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clever_lotus601
『短編小説』銀河鉄道の夜みたいな夜
雨上がりの夜、ふと足を止めた小さなバーがあった。扉を押し開けると、狭い店内にアナログレコードの音が流れている。カウンターの奥には無造作に積まれたCDやレコードがあり、壁には色褪せたバンドのポスターが貼られていた。
「いらっしゃい」
無精髭を生やしたマスターがカウンター越しに微笑む。カウンターに腰掛けると、スピーカーから流れていたのは銀杏BOYZの「漂流教室」だった。
「銀杏、好きなんですか?」
何気なく聞いた僕の問いに、マスターの目が輝く。
「おお、好きなのか? 俺、この店やる前はバンドやってたんだよ。峯田の歌に救われてさ」
マスターの言葉は熱を帯び、気づけば二人で銀杏BOYZについて語り合っていた。峯田和伸の歌詞の詩的な美しさ、ライブの狂乱と純粋、そのすべてを分かち合える時間が心地よかった。
「こんなに銀杏の話で盛り上がるの、久しぶりだな。お前、今何やってるんだ?」
「……いや、仕事辞めたばかりで」
「あ、そうなの? じゃあさ、うちで働かないか?」
マスターの言葉に驚いた。思わず笑ってしまう。
「いいんですか?」
「お前みたいな奴と働けたら楽しいだろ?」
僕はグラスの中で揺れるウイスキーを見つめた。思いがけない誘いだったが、心はすでに決まっていた。
「じゃあ、よろしくお願いします」
握手を交わし、マスターがレコードを裏返す。新たな一曲が流れ始めた。
夜が深まり、僕の新しい生活も静かに始まった。
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