ECB:2023年12月ECB理事会記者会見②質疑応答部分(日本語訳)

2023年12月14日に実施されたECB理事会後の記者会見の日本語訳です。
分量が多いため、①冒頭のラガルド総裁による説明部分②質疑応答の2つに分割して掲載します。今回は②です。
同様に分量が多いため、見やすさを考慮して原文は掲載せず、日本語訳のみ掲載します。原文は、以下をご覧ください。

ECB公式ページはこちら。
PRESS CONFERENCE (europa.eu)

なお、公表文では文末を「だ・である」としましたが、記者会見は「です・ます」とします。
また、ECB公式ページに合わせて、記者からの質問は太字で記載しています。
誤字等あれば、随時修正します。


質問は2点です。1点目は、特に昨日FRBが来年中3回の利下げの可能性をかなり明確にした後ですので、金利の将来の軌道に関する市場の期待についてです。ECBの考えはいかがでしょうか。2点目は、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)についてです。PEPPの再投資早期停止や段階的廃止は利下げの前提条件であり、3月には開始する見込みでしょうか。

2点質問をいただき、ありがとうございます。しかし、1点思い出していただきたいことがあります。私たちは、データに依存しています。時間には依存していません。データに依存しています。また、理事会の会議室にお連れしましょう。ご記憶のとおり、私たちは金融政策のスタンスに3つの主要な基準を定義しています。インフレ見通し、基調的インフレ、波及(つまり金融政策の波及力)です。状況に十分な進展がみられるか、金融政策が機能しているかの判断は、これら3つの基準に照らしています。スタッフ及び12月にユーロシステム全体が作成したインフレ見通しをみると、新たな見通しでは、2025年にインフレ率2.1%をはっきり見込んでおり、見通しに含まれる2026年ではなく、2025年に総合インフレ率2.1%を見込んでいます。これに至る道のりはこれまでより平坦で、インフレ期待が不安定化するリスクは低下しています。インフレ見通しではこのようになっています。基調的インフレについては、金融政策の公表文では、数多くの経済指標が基調的インフレが全ての要素で低下し、予想を下回っているときわめて具体的に、述べています。波及については、特に企業や家計への貸出量を見ると、金融経済への力強い波及力及び全体への強い波及力が明確に確認できます。

私たちは、警戒を緩めるべきでしょうか。その質問を自身に問いかけました。いいえ、私たちは、断じて警戒を緩めるべきではありません。2点、理由をお伝えします。1点目は、私たちの3つの基準の1つであるインフレ見通しは、見通し作成の基準日を決定した時点の市場データが織り込む金利パスを条件とすることです。基準日は、公表物で確認できるとおり、11月23日です。これが1点目です。2点目は、基調的インフレの全ての指標からは、ほとんど変化していないある指標が確認できます。わずかに低下しているものの、それほど程度は大きくない、それが国内物価上昇です。国内物価上昇は、賃金に大きく左右されます。私たちは、より多くのデータが必要で、起きている事象や国内物価上昇が根強い理由をより深く理解する必要があります。理解するために、幅広い事柄が必要です。1つには、賃金データが必要です。これは、複数の方法で測定されます。本当に幅広い指標があり、賃金トラッカー、求人数、欠員などです。もちろん、これらが市場の逼迫度合、すなわち、今後数か月の賃金動向を決定づけます。

いま手元にあるデータを見ると、賃金動向は低下していません。労働者1人あたりの報酬は第2四半期から第3四半期にかけて減少したことは事実です。しかし、その他の指標は異なります。だから、この観点でより多くのデータが必要なのです。2つめの要素は、私たちやスタッフが見通しを作成するのに必要不可欠ですが、単位収益についてのより多くの情報も必要です。私たちの見通しは、多くのキャッチアップ賃金上昇が実際に企業の値上げに転嫁されるとの予想に基づいています。そのため、これら2つをより持続的な基礎とする必要があり、国内物価上昇は私たちの目標に向けて低下していくことを示しています。私たちは、まだ2つの要素を手に入れていません。2024年中には、非常により多くのデータを得られるでしょう。特に前半に多いものの、本当に持続的かどうか判断するために必要です。さて、2点目の質問はPEPPに関連していました。非常に、非常に多数派の理事会メンバーに共有された、PEPPに関する決定についてどう考えているかお伝えします。全員、2024年末の再投資停止に賛成でした。若干早く、又は遅く始めるという、若干異なる引締めを望んだメンバーもいたかもしれません。そのため、私たちは、6月末まで100%の再投資を行い、7月から12月までは50%の再投資、2025年1月以降は再投資を行わないことに結論づけました。これはまさにバランスシートの正常化です。実施するのによいタイミングです。断片化はほとんどありません。私たちが実施してきたのとまさに同様の方法で、市場は資産買入プログラム(APP)の再投資減少を吸収しています。そのため、これは真に独立した原則であり、重要性がないと望んでいますが、低い優先順位で実施し続けるでしょう。このようにして、私たちは先ほどの決定事項にたどり着きました。しかし、「PEPPでやるならば、金利でも計画しているかもしれない」ということでは全くありません。いいえ、金利は主要な手段であり、優先順位が低いと述べたPEPP側で起こることとは独立して利用する方針です。

昨夜、パウエル議長は、利下げが視野に入り始めており、確実に議論の一部であったと発言しました。質問ですが、これはECBも同じでしょうか。ある時点での利下げについて、また、利下げの方法について、メンバーの誰かから議論はあったでしょうか。2点目の質問は、数週間前のラガルド総裁の発言に関連します。今後数四半期には政策金利の変更を見込んでいないと発言されました。本日時点で、この見方を維持しますか。あるいは、この見方を維持しないようなデータが、当時以降、揃ってきたと考えますか。

2点の質問をありがとうございます。1点目については、とても簡単です。利下げについては、全く議論しませんでした。この問題について、議論はなく、討論もありませんでした。理事会の全員が、利上げと利下げの間には金利据え置きの大きな高原、大きな砂浜があるとの見方だと思います。固体、液体、気体のようで、液体の段階を経由しなければ、固体は気体になりません。議論されなかっただけではありません。今後も、データに依存し続ける方針です。データ全体を見て、会合ごとに判断を続ける方針です。しかし、国内インフレの一定の根強さや、私たちが断固として回避したい副次的影響のリスクを考慮して、今示した類のデータに対して細心の注意を払う予定であるのは明らかです。

金利の見通しに戻らなければなりません。上半期には、賃金及び物価上昇の先行きに関する多くのデータが現れると述べました。偶然にも、PEPP再投資も同時期に減速するでしょう。そのため、どのような政策金利パス(経路)が必要かとの考えを変えるのにふさわしい時期と思われるかどうか、また、利下げを検討するのに良い時期かどうかについての考えをお伺いしたいです。2点目の質問は、冒頭の声明で言及された点についてです。各国の政府は財政支援を抑制すべきで、さもなければ金融政策はより引き締め的になる必要があると述べました。特定の国を念頭に置いた発言でしょうか。

後者の質問については、特定の国を念頭に置いてはいません。財政支援、特にエネルギー価格上昇を補うための裁量的な支援は断固として撤回されるべきという原則があると考えています。エネルギー価格の下落スピードを考えると、石油及びガスのいずれも、実施中の財政措置を続けることは全く不当であり、正当化することはできないでしょう。しかし、特にどの国を特定したものではありません。同じ段落で、私たちはソブリン債務削減を強く促進すると指摘していると思います。財政措置は撤回されるべきであり、ソブリン債務は削減されるべきだと指摘しています。また、金融政策の声明文をよくご覧になっていますので気付かれると思いますが、構造改革についての表現を変更しました。長すぎる間引き延ばしてきた、ユーロ圏の競争力を支えるために必要不可欠な技術的措置の一部に関する合意到達がある程度延期されること認識し、恐れているための対応です。競争力が本当に弱まっているとのデータが公表されれば、お分かりになると思います。資本市場同盟、銀行同盟、あるいは市場同盟全体及び財・サービスの自由移動のいずれであっても、多くの進展が必要です。この点は非常に明確にされました。副議長が非常に強く賛同しています。理事会では、この問題に取り組んでいるヴァルディス・ドンブロウスキス(欧州委員会副委員長)が出席する中、同様の発言が多くみられました。

最初の質問については、2024年前半には多くのデータを手に入れるということは事実です。そのため、特に雇用面で豊富なデータが得られるでしょう。賃金トラッカーがカバーしている労働者の約50%が団体協定の再交渉や新たな形の雇用、もしかすると新たな合意賃金を迎えることを考えてみてください。また、企業の世界でも同様、財・サービスのいずれにおいても、契約条件や価格表は来年はじめの数か月で頻繁に改訂されるでしょう。しかし、それで終わりだろうと言っているのではありません。2024年を通して、データ全体に注意を払い続けます。

まず、FRBパウエル議長による昨夜のコメントについてお聞きします。現在の金利水準に長居しすぎるリスクがあると述べ、高水準に長く留まりすぎる失敗を起こさないよう非常に集中していると述べました。同じ不安をお持ちですか。2点目は、市場の期待及び市場の価格形成を少し違う聞き方でお尋ねします。現在の市場の価格形成は、ECBが来年3月以降6回利下げするとしていますが、これは合理的でしょうか。妥当だとお考えでしょうか。

1点目の質問についてですが、一体誰が長居しすぎたいと思うでしょうか。しかし、私たちが本日話しているのと同様、ユーロシステムのスタッフによる予想の基礎には、警戒を引き下げる時期であるとの考えはなく、まだやるべきことがあり、据え置きの形をとることができると信じています。金融政策の声明文では、基本的に述べており先ほどもお伝えしましたが、現時点の評価に基づき、私たちは、ECBの主要政策金利は十分に長期間維持することで目標にきわめて大きく貢献する水準にいると考えます。その後には、こう続いています。私たちの将来の決定事項は、政策金利が必要な間、十分に制限的な水準に設定されることを確実にします。これを私たちのデータ依存のスタンスや、私たちは視野を狭めておらず、いくらかのデータを把握しているという事実と組み合わせると、特に賃金及び企業収益のデータの組み合わせや、これら2つの間のメカニズムは非常に重要な役割を果たすでしょうし、私たちはこれらに特に注意を向けるでしょう。今後、より多くのデータが得られるでしょう。銀行貸出調査や企業電話調査の結果が得られますし、警戒を緩めることができる時期を決定する上で、これらを考慮します。私たちの現状は、このような状況です。

もちろん、2点目の質問に直接答えるつもりはありません。私たちは3つの基準を見続けるとだけお伝えします。スタッフの見通しや、私たちの措置や基調的インフレ、金融政策の強力な波及力に基づき、私たちが設定した、見通し期間の最後に2%目標に到達するという中期的目標がどこになるかを見定めていきます。見通し期間の最後は2026年であり、1.9%となる見通しため、おそらく、これまでより自分自身に少し厳しくなる状況です。おそらく、2025年末には非常に注意深く状況を見ているでしょう。2025年には2.1%になると考えており、この2.1%の水準で落ち着く予定です。これが、私たちの行っていることです。今の見通しは、11月23日の基準日より前の市場データに織り込まれた金利パスを条件としています。

1点目の質問は、景気後退に入っており、経済成長が加速するとの見通しであるいくつかの国についてです。景気後退や景気がより悪化するリスクは、どの程度、本日の決定に考慮されているでしょうか。金利についてはいかがでしょうか。また、PEPPについても質問があります。過去に、PEPP再投資の柔軟性は断片化リスクを防ぐための最前線であると述べられました。現在は良いタイミングであるとちょうど述べられました。断片化リスクは心配に当たらないというのは、大きなニュースのように思われますが、この点についてもう少し詳しく伺えますか。

まず、基本的な見通しに景気後退はないことをお伝えします。もちろん特定の国を見ているわけではなく、広くユーロ圏を全体的に見ています。私たちの責務は、景気後退を引き起こさないことです。私たちの責務は、2%の中期的目標に到達することであり、これを物価安定と定義しています。その実現のため、ファイナンシング(資金供給)を続ける必要があると認識しており、私たちが設定した金利により引き起こされるでしょう。このファイナンシングは、確実に需要を減退させるでしょう。それを確認しているところです。全てのマクロ経済データ及び全体の状況を考慮しますが、私たちの責務を果たすことが原動力です。

PEPPについては、まず、再投資(満期時における償還分の100%を意味しますが)を続ける限り、私たちには柔軟性があることを忘れないでください。これは、PEPPの1つの特徴です。この柔軟性は6月末までの100%再投資、そして2024年末までの50%再投資に適用されます。PEPPはその目的を果たしてきたと信じています。パンデミックに対応するための、緊急プログラムでした。愚かなCOVID-19が時折あなたに、私と同じように、襲い掛かって来ましたが、パンデミックはもう終わりました。WHOがそう宣言しています。危機はもはや近くにありません。実際に今、断片化リスクがみられない時点で、バランスシート正常化は明らかに歓迎されるものです。そのようなリスクがもしあれば、適切な波及力が使命の一部ですので、私たちにも一秒たりとも迷わずに利用可能な手段があります。

1点目に、ドイツ政府はある種の節約パッケージ、具体的には、炭素税引上げを含むものを可決したところです。これはユーロ圏のインフレにどの程度影響するでしょうか。2点目に、私の理解が正しければ、来月の比較的頑固なインフレは賃金及び企業収益が主因です。これは、ある種の賃金物価スパイラルに何らかのリスクが残っていることを意味するのでしょうか。あるいは、他のなにかを意味するのでしょうか。

1点目の質問については、明らかに時期尚早です。昨日、ドイツの連立政権による決定事項のアナウンスがありました。この内容や、彼らの見通しは私たちの現在の見通しに含まれておらず、今後、間違いなく見通しに含め、どのような影響があるのか正確に理解するよう努めるでしょう。ドイツは大国であり、ユーロ圏のおおよそ25%を占めており、実施される財政措置は考慮に含め、インフレへの影響を見定める必要があります。そのため、私たちはそうします。

賃金及び企業収益の質問で終えることに感謝します。なぜなら、これはスタッフ、ここにいるECBだけでなく各国中銀のスタッフが非常に、非常に注意深く見ている事柄だからです。単位収益によるインフレへの寄与は2023年を通して低下してきたと把握しています。記憶では、寄与度は約2.4%でしたが、今は1.4%まで低下しています。大きな「if」で、これが持続的であると真に理解し、正しいことを十分に確認する必要がありますが、もしこれが確認されれば、私たちの以前の見通しで立てており、12月の見通しでも立てている仮定、すなわち、キャッチアップやその他の手段で賃金上昇を吸収するため、値上げは減少するであろうという仮定が、実際に起こっていることを意味し、インフレ目標にとって本当に良いニュースです。しかし、これが実際に起きていると真に判断するための情報は十分に持ち合わせていません。これからのことです。

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