800字SS

バ美肉おじさんの憂鬱

「バ美肉おじさん」という言葉をご存知だろうか。「バーチャル美少女受肉おじさん」の略で、昨今流行りのバーチャルユーチューバーなどで美少女になりきるおじさんのことである。何を隠そう、俺はバ美肉おじさんなのだ。おじさんってほどの歳でもないけれど。

最初は自分好みの3Dの美少女モデルを作ってみたかっただけだった。ところが、いざ完成してみたら動かしたくなってきて、やるなら徹底的に、とボイスチェンジャーで声を変えて当ててみた。面白くなって試しに動画をUPしてみたら、思いのほか反応がよく、じわじわファンが増えていった。気がつけば専用のTwitterアカウントのフォロワー数も1万人に達した。

俺がバ美肉おじさんだということは誰にも話していない。仲のいい友達にも、なんだか気恥ずかしくて話せていない。それなのにある日、親友がこんなことを言ってきた。

「雛河ぴよよってVTuber知ってる?最近人気出てきたみたいなんだけど、俺結構好きでさ」

心臓が止まるかと思った。思わず声も出そうになった。雛河ぴよよこそ、俺が受肉した美少女だ。

「…お前そういうのに興味あったんだ」

「いやー、声も喋り方もめちゃくちゃ可愛くてさ、絶対中の人も可愛いよアレ」

どうやら中の人は女だと思い込んでいるらしい。それだけ完成度が高いのだと嬉しい反面複雑だ。中の人が目の前にいるだなんて、まさか言えるわけがない。

「あんな女の子と付き合いてーなぁ。どっかに居ないかな…」

なんかごめんな、と俺は心の中で謝った。

それだけで終わればよかったものの、あとになって親友のアカウントからぴよよのアカウントにDMが届いた。可愛い、好きだ、応援している、そんな内容のメッセージだ。

俺は少し迷ったあと、「ありがとうございます♡」などとぴよよになりきって記入した。なにがハートだよ。俺だっつうの。そんな言葉を飲み込んで、俺は深いため息をつきながら送信ボタンを押した。

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第7回100人共著プロジェクト投稿作品

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みちる
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