『Destiny 2』×『ダンジョンズ&ドラゴンズ』元ネタ解説してみた(速報版)
2024年6月5日(米時間)に、『Destiny 2』とのコラボが決定した『ダンジョンズ&ドラゴンズ』。
なんとなく名前は聞いたことあるという方もいらっしゃるかもしれませんが、その存在はあなたが思うよりも大きい、すべての「ロールプレイングゲーム」を名乗る物、RPG要素を持つ物の運命に関わる存在なのです…。
なお、この記事は初報で確認されたもののみを紹介する速報記事です。本実装でまた何かあれば新しく記事を書くかもしれません。
まず『ダンジョンズ&ドラゴンズ』とは?
ダンジョンズ&ドラゴンズは、「TRPG」(テーブルトーク・ロールプレイングゲーム、もしくはテーブルトップ・ロールプレイングゲーム)です。
D&D、ひいてはTRPGとはどのような物なのか、ここにちょうど公式の動画がありますので、紹介はそちらにお任せします。
TRPGというと、Destinyのコラボ先としては珍しいように見えますし、日本人にはコンピューターゲームと界隈が被らないようにも感じられますが、D&Dはすべての「ロールプレイングゲーム」と呼ばれる物の祖、Destinyも例外ではありません。
TRPGの世界ではリソースの扱いやダイスの振り方といったルールの塊を「システム」と呼び、それぞれ扱う物語のジャンルが異なりますが、D&Dが描くのはまさに王道のファンタジー、剣と魔法と冒険の世界。
しかし、それだけにとどまらず、時にSFじみた要素が登場するなど、50年の歴史とイメージ源の幅の広さが、このD&Dの多元宇宙に異常なまでの懐の広さを与えています。
多元宇宙とは言いましたが、公式のものからプレイグループオリジナルのものまで様々です。
例えば、映画『ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り』やコンピューターゲーム『バルダーズ・ゲート3』の舞台となった「フェイルーン」大陸は、『フォーゴトン・レルム』の世界観に属します。
あるいは、「ドラゴンランス」と名のついた本を目にされたことがあるかもしれません。それもまた別の世界を舞台とした、D&D関係の本です。
D&Dという存在の重み
2024年1月に50周年を迎えており(初代『機動戦士ガンダム』よりも4年古いです)、今回のコラボもそれに合わせたものであると考えられます。
50年前といえば、コンピューターゲームが一般化するよりも、そして文学の世界ではSFの派生として見られていた「ファンタジー」というジャンルが確固たるものになるよりも前の事。
50年の歴史の中でアメリカでは2度の社会現象を起こしており、その根強い人気は過去50年のゲーム史、ひいては文化史的に避けることのできない存在です。
有名な所で具体例を挙げるなら、
『The Elder Scrolls』シリーズの世界観の原案が一作目を開発していた当時のチームがD&Dで遊んでいたものである事
元祖トレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』がD&Dのセッションの合間に遊べるゲームとして作られた経緯がある事
といった所でしょうか。
他にも主にアメリカ産のドラマやゲームで「セーヴィング・スロー」や20面ダイスなどのネタを目にされた方も多いかもしれません。
海外では『スター・ウォーズ』などと並び、オタクの必修科目と言っても差し支えないレベルの存在であり、Destiny 2の開発陣の事情を知らない私が、アメリカの大手ゲーム開発チームというだけで「D&D経験者が開発に関わっている」と言ったとしても99.9%嘘にはならないレベルです。
日本も例外ではない
知名度こそ劣るものの、「RPG」の祖である以上、その影響は日本でも無視できません。
間接的なものを挙げればきりがありませんが、直接的なもので有名な例として、以下が挙げられます。
初代『ファイナルファンタジー』はファミコン向けにコンピューターRPGを簡略化した初代『ドラゴンクエスト』へのカウンターとして、より「王道」な作品を目指し、クラス(FFにおけるジョブ)や呪文、モンスターをD&Dから大量に引き写した経緯があります。
その後も『ゴブリンスレイヤー』や『オーバーロード』がD&Dの呪文のシステムなどを設定に組み込んだり、『ダンジョン飯』の作者が筋金入りのD&D(特にD&Dを直接的な原作とする海外のコンピューターRPG)のファンであるなど、陰ながら影響を与え続けています。
20面ダイス
感情表現「ナチュラル 20」では、20面ダイスのホログラムを振ることができます。
失敗の危険がある時、成功度合いにばらつきが生じうる時、多くのTRPGシステムではサイコロを振ります。そして、D&Dでそういった「判定」を行う際は、20面ダイス―業界用語で「d20」を振ります。
それは物語の運命を決める岐路であり、一か八かのチャンスには、オンライン・オフラインを問わず、プレイヤーもダンジョンマスターも、その出目を固唾をのんで見守る光景があるでしょう。
D&Dが世界中で広く遊ばれていることもあり、世界中のTRPGプレイヤーが苦楽を共にしてきた存在なのです。
エモート名の「ナチュラル20」(natural 20を縮めてnat 20とも)とは、英語圏で20の出目が出る事―キャラクターの能力による補正抜きで―を表す表現です。攻撃の判定の際、最高の出目である20が出た場合はクリティカルヒット。与えるダメージが2倍になります。
ちなみに、能力補正込みで20になった場合は「ダーティ20」と言います。
ちなみに、20面なので各面が出る確率はもちろん5%。他のシステムなどで使われる2d6と違って、出目は結構ブレやすいです。
「目玉の暴君」ビホルダー
ゴーストシェル「目玉の暴君のシェル」の外見は、ビホルダーがモデルです。
中央の目は魔法(自身のレーザーも含む)を無力化する領域を、10の眼柄―先端に目のついた触手のような部位―からは石化や即死、浮遊、魅了など、様々な効果を持っていますが、その高すぎる知性と偏執的な神経質さから、眼柄の光線は常人の知性からすれば、一見してランダムに放たれているように見えます(メタい話、即死光線を連打してほしくないといえばそこまでなのですが)。
「目玉の暴君」(アイ・タイラント)の異名で恐れられる異形の怪物であり、ドラゴンと並んでD&Dのマスコットとして扱われるモンスターです。
日本では権利をめぐった壮絶な過去もありましたが、基本的にはピカチュウがポケモンである事とそう変わりないはずです。そう信じたい。
やや余談ですが、『ファイナルファンタジー2』から登場し、シリーズの定番になったモルボルも、ビホルダーの「ランダムな特殊効果を撒き散らす」部分から着想を得ています。
アウルベア
スパロー「アウルベア・チャリオット」にはアウルベアの意匠が施されています。
見ての通り、熊の体にフクロウの頭を持っています。
一般的な熊を超える膂力とフクロウの鋭い目が合わさり、恐るべき捕食者となっています。
ちなみに、元を辿るとウルトラ怪獣のソフビフィギュアのパチモンだったという話が伝わっています。
「チャリオット」とはローマ帝国時代などで用いられた馬で牽く戦車のことですが、公式の長編シナリオ『ウィッチライトの彼方へ』では、主を見失い迷子になったアウルベアの戦車に出会うシーンもあります。
マインド・フレイヤー
ウォーロックの「フレイヤーの支配」セットは、その名前や特徴的な頭部から、「マインド・フレイヤー」の別名で知られる種族「イリシッド」が由来であることがわかります。
別名は「精神を鞭打つもの」「精神を剥ぐもの」といった意味合いで、超能力を操ります。
彼らはノーチロイド船と呼ばれる生体次元間航行船スペルジャマーを駆り、様々な世界に現れては人型生物に幼生を植え付け、新たなイリシッドに作り変えているのです。
先程言った「SFっぽい部分」の一つですね。
ところで、読者の皆様には『ファイナルファンタジー』で似たような名前のモンスターを見たり、『ストレンジャー・シングス』で同じ名前がつけられた怪物を見た事があるかもしれません。
まさにこれこそが元ネタなのです。
さらに余談として、『ファイナルファンタジー』ファン向けの情報ですが、初代FFにおいて、マインドフレアの色違いとしてピスコディーモンという名前のモンスターが登場しています。
D&Dにも確かにその名前のモンスターが存在しますが(現在は「ピスコロス」)、元は「ディーモン」(現「ユーゴロス」)に属する無関係な生物です。
ディスプレイサー・ビースト
ハンターのアーマーセット「スペクトル・ディスプレイサー」の由来は名前と触手から、ディスプレイサー・ビーストであることがわかります。
六本の足を持つ豹のような怪物で、両肩からはさらに触手も生えています。
さらに、光を屈折させ、自分の位置がズレているように見せる(displace)上、触手でアウトレンジから的確に相手を仕留める狡猾な生物です。
セット名の「スペクトル」(spectrum)は様々な分野で使われる単語ですが、性質を考えると光学的な意味なのでしょう。
ちなみにこの怪物、SF小説『宇宙船ビーグル号の冒険』などに登場する怪物「クァール」を元ネタとしています。『ファイナルファンタジー』や『ダーティ・ペア』をご存じという方は、こちらの名前の方が馴染みがあるかもしれません。
ゴールド・ドラゴン
タイタン「高嶺の竜」セットの大きなヒレのついた外見は、第5版・2014年版で描かれた「ゴールド・ドラゴン」をモデルとしています。
ゴールド・ドラゴンは善なるドラゴンの神・バハムートによって造られた「金属竜」の一種であり、火と力を奪うブレスを吐きます。
人里離れた穏やかな場所に棲み、余計な争いを望みません。それゆえに「高嶺の竜」なのでしょう。
「ドラゴン・クイーン」ティアマト
船「ドラゴン・クイーン」の名前は、ティアマトの二つ名「竜の女王」が由来です。
先述の「金属竜」と対を成す邪悪の竜「色彩竜」の祖にして神であり、元はレッド、ブルー、グリーン、ホワイト、ブラックの5つの色彩竜の首を持ち、それぞれの火、電撃、毒、冷気、酸のブレスを吐くのですが、船のデザインには反映されていません。
現在は封印されていますが、その状態でもなお人々に影響を与え続け、「ドラゴン・カルト」と呼ばれる、ティアマト自身を信奉する教団に自らを解放させようとしているのです。
ティアマトが日本でドラゴンの名前になった典拠は初代『ファイナルファンタジー』のティアマットに求めることができますが、さらに元を辿るとこれに行き着きます。
また、この外見から、元々RPGを題材としたアニメ「デュエルクエスト編」で登場した事もあり、『遊☆戯☆王』の「F・G・D」の元ネタであるとする声もあるようです。
ビグビーズ・ハンド
フィニッシャー「ビグビーの拳」は原作の呪文「ビグビーズ・ハンド」を由来としています。
多元宇宙に名を馳せる大魔術師「ビグビー」の名を冠するこの呪文は、原作では人一人を運べるサイズの大きな浮遊する手を召喚するというものです。
もちろん手なので、攻撃するも、壁になるも思いのまま。限界は想像力次第であり、TRPGならではの呪文といえるかもしれません。
ビグビーズ・ハンドは比較的高レベルにならないと使えない呪文ですが、低レベルからでも使える「メイジ・ハンド」という呪文もあります。
これは「ビグビーの拳」で手に纏ったオーラよりも小さいサイズで、攻撃に使える程の力は出せませんが、それでも便利な呪文です。
コンピューターゲームで育つと、呪文は攻撃や防御に使うものという感覚に陥りがちですが、実際に遊ぶ際は、こういった呪文をうまく使ってDMを驚かせちゃいましょう。