バイロイト初体験記2024 「ニーベルングの指環」 バイロイトは怖いところではなかった
プロローグ
ヨーロッパから帰国するといつもどん底に憂鬱だ。旅先であんなに生き生きと自分の世界を広げまくったのに、生きる喜びを感じない残念な国ジャパンで生きていく虚しさ。
私にはこの貴重な体験を共有する場所がない。その体験とは、世間がイメージするような優雅な癒し音楽とかいう軽いものではない。10秒で笑える動画やゼロ・コンマ1秒で感動できるSNS投稿などが人気の現代社会では、長すぎる上に曖昧で答えのないクラシック音楽やオペラの世界の情報などウケない。ああ、私はなんという退屈な時代に生きているのだろう!
何を共有したいのかも自分で分からなくなってきた。これは優雅な癒し音楽というよりは怪しげなカルト宗教の儀式だ。では、私は我々クラシック音楽・オペラ愛好家をカルト宗教の信者であると言いたいのか? 違う!!そうではないはず!!
ターゲット読者をどのように設定したら良いのだろうか。何も知らない初心者にゼロから説明するのも骨が折れる。一方で、マニアが満足するようなマニア向けの深い記事を綴るには、私は知識も能力も劣っている。
では、こうしよう。
ターゲット読者 = ワーグナー作品を鑑賞し始めたばかりだが、いつかバイロイトに行くかもしれない人
つまり、12〜13年前の私自身のような人に向けて書こう。その人の視野と行動力に影響があると嬉しい。自分の文章にそんな威力はなさそうだけど。情報はどんどん古くなるので、最新の情報はネットでご確認いただければと思う。お役立ち情報ばかりのガイドブック的な文章は書きたくないので、バイロイトに行かない人も楽しめる読み物として書く。
バイロイト行きを決意した経緯
お気づきだと思うが、ここでいう「バイロイト」とは、単にドイツの都市名というわけではない。音楽好きの中で「バイロイト」と言えば、「バイロイト音楽祭」を指す。作曲家のリヒャルト・ワーグナーは、自身にとって理想的な形で作品を上演できる劇場を作った。そこではワーグナーの生前から現在まで続く音楽祭が毎年夏に開催されている。上演される演目は例外として演奏されたベートーヴェン「第九」を除き、ワーグナー作品のみ。「さまよえるオランダ人」以降の全10作品だ。ワーグナーファンにとって、この音楽祭は重要なイベントであり、バイロイトは聖地である。
私のオペラ鑑賞熱は2011年頃に始まった。それまでは、オペラ鑑賞といえばプッチーニの「ラ・ボエーム」を2回鑑賞しただけ。熱のきっかけはこうだ。大震災のちょっと前に、突然ご縁あってリヒャルト・シュトラウスの「サロメ」の舞台稽古見学会に誘われた。刺激的な体験だった。また、翌年、フランスのピアニストを追いかけてパリに行ったとき、「ここで出会ったのも何かのご縁」として、その時にたまたまパリで上演中だったオペラ作品2つを鑑賞した。そのうちの1つがワーグナー。初めてのワーグナー作品、何だと思う?
「パルジファル」(爆笑!)
まあ!!ワーグナーの主要10作品の中でも、最も初心者に向いていない作品!!晩年の作品だ。しかし、私は訳わからないまま関連本を読んだり、情報をかき集めてDVDを観たりして、何とかこの作品の鑑賞を楽しめる程度まで理解を進めてからパリに行った。
当時、つまり2012年頃、バイロイト音楽祭は、現在よりもっと特殊な音楽祭だった。よくは知らないのだが、各国のワーグナー協会の会員になって、数年待って、ようやくチケットが回ってくるとか。まあ、なんて驚くほど前時代的なのでしょう!オペラ初心者の私など歓迎されない排他的なイベントなのだろうと思っていた。嫌な感じだ。ご縁はなさそうだ。ところが、程なく、音楽祭チケットは誰でも早い者勝ちで購入できるようなシステムに変わった。(今でも会員向けに先行抽選販売?があるようだが、一般発売で十分購入可能。)
2012年のワーグナー初鑑賞「パルジファル」以降、少しずつ国内や海外でワーグナー作品の生鑑賞をした。
2020年は「トリスタンとイゾルデ」を東京で、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を東京とミュンヘンで鑑賞予定だった。もちろんコロナ禍でいずれもキャンセルとなってしまったのだが。その頃から、私もそろそろバイロイト音楽祭を目指しても良いのではと思うようになっていた。なぜかというと、ワーグナー作品の生鑑賞のコンプリートが見えてきていたから。嫌な感じで、ご縁もなさそうだと思っていた音楽祭を視野に入れるようになる日が来るとは!
2022年12月、コロナ禍以降初のヨーロッパ旅。フランクフルト歌劇場で「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を鑑賞。2023年にはウィーンで「ジークフリート」。今年2024年は東京で「トリスタンとイゾルデ」を鑑賞。ワーグナー10作品のうち、残りは「ラインの黄金」と「神々の黄昏」だけ。この2つの作品は「ニーベルングの指環」全4部作のうちの2作品。単独での上演はほとんどない。この際、できることなら「ニーベルングの指環」全4部作を一気に鑑賞してみたい。それによって、10作品の生鑑賞をコンプリートすることになる。コンプリートする場所はバイロイトが相応しいのでは・・・?! そう思うと、ドキドキした!
2023年12月、一般発売から1〜2日出遅れてしまったが、小心者の素人が何となく安心できそうな1番端の席が1つだけまだ残っているではないか!思い切って勇気を出してポチッと購入したのだった!おめでとう、自分!!(この興奮を誰にも共有できず、誰にも理解してもらえないので、思わず勢いでnoteアカウントを作成したのだった。まあ、別に想定通り、全く反応はなかったが・・・)
「ニーベルングの指環」全4部作
今回鑑賞した「ニーベルングの指環」(通称:リング)については、ネット検索でもして調べていただきたい。思いっきり簡単に説明するなら、ゲルマン神話と中世の伝説とワーグナーの妄想がごちゃ混ぜになった世界である。ハリウッド映画のように小学生でも楽しめる単純明快な世界ではない。リアルライフとは遠く離れた異次元の世界のようだが、答えのない曖昧で矛盾した現代社会とは、ある意味、親和性があるとも言えるのでは?
ネットで検索せよと言われても検索しない面倒くさがり屋も多いだろう。検索したところで、内容がすんなり頭に入るほど事前知識や想像力が豊富な人など、ほとんどいないのでは?かなり省略した内容をここに記載しておく。
前夜「ラインの黄金」
小人族のアルベリヒはライン川の黄金を盗み、愛を断念して世界を支配する指環を作る。一方、神ヴォータンの依頼で宮殿ヴァルハラが竣工した。建築費として、巨人族は、ヴォータンに、アルベリヒの指環を要求。ヴォータンは指環を盗み、巨人族に渡す。指環を奪われ、絶望し、指環に呪いをかけて立ち去るアルベリヒ。指環の呪いで、兄弟殺し合いをする巨人族。この世の終わりが近づいていることが心配で、世界を支配できる指環が欲しい神ヴォータン。
一夜「ワルキューレ」
神ヴォータンは人間界の女との間に双子を設け、そのうちの男児ジークムントに望みを託した。しかし、正妻フリッカの主張に負けてジークムントの死を決める。ヴォータンは全てを知る女神エルダとの間にも娘ブリュンヒルデを設けていた。ジークムントの死という決断に納得できないブリュンヒルデは、父に背きジークムントを守ろうとするが、結局ジークムントは死んでしまう。父から罰を受けてブリュンヒルデは長い眠りにつく。ジークムントと愛し合った妹ジークリンデはその後ジークムントの子を産んだ。子の名はジークフリート。
二夜「ジークフリート」
両親亡き野生児ジークフリートは、アルベリヒの弟で小人族のミーメに育てられた。鍛冶屋のミーメは、ジークフリート父の形見である折れた剣を繋げることはできなかった。ジークフリートが自ら剣を再生。刀はノートゥングという名が付けられている。ジークフリートはノートゥングで、大蛇(指環の持ち主の巨人族ファーゾルトが変身兜で変身した姿)を倒す。ジークフリートを利用して指環や宝を奪い、ジークフリートの命まで奪おうとしたミーメも、ジークフリートに殺される。ひとりぼっちになったジークフリートは、燃える岩山で眠るブリュンヒルデを発見して結婚する。
三夜「神々の黄昏」
ジークフリートはブリュンヒルデの元を去り冒険に出かける。名家ギービヒ家を訪問。ジークフリートは、ギービヒ兄妹の異父兄(あるいは弟)であるハーゲンの策略にはめられて、ブリュンヒルデのことを忘れてギービヒ家の娘に求婚。ハーゲンは実は小人族アルベリヒの息子で、指環奪還のためにジークフリートの命を狙っていた。ジークフリートはハーゲンに殺されたが、ハーゲンは指環を手にすることはできない。指環を手にしたブリュンヒルデが自らの命を終わりにするとともに、指環をライン川に返した。
重要な内容をごっそり省略しているので、この説明はあまり参考にはならない。詳細はきちんと調べよう。
私は「ワルキューレ」を2回生鑑賞した後、なかなか他の3作品を鑑賞する気にはなれなかった。生鑑賞の機会は少ないものの、全然なかったというわけではないのだが、内容がわかりにくそうだし、特に後半2作品は上演時間が長すぎるので、予習も面倒だし、避けていた。コロナ禍で何度かオンラインで全4作品を通して鑑賞する機会があり、ようやく作品の内容を知ろうと思えるようになった。
【参考】上演時間(バイロイトでのスケジュールも付記)
前夜「ラインの黄金」約2.5時間(18時開演、休憩なし)
一夜「ワルキューレ」約4時間(16時開演、+1時間休憩×2回)
二夜「ジークフリート」約4時間(16時開演、+1時間休憩×2回)
三夜「神々の黄昏」約4.5時間(16時開演、+1時間休憩×2回)
前夜を除き、滞在時間は休憩を含めると6時間以上となる。鑑賞する人も体力が必要だ!夕方4時から夜10時過ぎまで。一方で、休憩なしで2.5時間の前夜もシンドイことが想像できる。現地入りする前から心配だらけだった。
今回の演出ノートより
「演出」というのもまたオペラを観たことがない人には説明しにくい。何度か鑑賞済みの方はすでにご存知だと思う。オペラ上演には演出家がいて、どのように上演するかは、演出家が決める。作品本来の内容とは異なる設定で上演することが多い。(作品に忠実な演出の方が珍しい!笑)
今回のバイロイト音楽祭の「ニーベルングの指環」は、1989年オーストリア生まれの若き演出家Valentin Schwarz による。2022年が初演。事前に購入してダウンロードしたプログラムの演出ノートによると、以下のような内容であった。個人的に気になったポイントのみ一部抜粋する。カッコ内は私の個人的なコメント。
ヴォータンとアルベリヒは双子の兄弟!(二人は確かに似たような行動をしているので、似ているところはある。だが、双子の兄弟にしてしまうと、色々矛盾が生じるのだが・・・その辺は気にするなということね?!)
指環は登場せず、指環を表すものとして子供が登場する!アルベリヒは子供を誘拐して自分の子供にする!(=それがハーゲン少年) 後半では、ジークフリートとブリュンヒルデの子供が登場し、指環を表す子供として存在。
「ワルキューレ」の最初からジークリンデは妊婦姿!(「本当にフンディングの子か?」と演出ノートには書かれている。どうだろう?ひょっとして父はヴォータンとか?ちなみに、本来の内容ならこの時点では妊娠しておらず、その後ジークムントの子を妊娠することになっているのだが・・・)
神々の若さを保つリンゴを作る女神フライアは、前夜「ラインの黄金」での人質としての経験が辛すぎたので、死んでしまった!「ワルキューレ」で葬儀シーンあり!(そんなに辛い経験だったのか?巨人兄弟の一人ファーゾルトとフライアの間に何か想いが芽生えたのではという説が気に入っている私としては、この演出ノートを読んだ時点でちょっとガッカリ。それに、神は不死じゃないの?フライアのりんごが生産できなくなったら、神々みんな老化が進んでしまう。いや、この演出では、神々は神ではなく、普通の人間として描かれているので、死すものなのだ。まあ、このへんも気にするなということね。)
「ワルキューレ」第三幕ではすでに赤ん坊ジークフリートが生まれている!
死の床にある老ファーフナーを看病するのは、アルベリヒに誘拐され、ファーフナーに拐われた数奇な運命のハーゲン(=指環)。ファーフナーの死後、ジークフリートとハーゲンは友達になって一緒にミーメを殺す。
ジークフリートは美しいブリュンヒルデに心を奪われ、新しい友達ハーゲンを無視する。ハーゲンは絶望する。
ブリュンヒルデの馬グラーネは、ブリュンヒルデの使用人として(黙役の人間として)「ワルキューレ」から出演。そしてなぜか彼もハーゲンに殺される。(なんで?!かわいそうに!)
結婚から数年後、ジークフリートとブリュンヒルデの間には娘がいる。
友情を裏切られて絶望するハーゲンはジークフリートへの復讐を企む。ハーゲンがグンターとグートルーネと住むヴァルハラを訪問したジークフリートは、やはりハーゲンのことを覚えていなかった。(ジークフリートがハーゲンに「俺のことをジークフリートと呼んだよね?どこかで会ったことあるのか?」と聞く場面がある。おそらく、そこからジークフリートとハーゲンが過去に会ったことがあるという演出を着想したのでは?)
娘と釣りを楽しむジークフリート。眠り込んだ娘をみながら元妻ブリュンヒルデへの愛情が復活したジークフリートは、突然ハーゲンに殺される。(友情を裏切られたぐらいで殺すな!!←ワタクシの心の叫び。ムカつくから意地悪するとか、それぐらいでいいではないか。「こうもり」みたいに。)
演出ノートを読まないで鑑賞したら、意味不明だろうね・・・(笑)
演出を楽しむコツは、演出をあまり気にしないということかもしれない。無駄にイライラするより、別にいいやと思って音楽に集中しながら、ちょっとだけ演出も楽しむ。物凄く説得力のある演出と出会えることもあるので、その時はラッキーと思う。その程度で良いと私は考える。あなたはどうだろうか?
バイロイトは怖いところではなかった
ホテルから会場まで歩いて行けるか?
Googleマップが必ずしも正確な距離を示しているとは限らないので少し心配だった。宿は「バジェット」が付く名のチェーンホテル。ホテル予約サイトで検索すればすぐわかる。駅の近く。駅からも会場からも徒歩で行けるホテルとして以前から狙っていた。その名の通り、リミテッド・サービスなのだが、同系列の上のランクのホテルと同じ建物に入っており、受付も朝食も共通だった。フルサービスではないが、十分快適に過ごした。ちなみに、音楽祭の期間は「バジェット」な値段ではない(笑) それは仕方ない。
測っていないがホテルから会場のバイロイト祝祭劇場へは歩いて大体10〜15分ぐらいだった。その時間に外に出ると、他にも同じ方向に向かって歩いている人たちがいる。このホテルより遠くから歩いてくる人もいる。他にはホテルからのバス送迎や自家用車での会場入りもみられる。路線バスもある。ごく少数だがスーツ姿で自転車で会場入りする人もいる。タクシー利用者もいる。会場にはタクシー専用の車寄せがあった。駅前にはタクシーが何台も待機していた。(ヨーロッパの小さい町の駅でタクシーが充実しているのは珍しいのでは?)
我がバジェットホテルでは、ワーグナー鑑賞から戻ってきた客たちが受付を兼ねたバーで夜な夜な会話したり、余韻に耽ったりしていた。素敵な空間だ。無料の水もあるし、有料のアルコールもある。
ホテルの客室には湯沸ポットが無かった。ちなみに去年末のアムステルダムのホテルでもそうだった。安いホテルはそういう傾向なのだろう。今回はコップさえ紙コップのみ。バイロイト1泊目にSkypeでドイツ人の友達とお喋りしたところ、速攻、アマゾンでトラベルコイルヒーターなるものを発注して、コップやコーヒー・ハーブティーと共に送ってくれた!コップに水を入れてコイルを入れ、電源に繋ぐと、あっという間に熱々のお湯ができる。お陰様でオペラ終演後に部屋でハーブティーを飲める幸せ(感涙)!ありがとう❤️
服装は?雰囲気は?
ヨーロッパの夏は暑い日と寒い日の差が激しい。とんでもなく暑い日の翌日が「涼しい日」ではなく「寒い日」だったりする(笑) とはいえ、冷房のないバイロイト祝祭劇場は、扉を閉め切るとかなり暑いということだったので、ノースリーブのワンピースを用意していた。なるほど。暑い日、扉が閉められた会場では、この服装が丁度いい。一方、日が沈んだ後は室内でもこれでは少し寒い。気温が低い日は開演前もノースリーブでは寒い。フォーマルなジャケットを持参しなかったので、少々カッコ悪いがフード付きのカジュアルなパーカーを羽織るしかなかった(笑)
伝統的な音楽祭なのに、フード付きのパーカーで良いのか?
いいのだ。
全然問題なさそうだ。
蝶ネクタイ姿の男性やロングドレスの女性も多かったが、カジュアルな格好の人々もたくさんいた。ネクタイ無しのスーツ、ジーンズにジャケット、Tシャツにジャケット・・・それどころかTシャツにジーンズという人も。ハイヒールより圧倒的にローヒール。最も格式高い音楽祭の一つだと思っていたのだが・・・ 以前はそうだったのだろう。今はその雰囲気を残しながらも、柔軟に服を選べるようだ。結論:ワーグナー作品は長時間に及ぶのだから、最後まで耐えられる服装であるべき!(でも、着飾った人々がいると会場の雰囲気が華やぐので良い!カジュアルスタイルも認めつつ、ドレスアップする人々が今後もいてくれますように!)
ご夫婦など2人組が多いのは想定通りだが、思ったよりお一人様も多い。男性のみのグループもいくつか見た。毎年一人で来ていたけど、そのうち仲間が出来たというパターンだろうか?会場入り口のミニワーグナー像(↓)とツーショットセルフィーを撮ろうと頑張っていたら、スペインから来たという女性に話しかけられた。今回が3回目のバイロイトで、最初は1人だったけど、ここで友達ができたので、一緒に楽しんでいるとのこと。そうやって友達を作る人もいれば、ずっと一人で楽しむ人もいるのだろう。自由だ。
ドイツ語の他に、英語、フランス語、スペイン語などが聞こえた。日本人も多かった。アジア系はほとんど日本人なのではとさえ思った。数えていないが数十名規模? 私は、日本なんかダメだとネガティブな発言ばかりしてしまう人間だが、こんなところまで自力で駆けつける日本人が多いことは凄いことだと思う。その行動力と芸術を愛する感性を誇りに思う。以前、長野の音楽祭で知り合った方もいらしていた。私の知り合いの中で唯一ワーグナーの話ができる人である。最近、東京の公演ではお会いできていないが、想定通りバイロイトで再会!(笑)
椅子が硬い?
心地良い椅子で眠りこけないように、ワーグナーの意向で硬い椅子が使用されていると聞いたことがある。実際に行ってみると、底面には薄い布シートが貼られていたが、背もたれは木材のみ。以前はクッションを持ち込む人もいたようだが、今はA4サイズ以上の持ち物は持ち込めない。(薄めの折りたためるクッションシート的なものを持っている人は見かけたが)
最も辛かったのは休憩なし2時間半の「ラインの黄金」だが、何とか耐えた。写真をご覧いただけばわかるが、室内の密集度は、これまで訪問した国内外のどのホールよりも凄まじい!列の前後が狭いので足を組んだり、組み直したりしにくいのがキツかった。足を動かそうとすると前の座席を蹴ってしまいそう。
なるほど。この超密な空間に、人々の熱気と音が充満して、何らかの物質(?)の濃度が異様に上がり、客が陶酔するという仕組みなのだな。
当日の飲食は?
長時間作品は1時間休憩が2回もある。周辺の庭園を散歩して過ごすには長すぎる休憩時間。時間的に当然お腹も空く。音楽祭のウェブサイトに会場内飲食の案内が掲載されているが、高額なので遠慮したい。。食べ物を持ち込むことはできるのか。飲み物とブレーチェル(プレッツェル)ぐらいなら買えるだろうか?行く前は謎だらけだった。
初バイロイトなので、今回だけは散財して遠慮なく飲んだ。ワインが欲しくなる雰囲気なのだから我慢するのも勿体無い。ビールの方が少し安かったので1回はビールをオーダー。ビール+ブレーチェル、ワインのみ、ワイン+ブレーチェル、アペロール・スプリッツのみ、アイスクリームのみ・・・などをいただいた。値段?知らん(笑)もう忘れたい。飲み物とブレーチェルで2500円〜3000円ぐらいだったかな?恐ろしや・・・
アイスクリームは3ユーロ。この会場では最も安い。町中では2ユーロでたっぷりのアイスを食べられるが、ここではちょこんと小さめのアイス。
それほどセキュリティが厳しいわけではなかったので、A4サイズのバッグに入るものであれば持ち込める。最後の日はバッグにスーパーで買ったクッキーを入れてきた。他にも以下のポイントを発見したので共有しておく。
駐車場の近くに、音楽祭とは関係のないビアガーデンがある。そこまで行けば、音楽祭価格よりは少し安く飲食を楽しめる。
会場の外にはコインロッカーもあるので、飲みかけのボトルや自宅・ホテルから持ち込んだものも保管できる。車で来場するなら車に飲み物や食べ物を置いておくことができる。なんと、ピクニックシートまで持参して、ドレスアップしたまま休憩時間に庭園でピクニックしている人々もいた!また、ご家族でバイロイトでバカンス中だけどオペラ鑑賞しない家族メンバーがいるのか、蝶ネクタイ姿で庭園で犬の散歩をしている人もいた!普段着の家族と一緒に。休憩時間が長いので、時間を合わせて家族と過ごすことも可能なわけだ。自由だ。
バイロイトの町は?
今回、私はミュンヘン空港着。ミュンヘンで1泊してから特急列車でニュルンベルクまで1時間。そこからローカル列車1時間でバイロイト。
来る前はバイロイトは小さい町だと思っていた。東京から来た人間からみると、やっぱり小さい町なのだが、小さすぎるわけでもなく、スーパーもデパートも飲食店も十分ある。ただし、日曜は一部の飲食店を除き、ほとんど閉店。最近はヨーロッパでも観光客が多いところは日曜も営業している店が多いので、すっかり忘れていた。やることがなくなってしまった日曜の午前はワーグナーが住んだ家Wahnfried を訪問した。ワーグナー博物館になっている。
開演の遅い日や公演のない日は別の都市を訪問したので、バイロイトの町散策は、長時間公演の午前中のみ。カフェ、ワイン店、公園など、気に入った場所を再訪したい。
バイロイトは怖いところでは無かった!いつかバイロイトに行くかもしれないあなたも、安心して旅を計画できるだろう。
鑑賞の感想
バイロイトでは、どの席からも舞台が見えると聞いていたが、流石に一番端の席だとそうはいかない。私の席からは舞台の左端が若干欠けてしまったが、一部のヨーロッパの歌劇場よりはましだ。
しかし、どうやら重要な部分(?)も見えていなかったらしい・・・ 例えば、死んだヴォータン。この夏上演された2回の「ニーベルングの指環」の1回目で鑑賞された方のブログで読んだのだが、ヴォータンの死体のようなものが出るということだった。私の席からは何も見えなかった。でも、ちゃんと出ていたそうだ。二夜と三夜の終演後、同じホテルの日本から来た3組のご夫婦とお喋りしたのだが、「死体」らしきものは確かに出ていたそうだ。左端に!(笑)
端っこの席は失敗か?いや、そうでもない。前掲の写真の密集度なのだから、端っこが何となく安心感がある。「ジークフリート」では同じ列で3席空いたので、端の方にいた人々は詰めて座ったのだが、それでもまだ私は左端の舞台が少し見えなかったし、前々列に座高の高い人がいたので、逆に見えにくかった。結局、最後の幕では、元の端席に座ることにした。
オーケストラは床の下にいて姿は見えない。演出で舞台に鏡やガラスが置かれた時は、少しだけ指揮者(?)他が見えた。指揮は Simone Young。素晴らしい!私は指揮の良し悪しを判断する能力はないのだが、気になるところもなく十分満喫できた。終演後は大喝采を浴びていた。
何もかも満喫して感無量だ!
客席の盛り上がりが半端ない!バイロイトというと、ブーブー批判ばかりなのかと思っていたが、そうでは無かった。「ちょっと落ち着け!」と言いたくなるほど激しい歓声!!
ブーイングは、どの作品のどの幕だったか、若干聞こえたが、それは多分演出に対する批判なのだろう。2022年初演なので、どのような演出かについては皆すでに知っている。その演出があまりにも受け入れ難いのなら、わざわざ高いチケットを買ってバイロイトまで聴きに来ることはないのだろうから。たとえ少しぐらい演出に不満があったとしても、今現在において世界最高のワーグナー歌手たちが集結するというだけで、十分感激するのだ。
勝手な想像かもしれないが、ヨーロッパを中心に世界中から集まった客席のワグネリアンたちは、地元ではワーグナー狂いの変な人と見られているのかもしれない。ちょっぴり残念な日常から抜け出して、バイロイトで最高の瞬間を楽しんでいるのだ!そんな喜びがそこらじゅうに溢れている!
実際、私も歌手たちの抜群の歌いっぷりに惚れ惚れした。
「ジークフリート」で題名役を歌った Klaus Florian Vogt は去年ウィーンでも同じ役で聴いたが、今回の方がよりインパクトが強い(ウィーンでは私が疲労していたせいかもしれないが)。立ち姿だけでも見栄えするのだが、歌も抜かりない。安定の貫禄でワンパク少年を歌う(笑)
私は「ジークフリート」の第1幕が大好きなのだ。今回、通してリングを鑑賞してみても、やはり個人的なピークは、フィナーレ「神々の黄昏」より、「ジークフリート」、特に第1幕なのだ。
好きなキャラの1人はミーメ。ミーメを歌ったのは台湾出身のYa-Chung Huang だが、私のミーメのイメージにぴったり!滑稽だが憎めない面白い最高のキャラクターテノール。ミーメの家には垂れ幕付きのミニ劇場があって、そこでミーメはジークフリート誕生の人形劇を上演。水色のドレスを着たジークリンデ人形をジークフリートは手にして抱きしめて、一緒に外に出て行った(笑)
少し前にオンラインで無料公開されたチューリッヒ歌劇場のリングでもヴォータンを歌っていた Tomasz Konieczny も凄く楽しみにしていた歌手。やっぱり良かった!コニエチュニー(このカタカナをなかなか覚えられない)が歌うと、ドイツ語の発音(特に最後の音)が強調されてしつこく感じるが、このしつこさがツボにハマる(笑) 「ラインの黄金」の前半ではバカンス中なのか、ハーフパンツ姿だったが、それもよく似合う。アルベリヒのところに行くために、ローゲ(ヴォータンファミリーの弁護士という設定)がジャケットを渡していた。
この最強のトリオ(ジークフリート、ミーメ、ヴォータン)が活躍する「ジークフリート」の最高の第1幕の直後の写真はこちら。
ブリュンヒルデ Catherine Foster をはじめとする女性歌手たちも圧倒的な強さ、いや素晴らしさ。いや強さだよね。よくあれほどの音量で歌える。特にビビったのはジークリンデを歌った Vida Miknevičiūtė で、同じ場面で歌うジークムント Michael Spyres も凄かったのに、ジークムントを忘れてしまうほど激しい歌いっぷりのスレンダーな女性歌手だった。
フンディングを歌ったGeorg Zeppenfeld もスラリとした姿で、オペラグラス無しで遠目で見ると今時の若者のようにも見えるがベテラン歌手である。すぐピストルを掴む冷たく激しい男を好演。きちんとネクタイを締めたフンディング。ジークリンデは、フンディングの服をジークムントに貸し与えたので、敵対するフンディングとジークムントが何故か同じシャツを着ているのがちょっと笑える。きちっと着ているフンディングと、だらっとシャツを出して着ているジークムントの差が(笑) そう、フンディングがフリッカのところに相談に来る場面もセリフ無しで描かれていた。フリッカはコーヒーを用意。フンディングは砂糖は要らないと身振りしたのに、勝手に大量に砂糖を入れたのだった。フンディングが甘いドリンクを飲むはずない!やっぱり彼は飲まなかった(笑)
ちなみに、フンディングとジークムントの対決はこうだった。ジークムントの味方になると決めたブリュンヒルデの使用人グラーネがフンディングを抑えてジークムントが攻撃しやすいようにしたのだが、手前のソファに座っていたヴォータンが突然振り返り、ジークムントにピストルを向ける。久しぶりに父の姿を見たジークムントは「え?もしかしてお父さん?」と懐かしそうに顔を綻ばせる。突然の再会の喜びのため、父の持つピストルには気づかない。喜びの瞬間に撃ち殺されたジークムントだった。帰国した今でも印象に残る残酷なシーン。ジークムントの屍はソファの向こうにあるので、観客には見えない。そこを何度も目で確認して悲痛の表情をするヴォータンから、悲惨さを感じ取ることしかできない。何もせず勝ってしまったフンディングに向かってヴォータンは「行け!」Gehe と命じるのだが、私はコニエチュニーが発するGeheがたまらなく好きなのだ(笑)このGeheをどのような調子で言うかは、歌手によって異なるのだろう。彼の場合は、囁くようなハスキーな音色を保ったままの強めの声で「ゲー!」と言う。ダークな呪文のようでカッコいい!痺れた!(これを生で聞けただけでも満足かも!?)
Zeppenfeldは実は2022年12月のフランクフルトでのマイスタージンガーでも誰かの代役で出ていた。同じく、今回ドンナーを歌ったNicholas Brownleeも同公演に出ていた。なんとハンス・ザックス役として。ただ、Brownleeはハンス・ザックスを歌うには若すぎる。私としては、いずれ他の歌手でマイスタージンガーを再鑑賞したいと思っているが、今回のドンナー役はベストマッチだと思った!ヤンチャなドンナーは、酔っ払いで、ゴルフクラブを持っていた。あれれ?そのボールは、ボールではなくフライアのりんごでは?!(笑)
ハーゲンも私の好きなキャラである。今回は、彼が指環の代わりでもあると言う変わった設定。最初の「ラインの黄金」から登場。黄色いTシャツを着た子がハーゲン少年。「ジークフリート」では、若き青年に成長したハーゲンが、死が近づくファーフナーのベッドの横で見守る。アルベリヒに誘拐され、さらにファーフナーに誘拐された複雑な環境で育った子。森の小鳥はファーフナーの看護師として同席していたが、彼女とはお友達にはなれなかったのだろうか?孤独な少年・青年時代を生きたという設定となっている。「神々の黄昏」でもハーゲンは黄色いTシャツ。同じ人物であることを一目でわかるように示すためにそうしたのだろうけど、私としては暗黒のハーゲンが子供っぽい黄色いシャツというのはイマイチなのだが・・・ハーゲンにはハーゲンらしい格好をして欲しかった。それでも、歌手は素晴らしい暗い魅力のある男!Mika Karesと言うフィンランド出身の歌手。アルベリヒとのSchläfst du, Hagen, mein Sohn?(寝ているのか、息子ハーゲンよ)の場面は、サンドバックの前で。似合うね!
ハーゲンとグンター&グートルーネは異父兄妹と言うのが本来の設定なのだが、今回の演出でどのように位置付けてあるのかは不明。ただ、兄妹のように仲良く(?)一緒に暮らしていたようだ。屋敷の壁には3人でシマウマを仕留めた時の写真が誇らしげに飾ってある。そのシマウマの毛皮が屋敷の床に敷かれている。ただし、写真を見ると、手柄はハーゲンで、そこにグンターとグートルーネが便乗して、いかにも自分たちが仕留めたような雰囲気で写真を撮らせたようだ(笑) このグンターが、笑っちゃうほどチャラい男。長いブロンド髪を何度もかきあげて、クネクネしながら歌う(笑) 歌ったのはMichael Kupfer-Radecky。本来のグンターは、ノーブルな男になりたいけど、なれない、ちょっと野暮ったいけど、悪い人ではないというのが私の中のイメージなのだが、今回の演出では外見も動きも怪しい人でしかない。グンターとグートルーネは麻薬常習者と言う設定なのだろうか?そう思える動きがたまにみられた。笑えるほどチャラいグンターは、ブリュンヒルデへの求婚の場面でもグンターの姿だった。いつもに増してチャラいグンター!本来はこの場面はジークフリートが変装しているはずなのだが・・・あのフォークトがこんな面白い動きをするのだろうかと不思議に思って見ていたのだが、じっくりオペラグラスで確認すると、どう見てもフォークトではない。グンターが口パクで演技して、歌っていたのはフォークトなのではという話を聞いた。
4作品を通して鑑賞すると、小道具が引き継がれ、使いまわされているのに気づく。少年グンターがかぶっていたキャップ帽は、ジークフリートの娘がかぶっていたものと同じでは?ジークムントのコートは、ジークフリートの娘が朝起きた時にグラーネがかけてくれたブランケットでは?巨人族ファーフナーが弟ファーゾルトを殺害した時に使った指にはめるキラキラした金具は、ハーゲンに引き継がれたようだ。ジークフリートを殺す道具になった。ミーメが持っていたジークリンデの顔写真は、ジークフリートとブリュンヒルデの家にも飾られていた。
面白いシーンとして、ジークフリートがブリュンヒルデのところから旅立つ場面も挙げておきたい。結婚から数年経ち、すっかり倦怠期の夫婦という設定である。歌われるテキストは愛の溢れるものだったはず。テキストを正確には思い出せないのだが、どう考えてもテキストとは合わない演技。でも、この場面に、どうやらジークフリートが普通の生活に飽きて、あるいは妻に飽きて、家出をするというニュアンスは、もともとある程度感じていたので「あり」かなと考える。ブリュンヒルデは「ワルキューレ」や「ジークフリート」では、やや幼い感じで描かれていたように思った。ジークムントが固い決意でジークリンデと共に生きたいと主張したとき、ブリュンヒルデは一気にジークムントに恋したようだった。ウキウキ嬉しそうにはしゃいでいた(笑)「神々の黄昏」の頃はだいぶ落ち着いた感じだったかな。ちなみに、ジークフリートは、忘却の酒を飲まなかった。飲まずに、付き添い人(監視役?)のグラーネの頭にかけてみたら、緑色のドロっとした液体がダラリ。つまり、ジークフリートは、ブリュンヒルデのことを忘れたのではなく、確信犯としてブリュンヒルデを見捨てたという設定。
今回の演出は、そのようにリアルな人間の世界を描いているのだが、私は本当はリアルライフなど興味ない(笑) 本当は、どっぷり神話的な世界に浸りたかった。いつかそんな演出の上演を鑑賞できるといいな。
指環=子供という設定も、子は宝ということを考えれば繋がる。ノートゥングは剣ではなくピストルが使われていた。他の場面でもピストルはよく登場した。人質から解放されたフライアの目の前に、ニヤリとローゲはピストルを置く。フンディング、ジークムント、ヴォータンも手にはピストル。ジークムントが剣を鍛える場面では何故かちゃんと剣が登場。ただし、金槌ではなく、ピストルで剣をトントン叩く(笑) 絶望したヴォータンにエルダが差し出したのもピストル。それでヴォータンは自死したということになっているのかな。「ジークフリート」を締めくくる歌は Lachender Tod と終わる。笑いながらの死?という感じだろうか?その場面でも、ジークフリートとブリュンヒルデは二人で1つのピストルを握りしめて歌った。これは、私は気に入った。この歌では、そんな演出も合っていると思う。
「ラインの黄金」の冒頭では、映像に映し出された双子の胎児の一方が、もう一方の目を殴って流血していた。目を殴られた方がヴォータンなのだろう。もう一方がアルベリヒ。「神々の黄昏」の最後の場面では、再び双子の胎児の映像が出る。ただし、今回は仲良さそうに抱き合っている胎児たち。舞台には誰だかわからないお腹の大きい女性。苦しそうにフラフラしている。
私には意味不明だったのだが、終演後、同じホテルの日本人のご夫婦たちと話したところ、だいぶ納得できるようになってきた。ワーグナーは仏教思想に関心を持っていて、輪廻転生を描いているのではという。お腹の大きい女性が誰かはわからないが、また新たに命が誕生して同じような物語が繰り返されるということ。今度は平和な物語になりそうな予感をさせる。
4作品を通して鑑賞するのは体力を要する取り組みである。演奏者だけでなく聴衆にとっても。客の年齢層は高いが、ほとんどの人が最後まで楽しんだようだ。凄い!みんな、おめでとう!
通し券の場合はずっと同じ席に座る。私の隣はなんと小学生の娘さんとお父さん!全4作品の最初から最後までコンプリート鑑賞されていた!スペイン語(あるいはイタリア語?)で話していたので、ドイツ語は外国語のはず。小学生のうちに最高レベルの歌手とオーケストラでワーグナー作品を鑑賞してしまうなんて羨ましい!しかも、小学生なのにこんなに長い作品を、最後まで居眠りもせず、興味を持って鑑賞できるだけの知識と感性を持っているなんて凄い!私など30代になって、ようやくオペラを鑑賞し始めたというのに。思いっきりカジュアルなジーンズ姿の親子だった。お父さんも熱心に鑑賞して娘さんと何度かブラボー叫んでいた。
そういえば、事前購入してダウンロードしたプログラムには、上演写真や子供美術館の写真が掲載されていたが、演出家 Valentin Schwarz の子供時代の写真も1枚だけ含まれている。「ラインの黄金のピアノリダクション譜を見ながらショルティ指揮のCDを聴く9歳の Valentin Schwarz」と書かれている。演出家も小学生ですでにワグネリアンだったわけだ!彼の演出には面白いと思う部分もあったし、よくわからないと思った部分も多かったが、これほどまでにワーグナーを愛する彼にバイロイトという最高の舞台での演出の機会が与えられて良かったと思う。私の隣で鑑賞していた小学生の女の子も将来ワーグナー作品に関わるアーティストになるのかもしれない。
以上、思い出した順番で五月雨式で書いたのでわかりにくいと思う(笑)
何となくイメージが伝われば幸いだ。時間をかけて丁寧に書いたところで、どうせ誰も読まない。もっと知りたいなら、行った人を探して直接聞いてみると良い。日本人も多かったのでネットや知人繋がりで頑張って探せば見つかるかも。きっと喜んで思い出を共有してくれるだろう。
出演者一覧
私の音楽鑑賞リスト(2024年)でご確認ください。
その他、雑感、情報共有、アドバイス
一生に一度ぐらいバイロイト詣をしたいと思っているなら、ある程度ヨーロッパ旅、特にドイツでの旅には慣れておいた方が良いと思う。団体ツアーを提供している会社が1つだけあると聞いたことがあるが、参加費は高額だし、団体行動だと自由度は少ないと思われる。
バイロイトに空港はない。最寄りの空港は鉄道で1時間のニュルンベルクにあるが、日本からニュルンベルクへの直行便はない。そこで、以下のようなルートが可能。
ミュンヘンまで直行便か乗り継ぎ便で飛んで、特急1時間でニュルンベルク、ローカル列車1時間でバイロイトへ(あるいはバスやレンタカー)
ニュルンベルクまで乗り継ぎ便で飛んでローカル列車1時間でバイロイトへ(あるいはバスやレンタカー)
フランクフルトまで直行便か乗り継ぎ便で飛んで、特急2時間でニュルンベルク、ローカル列車1時間でバイロイトへ(あるいはバスやレンタカー)
ドイツ鉄道は遅延やキャンセルが多い。アナウンスはドイツ語オンリーの場合もある。単語だけでも聞き取れると本当に役に立つので、オペラ予習も兼ねて徹底的にドイツ語を勉強してみるのも良いと思う。ドイツ鉄道のアプリをダウンロードすれば、ほぼリアルタイムで英語で運行情報を取得できるのでそれも活用すると良い。駅の電光掲示板の情報にも注目する。電車の遅延やキャンセルを想定してプランを立てよう。ギリギリでバイロイトに到着してオペラ鑑賞というスケジュールはやめておいた方が良い。余裕を持ってバイロイト入りすべき。大事な公演に遅れないためにも、ドタバタで疲れ果てて上演中に寝てしまわないためにも。
オペラといえば必ず字幕が付くと思っていたのだが、バイロイトに字幕は無かった!作品をあらかじめ知っていて当然(あるいはドイツ語を完璧に聞き取れて当然?)という前提なのだろう。オペラもクラシックもよく知らないけど、なんとなく大きな有名な音楽祭だから行ってみたいなどという人はやめておいた方が良い。通常の2時間オペラなら耐えられるかもしれないし、普通の歌劇場なら現地語と英語の字幕が出るが、バイロイトでは字幕は出ないし、ほとんどの作品が長時間の上演となる。何となく作品を知っているけど、詳細までは忘れてしまったという人も、徹底的に勉強し直してから鑑賞するのが良いと思う。私も今回はいつも以上に気合を入れて予習しておいて良かった。
通常のオペラ鑑賞と異なることといえば、入場前のチケット確認もある。チケットと一緒にIDカード(パスポート)を提示し、チケットに記載された氏名と一致しているかスタッフに確認してもらう。パスポートをお忘れなく。人からチケットを譲り受ける時は、正しい手続きでチケットの名前を変更することもお忘れなく。
今回、「ニーベルングの指環」全4作品のみを鑑賞した。鑑賞したのは火・水・金・日である。木曜と土曜には他の作品が上演されていたが、そのチケットを買うかどうか悩んだ。タイミングにより売り切れだったり、たまにキャンセルが出たのか、少し販売されていたりしていたので、買おうと思えば買えたのだが、値段も高い。リング4作の鑑賞だけでも相当疲れるだろう。リングに集中するため、今回は4作品のみを鑑賞することにした。せっかくバイロイトまで行ったのに勿体無いと思われるかもしれないが、結果として、私は後悔していない。休みの日があったからこそ、リフレッシュできて、ほとんど最初から最後まで集中して鑑賞できた。(正直に言えばワルキューレの最後だけ眠気に襲われたが。)お恥ずかしい話だが、海外での音楽鑑賞では、予定を詰め込み過ぎて疲れて演奏中に眠くなってしまったという残念なこともよくある(何のためにわざわざ行ったんだ!!笑)。今回はそのような事態にならずに済んだ。休みの日はそれぞれバンベルクとレーゲンスブルクを訪問して楽しんだ。ニュルンベルクは、上演時間が短くて開演時間も遅めの初日公演の昼間に訪問。バイロイトの前後で宿泊したミュンヘンでは美術館やグルメを楽しんだ。ワーグナー作品の鑑賞以外でも大満足の旅となった。初バイロイトなら、今後もバイロイトに行くなら、初回はこれで十分だ。十分というか完璧だ。
私はまたバイロイトに行くのか?
一生に一度はバイロイトに行かないと死ねないと思っていた。同時に、行ってみたら、きっとまた行きたいと言い出すのだろうとも思っていた。ホテルで一緒だった3組のご夫婦はすでにお仕事からは引退されていて、お話から察するに私の親世代のようだ。何度もヨーロッパに旅されているし、国内でもたくさんオペラやクラシック音楽を鑑賞しているようだ。それぞれ工夫して節約しながら、颯爽と賢く旅して音楽鑑賞されている素敵な人々だ。(お会いしたのは「バジェット」ホテルですから!)。大先輩である彼らを見ていると、私などまだまだヒヨッコなのだなと思った。この先も健康で自分の旅費を賄えるぐらいの経済力を維持できるなら、私はあと数十回はヨーロッパに来ることになるのかも。バイロイトにも。それしか生き甲斐がないのだから。楽しみだけど、気が遠くなりそうだ。(ああ、なぜ何度もヨーロッパまで往復しないといけないのだろう。馬鹿馬鹿しいのでヨーロッパを拠点にしたい。)
日本に帰国した途端、不眠症が再発。旅行中は比較的よく眠れたのに。体が完全に日本を拒絶している。大きな目標を1つ達成したので、何もやる気になれないし、いつものことだが、いつも以上に日本が嫌だ(笑) しばらくダラダラしたら、また次のヨーロッパ旅を計画して現実逃避をしよう。
旅の記録をブログ(閉鎖済み)に綴ったこともあった。キンドル本を書いて出版したこともあった(販売終了)。近年のフランクフルト+ストラスブールと北ドイツ+ウィーンでは個別のサイトを作った。アムステルダムの記録はこのnoteに書いた。どれをやっても虚しい。世間ウケしない内容なので仕方ない。世間の需要に合わせたコンテンツを作ることにも全く興味がない(笑)
バイロイト旅をどのように記録しようか考えてみたのだが名案は出ない。とりあえず、ここに綴った内容で日本語の情報共有は完了とする。後は、思い出の写真をまとめた動画をYouTube用に作ろうと思う。解説を英語で入れるか、勉強中のドイツ語で入れるかは検討中。ほとんど誰も見ないので、どっちでも同じなのだろうけど。世の中そんなものさ。
超長文を読んでいただきありがとうございました!!
バイロイト音楽祭の旅の写真で動画を作りました。