【機能の逆転】ハムストリングスの膝伸展作用
このnoteは、MSI(Movement System Impairment)について解説することを目的としています。
MSIについては、こちらをご覧ください。
MSIでは、身体の動きがきっかけで生じた痛みの原因を解明し、改善するプロセスを学ぶことができます。
はじめに
今回は、ハムストリングスの膝伸展作用について紹介します。
解剖学の本にはハムストリングスは股関節の伸展筋で、膝関節の屈曲筋と記載してあります。
しかし、特定の条件下では膝関節におけるハムストリングスの作用は逆転して膝伸展に作用します。
どのような条件でハムストリングスの膝伸展作用が生じるのか?、それを理解することは臨床にどう繋がるのか?について解説していきます。
明日からの臨床のヒントになる内容になっています。
是非ご覧ください。
ハムストリングスの基本
釈迦に説法だとは思いますが、ハムストリングスの基本から振り返っていきます。
ハムストリングスは内側と外側に分けられます。
内側ハムストリングスには、半腱様筋と半膜様筋が含まれます。
起始部は坐骨結節で、薄筋・縫工筋と共に鵞足を形成して脛骨粗面内側に付着します。
外側ハムストリングスには、大腿二頭筋(長頭・短頭)が含まれます。
長頭の起始部は坐骨結節で、短頭は大腿骨粗面外側です。
長頭・短頭ともに腓骨頭に付着します。
教科書的な機能は、股関節の伸展と膝関節の屈曲です。
ハムストリングスの膝伸展機能
ハムストリングスの膝伸展作用については、古くから報告されています。
1988年にBlaimontらが一定の条件下では、ハムストリングスは膝伸展作用を有することを報告しています。
下記の図のような骨盤・大腿・下腿のモデルで検証されています。
実際の人間の動作では多少異なりますが、
足部を接地し、
上半身重心が股関節より前方にある状態で、
ハムストリングスが収縮する状況では、
ハムストリングスは膝伸展作用を発揮するといえます。
実際に、ハムストリングスの膝関節伸展機能を体感してみましょう。
写真の姿勢を参考に、体幹前傾位を保持したまま、スクワット動作を行ってみましょう。
膝関節伸展時にハムストリングスの収縮を強く感じると思います。
これが、膝関節伸展筋としてのハムストリングスの活動になります。
OKCにおけるハムストリングスの膝伸展作用
近年は、シミュレーションモデルにおける研究でOKCにおいてもハムストリングスは膝伸展作用を有すると報告されています。
膝過伸展位でハムストリングスが膝伸展機能を持つことは非常に重要です。
臨床では、どのようなケースで関係してくるでしょうか?
具体例を考えてみます。
膝関節術後などには、大腿四頭筋の筋力改善のためにクアドセッティングがよく行われます。
しかし、大腿四頭筋が十分に収縮が見られない場合があります。
この場合は、ハムストリングスが膝関節伸展作用を代償して大腿四頭筋に十分な収縮が入っていない可能性が考えられます。
ハムストリングスの膝伸展作用は善か悪か
ハムストリングスの膝関節伸展作用には、動作にとって良い点と考慮すべき点が含まれています。
良い点
・大腿四頭筋の機能不全に対する代償機能として作用する
・ジャンプ動作などの下肢のプッシュ時に協働筋として作用して強いパワーを発揮する
これらの点が挙げられます。
先ほど引用した、「黒澤(2020):ハムストリングスの膝伸展作用を生かし,起立動作の介助量が軽減した 1 症例」でも、大腿四頭筋の筋力低下を代償するためのハムストリングスの膝伸展作用を応用した立ち上がり動作が紹介されています。
このようにハムストリングスの膝伸展作用は動作にとって良い面が多くあります。
一方で、この作用には気をつけるべき点があります。
考慮すべき点
・大腿四頭筋の活動を抑制してしまう
・大殿筋の活動が乏しくなる
この点は考慮する必要があります。
先ほども紹介した、クアドセッティング時のハムストリングスが優位になってしまう現象も問題になります。
膝関節の過伸展をもたらし、膝関節後面の過伸長・膝関節前面でのインピンジメントなどの問題を引き起こします。
MSIの症候群で言うと膝伸展を伴う股関節伸展症候群や膝関節過伸展症候群となります。
まとめ
今回はハムストリングスの膝伸展作用について紹介しました。
ハムストリングスの膝伸展作用を理解することは、膝関節に対するストレスを理解する上で重要になります。
筋肉は関節角度の変化に伴って走行が変化し、機能も変わります。
また、OKCかCKCかでも機能が変わります。
教科書的な理解から一歩進んで、筋の機能を理解することで身体の動きと筋活動を詳細に理解することができます。
読んでいただいた方の臨床の一助になれば幸いです。
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