ECB:2024年1月ECB理事会記者会見①説明部分(日本語訳)

2024年1月25日に実施されたECB理事会後の記者会見の日本語訳です。
分量が多いため、①冒頭のラガルド総裁による説明部分②質疑応答の2つに分割して掲載します。今回は①です。
日本語訳のみ掲載します。原文は、以下をご覧ください。

ECB公式ページはこちら。
PRESS CONFERENCE (europa.eu)

なお、公表文では文末を「だ・である」としましたが、記者会見は「です・ます」とします。
誤字等あれば、随時修正します。


こんにちは、副議長(デギンドス)と私(ラガルド)は記者会見にあなたたち(記者・視聴者)を歓迎します。

理事会は本日、ECBの3つの主要政策金利を据え置くことに決定しました。手に入ってくる情報は、中期的インフレ見通しに関するこれまでの評価を広く裏付けるものです。エネルギーによる総合インフレの上昇方向のベース効果を除くと、基調的インフレの低下トレンドは継続しており、過去の金利上昇は金融環境に強力に波及し続けています。金融環境の逼迫化は需要を後退させ、インフレの低下圧力となっています。

私たち(理事会)は、インフレ率が適時に2%の中期的目標へと確実に回帰することを決意しています。現時点の評価に基づき、理事会は、ECBの3つの主要政策金利は十分に長期間維持することで目標にきわめて大きく貢献する水準にいると考えます。理事会の将来の決定事項は、政策金利が必要な間、十分に制限的な水準に設定されることを確実にします。

私たちは、金融引締めの適切な水準及び期間を決定するうえで、データ依存のアプローチを続けます。特に、政策金利の決定は、今後の経済・金融データ、基調的インフレ率の動向及び金融政策の波及力を踏まえたインフレ見通しの見極めによって行われます。

本日の決定事項は、ECBウェブサイトのpress releaseに掲載されています。

ここからは、私たちがどのように経済及びインフレ動向を評価しているか詳しく説明した後、経済・金融の状況に関する評価を説明します。

経済活動

ユーロ圏経済は2023年第4四半期に停滞したとみられます。手に入ってくるデータは、短期的な弱さを示し続けています。しかし、先行きに関する調査指標のいくつかは、さらに将来の成長反発を示唆しています。

労働市場は堅調が続いています。失業率は、11月には6.4%でしたが、ユーロ導入以来最低水準まで低下し、より多くの労働者が労働力とに加わりました。同時に、労働需要は減速しており、求人数は減少しています。

各国政府は、中期的なインフレ圧力上昇を回避するため、エネルギーに関連する支援策を引き続き縮小すべきです。財政的・構造的な政策は私たちの経済をの生産性・競争力を高めるべく、かつ高い公的債務比率を徐々に低下させるべく設計されるべきです。ユーロ圏の供給能力を高めるための構造改革及び投資(次世代EUプログラムの完全実施が支えとなる)は、中期的な物価上昇圧力の低下やグリーン及びデジタルへの移行に寄与します。
EU経済ガバナンスの枠組み再建に関する直近のECOFIN理事会での合意に従い、新たなルールが遅滞なく実行できるよう、法的プロセスを早急に完結させるべきです。 さらに、資本市場同盟(Capital Markets Union)に向けた進展や銀行同盟(Banking Union)の完成を加速させるべきです。

インフレーション

インフレ率はエネルギー価格高騰による影響を軽減するための過去の経済支援策の一部が年間インフレ率から外れたことで12月に2.9%に上昇しましたが、反発は想定より小幅でした。ベース効果を除くと、基調的インフレの低下トレンドは継続しています。食料品のインフレ率は12月に6.1%に低下しました。エネルギー及び食品を除くインフレ率も、財インフレが2.5%に低下したことで、再び低下し3.4%となりました。サービスインフレは4.0%で安定しています。

過去のエネルギーショック、供給制約及びパンデミック後の経済再開による影響が薄れ、金融引締めが需要を下押しし続けることで、インフレは、今年中にかけてより緩和すると見込んでいます。

基調的なインフレ指標の大半は12月に一段と低下しました。賃金上昇率の上昇及び労働生産性の低下は緩和し始めているものの、これらが引き続き国内物価への上昇圧力となっています。同時に、単位収益の低下は、単位労働コスト上昇によるインフレ上昇効果を緩和し始めています。短期インフレ期待を示す指標は著しく低下した一方、長期インフレ期待は概ね2%近辺にとどまっています。

リスク評価

経済成長へのリスクは依然として下方に傾いています。金融政策の影響が想定より強い結果となった場合、成長率はより下向く可能性があります。世界経済の低迷や世界貿易の一段の減速もユーロ圏経済成長の重荷となるでしょう。正当化できないロシアのウクライナに対する戦争や中東の悲劇的な衝突は地政学リスクの主な要因です。企業や家計が将来への自信を損ない、グローバル貿易の混乱を招く結果となり得ます。実質所得の上昇が予想を上回る支出に繋がる場合や、世界経済が予想以上に力強く成長した場合、経済成長はより上向く可能性があります。

インフレの上方リスクは、短期的なエネルギー価格及び貨物輸送価格上昇及びグローバル貿易を阻害する、特に中東における地政学的緊張の高まりを含んでいます。賃金上昇が予想を上回った場合や、利益率がより力強かった場合、インフレは想定より上振れる可能性があります。対照的に、金融政策が需要を想定以上に減退させた場合や、世界の他の地域における金融環境が想定外に悪化した場合、インフレは下振れる可能性があります。さらに、原油・ガス価格の将来パス(経路)が直近で下方シフトしている市場予想通りに、エネルギー価格が推移した場合、インフレは短期的により急速に低下する可能性があります。

経済・金融環境

市場金利は前回のECB理事会以降、概ね横ばいで推移しました。制限的な金融政策は引き続き、幅広い金融環境に強く波及しています。企業向け貸出金利はわずかに低下し、11月に5.2%となった一方、住宅ローン金利は4.0%に一段上昇しました。

借入金利の上昇は、投資計画や家計支出の縮小に伴い、第4四半期の信用需要は一段と減少したと、私たちの最新の銀行信用調査で報告されています。企業及び家計向け貸出の信用基準の厳格化は緩和したものの依然厳格であり、銀行は顧客に起因するリスクを懸念しています。

このような背景のもと、与信動向は幾分改善しましたが、依然全体として弱い状況です。企業向け貸出は、10月に低下した後、短期貸出の月次フローは反発し、11月に前年比横ばいとなりました。家計向け貸出は年率0.5%の低位で拡大しました。

結論

理事会は本日、ECBの3つの主要政策金利を据え置くことに決定しました。理事会は、インフレ率が適時に2%の中期的目標へと確実に回帰することを決意しています。現時点の評価に基づき、私たちは、ECBの3つの主要政策金利は十分に長期間維持することで、目標にきわめて大きく貢献する水準にいると考えます。私たちの将来の決定事項は、必要な間、政策金利が十分に制限的な水準に設定されることを決意しています。私たちは、金融引締めの適切な水準及び期間を決定するうえで、データ依存のアプローチを続けます。

いずれにしても、インフレ率の中期的目標への回帰及び金融政策波及の円滑な機能維持を確実にするという責務において、あらゆる手段を調整する準備があります。

それでは、質疑応答に移ります。


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