養護の重要性が強調された!

◎新指針・要領の総則から読み解けることとは?

今回の改定で幼稚園要領と小学校、中学校の学習指導要領に同じ前文が入った。それは今回の教育改革が幼稚園から大学までの「学校」全部を貫くものだから。政府が「新しい教育を行なっていくのだ」というその意気込みを、すべての要領の前文に込めた。

保育指針、認定子ども園要領にはこの前文が入っていない。保育園は児童福祉法、認定子ども園は認定子ども園法に定められた施設。幼稚園のように学校教育法の下にある学校ではない。法律的な枠組みのつじつまが合わなくなってしまうために、保育指針、認定子ども園要領には同じ前文を書くことができない。

今回改定の保育指針で、保育園が「幼児教育を行う施設」であると初めて明示された。法的枠組みの関係で、"法律"としては"教育施設"とは定めることはできない。しかしその代わりに、"制度"としては保育園も"幼児教育を行う施設"と認定された。

3つの指針・要領には微妙な違いがあるが、すべての施設で共有されるべきもの。幼稚園要領にはあって、保育指針と認定子ども園要領にはない前文には、日本の教育の方針が書かれている。逆に保育指針では養護が重視された書き方になっているが、幼稚園要領には養護のことは具体的に書かれていない。これらの違いを統合する法律をつくる流れがある。3つの施設で同じ幼児教育を担う先生たちは、他の指針・要領にも目を通したい。

"養護"、"計画及び評価"、"幼児教育"が改定の大きなポイント。この3つのブロックは下位の章から総則に繰り上げられた。総則とは、"法令等の全体に通じる決まり"というような意味で、その組織で行う活動の基本方針や理念、守るべき事項等の原則が書かれている、ある意味、最も重要な箇所。他の章は、この総則に書かれた諸原理を具体化するための各論になる。

◎日本の幼児教育・保育の父、倉橋惣三が考える養護とは?

養護が総則に格上げされたのは、養護の質を高める必要があるから。今回の改定で保育園が幼児教育施設であることが明記された。しかしそれと同時に保育園が依然として福祉機関であることには変わりがない。だから養護は教育と同等であることを書き記さなければならなかった。

教育が万が一なくても、"養護的なかかわり"を丁寧に行なっていけば、それが立派な幼児教育になりうる。逆にいうと"養護的なかかわり"を丁寧に行なっていかなくては教育にならない。保育という言葉を再定義した"日本の幼児教育・保育の父"といわれる倉橋惣蔵の言葉をかりる。

「教育が教育として教育らしく行われるときには、かえって幼児教育の真義が失われることがないでもない。それに対して、保護の懇切には、与える者にとっては人間教育の最も濃密な機会が、受ける者にとっては生活訓練のもっとも自然な機会が備わっている。それだけですでに立派な幼児教育である」

倉橋は学校教育法の本文の中で、"教育"という言葉をさけた。1947年に学校教育法をつくるときに幼稚園が学校と定められた。そのときに「幼稚園は幼児を"教育"し…」という文言が入る案が出された。それに対して倉橋は、今になって考えると大切な要望を出した。

「幼稚園は教育をする場所であることは間違いない。しかし、安直に"教育"という言葉を使ってしまうと、小学校の教育と勘違いされ、"幼稚園は小学校でやっている教育を薄めてやればよい"という誤解が広がりかねない。幼児教育機関の"教育"は、小学校の教科学習とは違い、常に前提として"保護"が必要なのだ。それを明確にするために、"保育"という言葉を学校教育法の中で正式に使うようにしよう」

この提案が通り、「幼稚園は幼児を"保育"し…」と書くことに決まり、今の学校教育法まで受け継がれている。

◎質の高い養護をするには?

"十分に養護の行き届いた環境"の下に、温かい保育をめざす。

[保育指針1-1-(2)-ア-(ア)]十分に養護の行き届いた環境の下に、くつろいだ雰囲気の中で子どもの様々な欲求を満たし、生命の保持及び情緒の安定を図ること。

"十分に養護の行き届いた環境"とは、 一人ひとりの子どもが保育者に深く愛されていて、毎日保育園へ行くのが楽しくてしょうがない!そんなふうに子どもが目をキラキラさせる以下のような環境のこと。
⬜︎ 大けがに至るような場合以外、指示、命令、禁止の言葉を使っていない
⬜︎ 好きなことをいっぱいさせててあげられている
⬜︎ 失敗してもとがめていない
⬜︎ とくに0~2歳児にはいつも静かで温かい口調
⬜︎ スマイル

乳児に対してはとくに手厚い養護が重要。今回の改定では"乳児の保育内容"の記述が厚くなった。"イ身近な人と気持ちが通じ合う"の部分では、"応答的"、"受容的"、"優しく受け止める"という言葉がくどいほどに使われている。乳児の育ちには保育者の愛情を欠くことができない。愛着形成のためには、"特定の大人との応答的な関わり”が必要。

幼稚園の先生も保育指針の養護の項目は必読。認定子ども園要領では総則に養護のことが書かれている。幼稚園要領では養護という言葉こそ使われていないが、安心や信頼関係など、養護に通じる表現が散見される。学校教育法には"幼稚園は保育を行う場"と書かれており、倉橋の「子どもを保育し」という理念の中に生きている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?