BASTARD!!をTRPG側から解説してみた #2(第6~13話)
この記事は「BASTARD!!をTRPG側から解説してみた #1」の続きとなる。
本解説記事の前提となる『ダンジョンズ&ドラゴンズ』そのものや、第1~5話について紹介しているため、まだの場合はこちらを先に読むことをお勧めする。
今回は鬼道三人衆編から第1クール終了となる第6話~13話までを解説する。
なお、今回は明確にD&D要素がなく、語る所がない話数も存在するため、そういった回は省略させていただく。ご了承願いたい。
第6話「因縁」
アイテム:水晶玉
この回以降カルが水晶玉を通して他の戦局を見るシーンが度々ある。
水晶玉を通して過去・現在・未来の出来事を見るというのもファンタジー、オカルトの鉄板だが、D&Dにはまさに水晶玉などを触媒とする念視の呪文「スクライング」が存在する。また、逆にスクライング同様の効果を得られるクリスタル・ボール、すなわち水晶玉も登場する。
呪文:イリュージョン
ダーク・シュナイダーがアーシェスとコミュニケーションをとるために幻術の空間を作り出した。
幻術は幻術としてひとまとめにされているが、D&Dでは大きさや種類によって細分化されており、使用可能になるレベルも異なる。
また、AD&D第2版以降なのでBASTARD!!の参照元からは外れるが、他人の夢に入り込んでメッセージを伝える呪文として、文字通りのドリームという呪文も登場している。
呪文:ヴォイヴォット
ダーク・シュナイダーが女性を襲う巨大グモを爆発させた。
これに関してはそれらしい呪文が見当たらなかった。
呪符魔術全般
シーンが使用する呪符魔術は陰陽道的な和風の呪符によるものであり、D&Dとの直接的な関係性はあまりないと判断して紹介しないものとする。
モンスター:メデューサ
石化した女性を見てダーク・シュナイダーとラーズの二人はヘビ女・メデューサが近くにいると予想した。
メデューサという名前自体は説明不要、ギリシャ神話由来の怪物「ゴルゴーン」3姉妹の一人から取られている。
余談となるが、D&Dの「ゴーゴン」は、別のギリシャの怪物「カトブレパス」の別名としての要素が優先され、鉄の体を持ち、石化ブレスを吐く怪物として描かれている。
第7話「魔獣」
呪文:タラス
呪文により、ダーク・シュナイダーの体を石に変えようとするカイ。
まさにゴーゴン三姉妹やカトブレパスのように、石化はファンタジーの鉄板とも言えるが、D&Dでは高レベルの魔法使いが自力で使える呪文として存在する。それがフレッシュ・トゥ・ストーン(ここで言うフレッシュとはfresh(新鮮な)ではなく、flesh(肉体))だ。
これに対しダーク・シュナイダーは解石の呪文を思い出そうとしていたが、この当時の版では逆にストーン・トゥ・フレッシュが存在した。
のちの版では他の状態異常回復系呪文と統合されている。
呪文:デイオ
石化したダーク・シュナイダーを完全に破壊しようと熱線を発射する。
手から高温を発射すると言えばバーニング・ハンズ、物体を確実に破壊するというとシャターや第1話で紹介したディスインテグレイトが挙がるが、該当する呪文はいまいち見つからない。
呪文:レイ・ボウ
石化から解き放たれたダーク・シュナイダーの反撃。光の矢を降り注がせた。
どうやらこれは原作の設定によればアンセム(マジック・ミサイル)の強化版であるようだ。
D&Dのマジック・ミサイルは術者のレベル(版によっては使用する呪文スロットのレベル)が上がれば弾の数が増え、攻撃力を増していく。
モンスター:コカトリス
続いてカイの反撃として呼び出したのは巨大なニワトリ型の生物。
中世ヨーロッパの伝承によれば、コカトリスは胴体は蛇、頭はニワトリ、二本の脚と一対の翼を持ち、目を合わせる、息を吐きかけられるなどの行為をされると石になってしまうとされる。
BASTARD!!ではこの設定にかなり忠実な外見をしている。
初期のD&Dでも似たような外見をしている一方で、石化能力に関しては噛みつきによるものとなっている。
なお、世代を追うごとにニワトリらしい太さや赤さを失い、最新の第5版では『モンスターハンター』のモンスターかと見紛う鳥竜と化している。
第8話「真祖」
能力:ヨーコの勘
ルーシェに対して「邪悪な存在を感じない」「ボクの勘はよく当たるんです」と兵士に告げるヨーコ。
D&Dの文脈上ではこれもクレリック呪文「ディテクト・イービル」の能力にあたると言える(現行の第5版では善も感知できるディテクト・イービル・アンド・グッドに統合された)。
ヨーコの父は国を統べる大神官。何か遺伝的な要素でこういった察知力を得たのだろう。
呪文:洗脳?
ダイ・アモンに捧げられる生娘達は皆取り乱すことなく生気のない目をしていた。
これも第1話で紹介したチャームなどの派生呪文なのだろう。
D&Dの心術呪文でも金縛りで動けなくする「ホールド」系などが存在する。
第9話「青爪」
呪文:ライ・オット
封印を自力で解放したダーク・シュナイダー。怒りのままにさらに強力な電撃呪文を放つ。
バルヴォルトの強化版という扱いだが、当時の版のD&Dでは呪文の強さは術者のレベルに依存していたため、キャラクターの成長に合わせて異なる威力のライトニング・ボルトを習得するという事はなかった。
同系統で威力の異なる呪文がある、というのはむしろ『ドラゴンクエスト』や『ファイナルファンタジー』の文脈に近いと思われる。
能力:アッサー・シーン
真祖の能力として目から破壊光線を放つダイ・アモン。
人類史において目を光線や光に例える事は数多く、マジンガーZや『X-MEN』のサイクロップス、そしてもちろんD&Dのビホルダーなど、ポップカルチャーにおいても数多く例が存在する。
それだけ一般的な表現なので、D&Dが元ネタと言い切れない。
鈴木土下座ェ門で訴訟を受けて以来、D&Dに依らないオリジナル成分を強め始めたのかもしれない。
呪文:アキューズド
コウモリと化したダイ・アモンの被膜を触媒に契約の呪文をかけるダーク・シュナイダー。
細かい内容はオリジナル要素が強いが、こういった契約の魔法もファンタジーの鉄板なので、D&Dにも「ゲッシュ」の呪文が存在する。ゲッシュの場合は逆らった場合、苦痛や病をもって罰せられる。
第10話「雷神」
アーシェス・ネイが魔法剣士な理由(種族/クラス:エルフ)
魔法と剣技を組み合わせる戦士として登場するアーシェス・ネイ。このスタイルはD&Dに元を辿ることができる。
無印/ベーシックD&Dでは、エルフやドワーフといった種族は種族と紐づいたクラスとして登場しており、エルフはファイティング・マン(当時の戦士職の名前)とマジック・ユーザーの中間にあたる魔法戦士として設定されていた。
そして、武器が使える分、高レベルの呪文を使えるようになるまで遠いという調整がされている。他の版でも、こういったクラスは同様の仕様の事が多い。
(余談)忍法:七つ身分身の術
アーシェスの剣に斬られたと思われたガラは、実は彼が作り出した分身だった。
明らかに「魔法使い」ではないキャラクターの技なので直接D&Dとは無関係と思われるが、実は似たような挙動をする呪文がD&Dに存在する。
「ミラー・イメージ」だ。
発動した後しばらくの間周りに同一人物の分身が出現し、術者と同じ行動を行う。攻撃されれば消滅するが、分身とは自在に入れ替われる。
純粋に攻撃が当たりにくくなるので、鎧の薄めの純呪文職でも、武器呪文のハイブリッド系でも重宝する。
(むしろここまでこじつけないともうほとんど話すネタがなくなっているとも言う)
第12話「死生」
呪文:レイ・ヴン
グリフォンに乗って攻めてきたアーシェスを、飛翔の呪文で追うダーク・シュナイダー。
魔法で空を飛ぶというのはありがちだが、D&Dでも「フライ」の呪文が存在する。
(余談?)魔法の防護フィールド
ガラ曰く、ネイの対魔法領域下ではダーク・シュナイダーの「魔法の防護フィールド」が無力化されていたという。
そこまで明確に意識はされていないかもしれないが、D&Dで物理に対する魔法の守りとして、最初期から存在するものにシールドがある。
魔法の障壁を作り出し、物理攻撃の通りを悪くする他、マジック・ミサイルも無効化できる。
また、これはAD&D第2版からなので連載当時から外れるが、より長時間持続するものとして、メイジ・アーマーも登場している。こちらは鎧を着ているかのように自らを守れるものとなっている。
第13話「動揺」
種族:エルフ
アーシェスの回想の中で、ハーフ・エルフ、ウッド・エルフ、ダーク・エルフなどの様々なエルフが登場した。
D&Dは『指輪物語 / Lord of the Rings』に代表されるJ・R・R・トールキンの作品群の影響が色濃いが、それら同様に、一口にエルフと言っても多数の部族が存在する。
ウッド・エルフは一般的なエルフのイメージの内、弓術に長け素早い「森の民」などのイメージ。
そしてハーフ・エルフは文字通り人間とエルフのハーフ。
一方で、ダーク・エルフというのはD&Dのオリジナル要素が強い。
D&Dにおいては「ドラウ」とも呼ばれ、暗い色の肌を持ち、主に地下に住むとされている。
とはいえ、部族の廃墟が野ざらしだったので、BASTARD!!の世界のダーク・エルフは特にそういった事もなさそうである。
あとがき
前期後半となる今回だが、思っていた以上に語れる要素が少なかった。
前回紹介した「ヴォクス・マキナの伝説」に比べ、一部の要素以外は明確にD&Dではない事もあるのだろう。
それでも、この記事がD&Dに少しでも近づくきっかけとなったなら幸いである。
#1で紹介した通り、D&Dの日本展開は新体制に移行しようとしている。
そのスタートダッシュを切るためにも、これを読んでいる皆さんにもご協力頂きたい。
それではまた次回、おそらくBASTARD!!の後半になると思われるが、また何かそれらしい作品が確認されたらお会いしよう。