泥の中にあるたったひとつの光
※過去記事の転載
親愛なるバンドが新譜を出した。今年は節目の年なので、その記念となる結構大きめのタイトルだ。このアルバムに入る予定の周年記念のシングルが、父が旅立った、まさにその日に先行リリースされていた。大好きなバンドの久しぶりのシングルのリリースが、なにもこんな時に重ならなくていいのにと心から思った。ぐしゃぐしゃな心で、例の如く全然明るくない新曲を泣きながら聴いた6月のある日。心も流れている音楽も澱んでいて、真っ青に晴れた空だけが明るく眩しかったのを今も覚えている。
そこから4ヶ月ちょっと経ってアルバムの形で正式にリリースされた。発売日からサブスク配信されたけど、このアルバムだけは絶対に円盤で買って、円盤で最初に聴こうと、前もって決めていた。CDの包装をそっと外すのも、傷付かないように歌詞カードを取り出すのも、曲と一緒に歌詞を一言一言読むのも、全部久しぶりだった。これが私の元々の音楽の聴き方だ。久しぶりにあの頃に戻れた気がして嬉しかった。
このバンドのことは昔から好きだけど、20代半ばに差し掛かってから以降の方が好きの度合いは強くなっている気がする。昔は曲が好きだったけど、今は他にも好きなところが増えた。その中に『バンドマンとしての在り方』のようなものがある。彼らだってもう40代に差し掛かってるはずなのに、歌ってることが昔からほとんど変わらないのだ。あの永遠に尖っていそうなロックスター、細美武士だって結婚して丸くなったと言われているのに。この人たちはずっと、キザで格好つけて、時々ちょっとダサい。私だってもちろん年齢は重ねたし、中学生が高校生になって大学生になって社会人になったけど、中身は、根本的なところはほとんど変わってないと思う。だけど別にそれでいいんだ。自分より年上のこの人たちもそんな感じで、それでありながらこんなにも格好いいんだから。そう思わせてくれる存在。
ちゃんと音楽を愛しているバンドだ。インストゥルメンタルだって手を抜いていない。本当に上手いと思う。音楽はちょっとトリッキー。ちょっとクセのあるメロディ進行が大体どの曲でも展開されている。大体がそんな曲だから、たまにくるド直球の曲が放つ真っ白な眩しさが際立つ。格好いい。
歌詞は、ずっと生と死と愛と哀を歌っている。ずっと生きることに対してボロボロになりながら戦っている。ボロボロなのに、守りたい人間の前ではとんでもなく格好つける。だけど失恋したら、それはそれは思いっきりずるずると引きずっている。この20年、大体ずっとそんな感じだ。
ださくてもボロボロでも、一生懸命生きることと戦っている。どうせいつか死ぬのに。生きることは儚くて刹那的なものだし、人間も心も感情もどうしようもないものだと分かっているのに。それでも、人を見下したり馬鹿にしたり、ずるいことをせず、ただ真摯に泥臭く生きることと向き合っている。そんな泥だらけの彼らが生み出す言葉の中に、まるで砂金のようにキラッと眩しい言葉がある。そういう言葉は、感動とかそういうレベルを超えて、人生に影響を与える言葉となって私の中に蓄積されている。
20周年を記念するアルバムのタイトルは『YOU NEED FREEDOM TO BE YOU』。
収録曲のうち、タイトルを一番濃く描いた曲の歌詞の中にこんな一節がある。
君が君でいるためには自由が必要だろ
生きることが戦いでも
人が人でいるためには心が必要だろ
20周年というバンドとしてめでたい節目に『君が君でいるために、君には自由が必要だ』と”私たちに”伝えてくれる9mm Parabellum Bulletのことが、わたしは大好きだ。
わたしの人生に9mmがいてくれて良かった。
20周年、本当におめでとうございます