ECB:2023年12月ECB理事会記者会見①説明部分(日本語訳)
2023年12月14日に実施されたECB理事会後の記者会見の日本語訳です。
分量が多いため、①冒頭のラガルド総裁による説明部分②質疑応答の2つに分割して掲載します。今回は①です。
同様に分量が多いため、見やすさを考慮して原文は掲載せず、日本語訳のみ掲載します。原文は、以下をご覧ください。
ECB公式ページはこちら。
PRESS CONFERENCE (europa.eu)
なお、公表文では文末を「だ・である」としましたが、記者会見は「です・ます」とします。
こんにちは、副議長(デギンドス)と私(ラガルド)は記者会見にあなたたち(記者・視聴者)を歓迎します。
理事会は本日、ECBの3つの主要政策金利を据え置くことに決定しました。インフレは直近の数か月で急低下していますが、短期的には一時的に反発する見込みです。ユーロシステムのスタッフによる最新のユーロ圏の見通しでは、インフレは来年にかけて徐々に低下し、2025年には理事会が目標とする2%に近づくと見込まれます。全体として、スタッフは総合インフレ率を2023年に5.4%、2024年に2.7%、2025年に2.1%、2026年に1.9%と予想する。9月のスタッフによる見通しと比較すると、2023年に加え、特に2024年に下方修正となります。
基調的なインフレは一段と緩和しています。しかし、主に単位労働コストの力強い伸びを背景に、国内の物価上昇圧力は根強い状況です。ユーロシステムのスタッフは、エネルギー・食料を除くインフレ率を2023年平均で5.0%、2024年に2.7%、2025年に2.3%、2026年に2.1%と予想します。
過去の金利上昇は経済に対して強力に波及し続けています。金融環境の逼迫化は需要を後退させ、インフレの低下圧力となっています。ユーロシステムのスタッフは、短期的な経済成長は抑制され続けると見込みます。その後は、(インフレ率の低下及び賃金上昇の恩恵による)実質賃金の上昇及び外需の改善により、経済は回復すると見込まれます。そのため、ユーロシステムのスタッフは、経済成長率を2023年平均の0.6%から2024年に0.8%、2025年及び2026年に1.5%へ上昇すると予想します。
私たち(理事会)は、インフレ率が適時に2%の中期的目標へと確実に回帰することを決意しています。現時点の評価に基づき、私たちは、ECBの3つの主要政策金利は十分に長期間維持することで目標にきわめて大きく貢献する水準にいると考えます。私たちの将来の決定事項は、政策金利が必要な間、十分に制限的な水準に設定されることを確実にします。
私たちは、金融引締めの適切な水準及び期間を決定するうえで、データ依存のアプローチを続けます。特に、政策金利の決定は、今後の経済・金融データ、基調的インフレ率の動向及び金融政策の波及力を踏まえたインフレ見通しの見極めによって行われます。
ECBの主要政策金利は、金融政策のスタンスを設定するための基本となる手段です。理事会は本日、ユーロシステムのバランスシート正常化を進めることも決定しました。2024年前半において、PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)で購入した証券が満期を迎えた際、元本を全額再投資する方針です。2024年後半においては、PEPP残高を月平均75億ユーロ削減する方針です。理事会は、2024年末にPEPP残高の再投資を停止する方針です。
本日の決定事項は、ECBウェブサイトのpress releaseに掲載されています。
ここからは、私たちがどのように経済及びインフレ動向を評価しているか詳しく説明した後、経済・金融の状況に関する評価を説明します。
経済活動
ユーロ圏経済は、在庫減少を主因として第3四半期にわずかに縮小しました。金融環境の逼迫化及び外需の低迷は、引き続き短期的な経済活動の重荷になると見込みます。高金利に最も影響を受けるセクターである建設業及び製造業は特に弱い見通しです。サービス活動もこの先数か月軟化する見込みです。これは、産業活動の低下による波及、経済再開による影響減少及び金融環境逼迫化の影響拡大によるものです。
労働市場は、引き続き経済を支えています。失業率は10月に6.5%となり、雇用は第3四半期で0.2%上昇しました。同時に、企業はここ数か月求人数を減少させており、経済の弱体化は労働需要を減退させています。さらに、労働者は増加しているにもかかわらず、総労働時間は第3四半期に0.1%減少しました。
エネルギー危機が収束する中、各国政府はエネルギー関連の支援策を引き続き縮小すべきです。中期的なインフレ圧力上昇を回避するために必要であり、縮小しなければ、さらに金融引締めを強化することになるでしょう。財政政策はユーロ圏経済の生産性を高め、かつ多額の公的債務を徐々に解消するよう設計されるべきです。ユーロ圏の供給能力を高めるための構造改革及び投資(次世代EUプログラムの完全実施が支えとなる)は、中期的な物価上昇圧力の低下やグリーン及びデジタルへの移行に寄与します。そのために、EU経済ガバナンスの枠組みの再建に早急に合意することが重要です。さらに、資本市場同盟(Capital Markets Union)に向けた進展や銀行同盟(Banking Union)の完成を加速させるべきです。
インフレーション
インフレ率は過去2か月で急低下し、欧州連合統計局(ユーロスタット)の速報によると11月に年率2.4%まで低下しました。幅広い範囲でインフレ率は低下しています。エネルギー価格及び食料品価格は、依然として全体的に比較的高水準ですが、エネルギー価格の上昇率は一段と低下、食料品価格の上昇率も低下しました。今月、インフレ率はエネルギー価格のベース効果により反発する見込みです。2024年には、さらなるベース効果や、エネルギー価格ショック(急騰)の影響抑制を目的とした過去の経済支援策が段階的に廃止させることで、インフレ率の低下はより緩やかになると見込んでいます。
エネルギー・食品を除くインフレ率は過去2か月でほぼ1%低下し、11月に3.6%に低下しました。これは供給環境の改善や、過去のエネルギーショック(エネルギー価格急騰)の効果減少、金融引締めの需要及び企業の価格決定力への影響減少を反映しています。財とサービスのインフレ率はそれぞれ2.9%、4.0%に低下しました。
基調的なインフレ指標は全て10月に低下しましたが、力強い賃金上昇や生産性低下を主因に国内物価の上昇圧力は依然高止まっています。長期インフレ期待は概ね2%近辺であり、インフレ補償のマーケット上の指標は高水準から低下しています。
リスク評価
経済成長へのリスクは依然として下方に傾いています。金融政策の影響が想定より強い結果となった場合、成長率はより下向く可能性があります。世界経済の低迷や世界貿易の一段の減速もユーロ圏経済成長の重荷となるでしょう。正当化できないロシアのウクライナに対する戦争や中東の悲劇的な衝突は地政学リスクの主な要因です。企業や家計が将来への自信を損なう結果となり得ます。実質所得の上昇が予想を上回る支出に繋がる場合や、世界経済が予想以上に力強く成長した場合、経済成長はより上向く可能性があります。
インフレの上方リスクは、短期的なエネルギー価格の上昇に繋がりうる地政学的緊張の高まりや、食料品価格上昇に繋がりうる異常気象を含んでいます。インフレ期待が私たちの目標を上回って推移した場合や、賃金や利益率が予想を上回って増加した場合、インフレは想定より上振れる可能性があります。対照的に、金融政策が需要を想定以上に減退させた場合や、主に直近の地政学リスクの高まり等により、世界の他の地域における金融環境が想定外に悪化した場合、インフレは下振れる可能性があります。
経済・金融環境
市場金利は前回のECB理事会後に著しく低下し、スタッフ見通しで織り込まれた水準を下回っています。制限的な金融政策は引き続き、幅広い金融環境に強く波及しています。貸出金利は10月に再度上昇し、企業向け貸出では5.3%、住宅ローンでは3.9%となりました。
借入金利の上昇や、ローン需要の低迷、ローン供給の逼迫化は信用動向を一段と弱体化させています。企業向け貸出は10月に年率0.3%まで低下し、家計向け貸出も依然抑制され、年率0.6%の伸びとなっています。貸出の低下やユーロシステムのバランスシート縮小に伴い、マネーサプライM3は縮小しています。10月には年率1.0%に低下しました。
私たちの金融政策戦略に則り、理事買いは金融政策と金融安定の関連性を徹底的に評価しました。ユーロ圏の銀行は頑健性を示しています。高い資本比率を有しており、この1年で大幅に収益性を向上しました。しかし、金融引締め環境や低位の経済成長率、地政学的緊張という現在の環境下、金融安定性の見通しは依然として脆弱です。特に、銀行の資金調達コストが予想以上に増加した場合や、借入側がローン返済に苦慮する場合、状況は悪化する可能性があります。同時に、金融市場が秩序を持って反応すれば、そのような経済シナリオによる全体的な影響は抑制されるはずです。マクロプルーデンス政策は、引き続き金融脆弱性の増大に対する防衛の第一線(最前線)であり、現在の措置は金融システムの頑健性維持に貢献しています。
結論
理事会は本日、ECBの3つの主要政策金利を据え置くことに決定しました。理事会は、インフレ率が適時に2%の中期的目標へと確実に回帰することを決意しています。現時点の評価に基づき、私たちは、政策金利は十分に長期間維持することで、適時なインフレ目標への回帰にきわめて大きく貢献する水準にいると考えます。私たちの将来の決定事項は、適時なインフレ回帰を確実にするために必要な間、政策金利が十分に制限的な水準に設定されることを決意しています。私たちは、金融引締めの適切な水準及び期間を決定するうえで、データ依存のアプローチを続けます。
理事会は、2024年後半にPEPP残高を削減し、2024年末に再投資を停止する方針です。
いずれにしても、インフレ率の中期的目標への回帰及び金融政策波及の円滑な機能維持を確実にするという責務において、あらゆる手段を調整する準備があります。
それでは、質疑応答に移ります。