TomoPoetry、生きる。
振り返る
そのことを理解する
まず自分の左足首を落とす
一週間後、左手首
一ヶ月後、左目
一年後、左耳をそぎ落とす
十年後、
記憶と意識を漆喰の壁に埋める
わたしの価値はまだあるのか
十年後の朝
恋人はわたしの姿に驚く
野菜炒めとサラダとハムを並べながら
住宅ローンの残額を質問する
口をくしゃくしゃ動かし
秤が傾いているのに気づく
いっしょに世界も傾いている
わたしは椅子から滑りおちる
重くなってきた生活
魂も飛び回れない
還暦で右足を落とす
一週間後、右手
米寿で右目
そのまた一週間後、右耳
翌日の夜
残っていた記憶
オーロラの光を
意識の向こうに仕舞う
わたしの価値はまだ感じられるか
老いた恋人は
わたしの不在を知りながら
ヨーグルトとウインナーとバターロールを二人分準備する
世界の傾きに合わせ
テーブルが傾く
わたしの位置からはなにも見えない
きみの背中にユーラシア大陸が埋まっている
膨張する生活と宇宙
わたしの呼吸は
暖かいままだ
きみの言葉が聞こえる
ほら
振り返って見てみて
きみの緑の眼
そのなかで
わたしの時間が
繰り返し始めている
漆黒の
香辛料を振りかける
なにもない朝から
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