アイ キャン
いつだったかアメリカ行きの飛行機の中で、よたよたと狭い通路を歩きながらお手洗いに向かっていた。
後方のお手洗い付近にたどり着くと、キャビンアテンダントのアメリカ人女性が3人、ずっしりと並んで話している。
飛行機は日本の航空会社ではなくアメリカの航空会社だ。格安だった。なので、もちろん日本語は通用しない。
私は日本人女性の中では少しばかり大きめだ。しかしアメリカ人女性の前では、なんてか弱き乙女か。まず腰の位置が違う。その大きくて魅力的なヒップは私の眼前だと言って良いくらいだ。
そんな彼女たちに「そこのけ、そこのけ、アタイがとおる」と言わなければならない。
ごくり。
アタイ、アイ キャント スピーク イングリッシュ。
(のくせに、よくアメリカに行くものだ。)
彼女たちの目線が一気に私に注がれる。何か言わなければ。
「キャ、キャナイ?」
と言った瞬間、彼女たちは笑顔でささっと道を空けてくれた。
(えっ?あっ?通じた!?)
たった2単語で私の想いは、国境を超えて彼女たちに伝わったのだ。
ブレーキをかけているのは、いつも私自身なのかもしれない。
きっとなんだって、アイ キャン。