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穴のあいたくつ下
(今週のテーマ:くつ下)
*
今日のテーマは「くつ下」ときた。
だれかが出すテーマは、自分がかすりもしないものだから面白い、と同時にこう思う。
「難しい…!」
自分が思いもつかない方向から飛んでくるテーマは、あまり深く考えたことがないものばかりだ。
テーマをもらってからすこし考えてみる。そのときのイメージをメモして、時間を置いて再度考えてみる。
大抵はその段階で話が膨らみそうなきっかけが見つかるので、そこから自分と会話して徐々にはなしを展開させていく。
だから今回「くつ下」というテーマをもらったときも、何かエピソードが出てくるかと数分考えたが、まったく出てこない。
うーん、くつ下。パッと思い浮かんだ言葉を、頭の中で並べてみる。
穴の空いたくつ下、くさい靴下、クリスマスのくつ下…。うーん、これ以上はパッと思いつかない。なかなか思いつかない。
穴の空いたくつ下を軸に、もうすこし思考を掘り下げてみる。
「そもそもくつ下ってなに?なんで履くの?
足を守るため、足の群れを防ぐため、足を温かくするため?
じゃあなんで穴が開くんだっけ?
くつ下に負担かけすぎ?ツメをあんまり切らないとか?」
うーん、なかなか話が広がらない。すこし戻って、思考を広げてみよう。
「穴の空いたくつ下で、パッと思い浮かぶシーンは?」
友達の家で、穴の空いた靴下をじっと見つめる自分が見えた。
*
そうそう、小学生の頃、よく靴下に穴が空くことが多かった。
しかもどうやら人より穴のあくスピードが早いらしい。その理由はわからなかったが、よく走り回っていた自分にとって、くつ下の負担が激しかったのかもしれない。
それでもぼくは、穴の空いた靴下を母親に塞いでもらっては、履き続けた。一度気に入ったものは、たとえくつ下であろうと、簡単に手放したくなかったのだ。
とある日のこと、「もうこのくつ下を捨てなさい」と言われたことがある。たしかに穴は大きく広がり、全体的にくたびれていた。それでもぼくはそのくつ下が好きだったので、頑なに履き続けた。
紺色ベースですこし柄の入ったものだったのだけど、それがなぜかとても気に入っていたのだ。当時は白ベースのくつ下を履いてる人が多かったが、あんまり白は好きじゃなかった。
そんなある日のこと。男子女子含めた何人かと、話の流れでそのまま友達の家に、遊びに行ったことがあった。
まさかそんな話になるとは思ってもいない。その日に限って穴の空いたくつ下を履いていたのだ。
「やばい!どうか誰にも、いや、せめて女子には気づかれませんように…」
そう願いながら穴が目立たないよう、くつ下をすこし下にずらそうとした矢先のこと。
一人の女の子と目が合った。その視線がゆっくりと穴の空いたくつ下にいく。
まちがいなく彼女は見た。穴からチラッと見える親指を。まちがいなく見たはずだった。それなのに彼女は何も言わず、サッと奥の部屋に行ってしまった。
せめてそこでなにか声をかけてくれたら、ぼくは救われるはずだった。なんだこれ、一番恥ずかしいパターンじゃないか。
当時の自分にとっては、この瞬間がとても恥ずかしかった。たかがくつ下にひとつ穴が空いているだけなのに。
それ以来からだろうか。くつ下に穴が空いたら、すぐさま買い換えるようになったのは。消耗品であることをやっと理解したのだ。
……良いか悪いかは別として、話せるエピソードがありましたね。これを書きながら、ふと今履いている靴下を見てみたんですが、2箇所も穴が空いてました。
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今回のアイキャッチ画像は、shinobuwadaさんの「「あるある」という踏み絵」という記事から使用させていただきました。素敵な写真をありがとうございます。
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