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インフォデミックとかソーシャルポルノとか

僕は、行政情報システム研究所の『行政&情報システム』という雑誌で「行政情報化新時代」という連載を持っている。といっても隔月刊の雑誌で、しかも杏林大学の木暮健太郎先生との交代で書いているので、4ヶ月に1回、つまり年3回しか書く機会はない。とはいえ、この連載は2011年3月から担当しているので、なんと10年30回も続いたことになる。めでたいことだ。

そういえば、日本広報協会の『広報』という雑誌でも「人をつなぐ」地域SNS ~各地のSNS活用術」という連載コラムを書いていたことがあった。あのときは2008年から2009年にかけて15回書いたので、30回というのは倍増である。

閑話休題。直近の「行政情報化新時代」では、編集部からの依頼があり「WITH/POSTコロナ時代における行政のデジタル化」というタイトルで書いた。このテーマに関する考察をいろいろな観点から書いたものだ。その中からひとつ「情報提供・コミュニケーションの課題」という小見出しをつけてまとめた内容を紹介してみたい。

感染症対応に限らず、有事の際に水や食料などの必需品とともにもっとも必要とされるのが「情報」である。地震や水害といった自然災害とは異なり、ウィルスやその感染拡大の状況は目で見ることができない。そのためパンデミックの状況下では行政が発表する情報が現状把握のための重要な手段となり、日々発表される感染者数の推移や、対策のひとつひとつに多くの人が関心を寄せている。また人と人の接触を避けるためにも、リスクを把握したり接触記録を残したりするなど、情報の生成・管理・活用が社会的に大きな関心事となっている。

しかし今回の新型コロナウィルスへの対応では、信頼性の高い情報とそうではない情報が不安や恐怖とともに拡散され、信頼性の高い情報が見つけにくくなる「インフォデミック」が生じた。2020年2月の段階でMIT Technology Reviewは「SNSによって引き起こされた初めてのインフォデミック」 と表現し警鐘を鳴らしていたが、実際には物資の買い占めにつながるような情報や、ヘイトスピーチまがいの言論、怪しげな健康法など、数々のデマが流通している。

特に物資の買い占めにおいては「トイレットペーパーが不足する」というデマ情報よりも、その情報はデマであるという「否定のための情報」がソーシャルメディアとテレビ等のマスメディアで広く紹介されたことが逆に人々の買い占め行動を促したとの分析 が行われている。これは「デマ否定情報はデマ情報よりもシェアされない」という従来の議論と逆の現象であり、榊・鳥海(2018) は、情報の正しさよりも脊髄反射的に拡散・共有してしまいたくなる情報(ソーシャルポルノ)が広がっているのではないかと考察している。

 行政も、こうした社会現象を踏まえたコミュニケーション戦略を検討していく必要がある。正しい情報やデマ否定情報を流せばよいというだけではなく、その情報がソーシャルメディアでどう拡散されるか、マスメディアに取り上げられインパクトが増幅されてより広い層に届くことでどのような効果を引き起こすかということまで考慮することが求められるだろう。

※参考文献
庄司昌彦「WITH/POSTコロナ時代における行政のデジタル化」『行政&情報システム』2020年12月号特集

「真犯人は「デマ退治」 否定でも噂ひとり歩き 買い占め騒動分析」日本経済新聞 2020/4/6

榊 剛史, 鳥海 不二夫, 「ソーシャルポルノ仮説の提案とその観測に向けて」,『人工知能学会全国大会論文集』, 2018, JSAI2018 巻.

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