診断士 豪一郎の『社長っ、共に経営を語ろう!』⑦
サブタイトル:海外進出に必要な書類の翻訳および認証
翻訳会社の社長でありながら、中小企業診断士でもある豪一郎。
顧問先のO製作所は、VE提案を伴う中間財の供給ができていないのではないか、と考えた豪一郎は、『戦略シート』に、「『戦場』を知ろう。」と書き入れた。
その後の、豪一郎の動きは、早かった。まずは、O製作所の役員全員との面談および本社工場の見学のアポを取り付けた。そして、タイへの航空チケットとホテルの手配をした。
ここ数週間、O製作所のケースを念頭に、豪一郎は過去2年分の経済新聞に目を通した。また、新興国進出セミナーにもいくつか参加した。そして、この段階で、豪一郎はタイを見ておこう、と判断した。なぜタイなのか?それを、T社長と自分自身にきちんと説明するためにも、今、タイを見ておきたい。O製作所の役員との面談を2週間後、タイ視察を3週間後に控え、にわかに忙しくなってきた。急遽タイ訪問を決めた為、前倒しで済ませておかなければならない仕事がいくつかあるのだ。
その一つがこんな業務である。
公証人役場の事務所。
テキパキと書類を作成する女性スタッフ。
豪一郎にとって、すっかりお馴染の光景である。
豪一郎が経営する翻訳会社の主な取扱分野は、技術文書や会社案内、契約書といった、いわゆる産業翻訳の分野である。この業界の最近の顕著な動向として、公的文書の翻訳案件の急増が挙げられる。東海地方でも製造業を中心に新興国へ進出する企業が急増したことが、その背景にある。この動きは、中小零細企業にも急速に拡がっている。
本日の任務は、自動車部品メーカーさんご依頼の登記簿謄本、定款、および戸籍謄本の翻訳文書に対する、公証人認証の取得である。
同社がタイに工場を開設し、初期メンバーとして数名の従業員さんが赴任される、ということだ。
認証対象の書類を手に、豪一郎は、顧問先のO製作所のことを考えていた。O製作所の明日の『戦場』はどこか?それは、R工業との新しい付き合い方かもしれないし、国内の他の企業かもしれない、あるいは新興国のどこか、ひょっとしてタイなのかもしれない。
さて、海外進出手続きには、FS(事業化可能性調査)、現地パートナー探し、工場・店舗用地確保など煩雑な手続きが山のように待ち受けている。当然、日本国内でも数々の書類を用意し、英語等に翻訳する必要がある。そして、翻訳後にはいくつもの認証過程を要する。
登記簿等の公文書は、翻訳すると私文書になってしまうため、認証を受けることで、準公文書のようなステータスを取り戻す必要があるのだ。必要書類の翻訳に始まり、公証人役場ならびに法務局での認証、そして、外務省での公印確認(またはアポスティーユ取得)と、一連の手続きには、通常2週間程度を要する。
豪一郎が、公証人役場を訪れる頻度は、以前は月に1度程度であったが、ここ2年ほどは、週に1度のペースになっている。
ところで、認証取得後の、公証人の先生との雑談が、いつ頃からか、豪一郎の楽しみになっている。
つづく