfbでその他のパラメータを計算してくれていた。※ダクトチューニング周波数fdと書いてあるサイトもあったりして混乱するが、fbでよいと思う。
インピーダンス:バスレフ型では、インピーダンスの山が2つできる。谷の部分の周波数がバスレフ型スピーカーの最低共振周波数fbとなる。2つの山のうち、高周波数側の山(fH)はスピーカーユニットの由来のもの、低周波数側(fL)はダクトの共振による物理的なもの。この山が同じ高さだと、スピーカーユニットとダクトの共振がいい感じでバランスしていて、低音まで安定した音量で音が出せるが、スピーカーユニット側の山が高いと、再低音の手前の低音が強く鳴り、ダクト側の山が高いと低音がダラダラ響く。
インピーダンスの山の高さのほか、鋭さも同じくらいがよいらしい。
システム全体の音量をメインで見ながら、インピーダンスも気にする、くらいでよいと思う。
6. スピーカーの設計ソフトを使う(sped)
エンクロージャーの設計には、ankoさんという方が作ってくださっている、「エンクロージャー設計支援ソフトsped」
https://www.vector.co.jp/soft/win95/home/se335481.html
を使う。
まずは、スピーカーユニットのパラメーターを登録する。ここではLoudspeaker Database (http://www.loudspeakerdatabase.com/ )を参考にして入れていく。
Loudspeaker Database: VISATON KT 100 V - 4 Ohm
sped ユニットデータ編集画面
入力項目は、だいたいLoudspeaker Database対応がつくが、Cmsの単位が異なることに注意する(spedはmm/Nなので、Loudspeaker Databaseの1000分の1にする)のと、spedのΦ[mm]はスピーカーユニットを収める穴の直径なので、Baffle hole diameterの方を使うことに注意(Effective Diagram diameterではない)。
スピーカーユニットを登録後に、設定ウィザードで登録したユニットを選び、箱方式「バスレフ」、ポート形式「スリット型」、「おまかせ設定」にチェックを入れて、板厚を設定(今回はホームセンターにあるMDFの厚み9mm)して「OK」で計算。
計算結果
このままの寸法では設置場所がない場合、想定している置き場所の寸法に変更する。Vo、fd自動的に再計算される。
再計算結果
容積はVo12.8→6.83、fdが33→40Hzになり、Vent Air Velocity、Group Delayの山がなだらかになった。fd(チューニング周波数=最低共振周波数=fbと同じ意味)以外はむしろ良くなっているようにも見える。
ここで、スリット幅とポート長さは変化しないので、これが最適かどうか分からない。そこで、WinISDを使って最適値を求める。
7. スピーカーの設計ソフトを使う(WinISD)
国際的には、WinIsdというソフトが有名なようで、スリット幅とポート長さの最適化にこのソフトを使った。
https://www.subwoofer-builder.com/WinISD.htm
Loudspeaker Databaseでも、「 Import this speaker driver in a enclosure design software 」というところでWinIsd用のスピーカーユニットのデータをダウンロードできるので入力の手間が省ける。
Loudspeaker DatabaseからWinISD用のデータをダウンロード
WinISDでダウンロードしたファイルをLoad
WinISDでは、インポートされるデータとは別に、スピーカーユニットの寸法を入れることでスピーカーユニット自身の体積Dvolの計算をしてくれる。
Loudspeaker Databaseから拾えない寸法は自分で測って入れた。(VCdはVoice Coil Diameterのこと)
この後のダクトの調整の際にはspedの体積Voから、Dvolを差し引いて計算するのが一番良い。
WinISDでプロジェクトを新規作成し、インポートしたスピーカーユニットを選択して進めていく。
EBPをもとに、おすすめのエンクロージャーが表示される。今回はVent(バスレフ型)を選択。次の画面で、アラインメント(「2. スピーカーのエンクロージャーの設計パラメータ」のアラインメントとは?を参照)を選択する画面になる。
アラインメントによる違いは、エンクロージャーの容積と、音量がなるべくフラットになるときのfbの値だが、今回は、自分の欲しいサイズに合わせてパラメータを調整するので、関係なくなる。初期値のC4/SC4を選択して進める。
WinISDはspedと違って、組み立て図は出力してくれないので、spedの図を見ながら妥当な値になるように調整していく。
Volumeの値→spedで寸法を入れて計算された体積Voから、スピーカーユニットの体積Dvolを引いた値に変更(※スピーカーユニット自身の体積はWinISDで計算)
Ventsの寸法→角型で、spedで計算されたスリット幅と、指定した寸法の幅
ここで、Vent lengthが設計した奥行より長い場合は、2通りの対処を行う。
①Tuning freq.を上げる:低音が出にくくなる。この、ダクトのチューニング周波数(spedではfd、ネットで見ているとfbという表記もある)はQtsによって決めるように提案されているらしい。
②Ventsのスリット幅を狭くする:開口部の音速が上がる(10m/sec以下におさえるべき)
計算結果
Ventの形状と寸法を変更
寸法の変更によって、ポート長さが自動計算される
Tuning freq.を変えるとVent lengthは自動的に再計算される
Ventの寸法を変えてもVent lengthが自動的に再計算される
これらの値を再びspedに入れて空気速度や群遅延時間を確認する。ベントが長くなると、その分体積が増えて、Voが減るので、その分WinISDで体積(Volume)を調整する。体積が減るとVent lengthが伸びるので、最後はTuning freq.を上げすぎない範囲で、適当な長さになるように決める。
spedでも問題なければ設計完了。
今回の設計では、Ventのスリット幅を0.5cmにすると、spedでのAir Velocityが10m/sを超えたので、0.6cmの設計にした。
また、Vent lengthが20cmになると、背面との隙間が0.6cmになってしまい、実質的にVent lengthが板厚分伸びることになるので、背面との隙間はスリット幅の2倍(根拠なし)以上取るようにVent lengthを調整した。
結果として、Tuning freq.は37.7Hzとなった。fs(37Hz)より高いけど、ほぼ同じなのでよしとする。
8. 現物の設計
スピーカーの設計図の寸法をspedから読み取り、展開図を書く。
あとはホームセンターでこの図が切り出せるサイズの板を買って切って貰えば良い。
このスピーカーは、9mm×450mm×900mmの板で足りた。カット代合わせて900円くらいだった。
次はいよいよ作成編へ。