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つながらない権利とつながりたい権利
2024年12月05日(木)のNACK5『Good Luck! Morning!』内「エコノモーニング」では、こんなお話をしました。
今日は、「つながらない権利」と「つながりたい権利」というお話をしたいと思います。たしか、月曜日のこのコーナーでオーストラリア政府が子供のSNS利用を規制するという話題を扱っていましたが、今日は大人の話です。
つながらない権利というのは、働く人が、業務時間外に仕事関連の連絡や業務から切り離される権利です。背景には、ノートパソコンやスマートフォンといった機器が普及して出勤していなくても仕事ができるようになったことや、メールやSNSといった連絡手段も普及して業務時間外でもいつでも社員と連絡がとりやすくなったことなどがあります。
しかし自宅で休んでいるときなどに仕事の連絡をされることでストレスを感じたり、休日に仕事をすることになって労働時間が長くなったりしますね。つまり、ワークライフバランスが悪化します。本来、業務時間外であれば仕事をする必要はありません。しかし、実態としては四六時中、仕事とつながっていることができるようになってしまい、実際につながってしまっているわけですね。
この問題に対処するため、2016年にフランスで労働法が改正された際に「つながらない権利」という考え方が盛り込まれました。これによって、労働者と企業は業務時間外の連絡について話し合って合意することが必要になりました。また、業務時間外の連絡を禁止したり、労働者が拒否したりできる権利する法律などが、イタリア、ポルトガル、ベルギー、オーストラリア、フィリピンなどでも定められています。
次に、日本の実態を確認してみましょう。連合が2023年に行った調査によると、頻度はさまざまですが働く人の約72%が業務時間外に上司や部下、同僚から業務上の「連絡がくることがある」と回答しています。業種別にみると、「建設業」がもっとも多く、ついで「医療、福祉」、「宿泊業、飲食サービス業」が続いています。これだけではなく幅広い業種で、業務時間外に仕事の連絡を受けているようなんです。そして、こうした状況で「ストレスを感じる」という回答が約61%、業務時間外の「職場からの連絡を制限すべき」だという回答が約67%にのぼっています。しかし実際は自分の職場に「つながらない権利」に関するルールがあると回答したのは約26%だったそうです。ということで、つながらない権利をルール化していくことが、日本でも求められるかもしれませんね。
…ということで話が終わるとわかりやすいのですが、ところがそうではないんです。ちょうど1か月ほど前ですが、日経新聞で「休日も「つながりたい権利」あり?」という記事が掲載されまして、これがとても興味深い議論だったんです。
つまり、業務時間外でもいつでも連絡できるようにしてほしいという声も少なからず存在する、という話なんです。主には管理職の方々の意見のようでして、出勤するまでトラブルなどの情報が伝えられないということの方が逆にストレスに感じるとか、部下や同僚への問い合わせや助言などを忘れないうちにメールしておきたい、といったことが理由のようです。記事で紹介されていた会社では、「つながりたい権利」を主張する社員から「つながらない権利」の規制緩和を求める声が挙がったということも紹介されていました。
じつは、先ほどの連合の調査でも、6割の人が連絡が来るとストレスだと回答した一方で、4割の人はストレスを感じない、と回答しています。さらに、業務時間外に来たメールなどの内容を確認しないと、内容が気になってストレスを感じるという人も約4割いるという数字も出ているんですね。若い人たちの間でも、仕事とプライベートを明確に切り分けたいという人が多い一方で、家族主義的で人間関係の濃いベンチャー企業を求める人もいるというのも事実です。
私自身は、つながらない権利を求める人の気持ちも、つながりたい権利を求める人の気持ちも、よくわかる気がします。私は研究者なので、四六時中仕事とつながっていてオンとオフの境界はあいまいですが、好きなことを仕事にしていて時間の使い方の自由度も高いですから、ストレスより楽しさの方が勝っています。それから、ゼミの学生との付き合い方でも、いろいろ考えますね。私はゼミの学生との連絡手段にLINEグループを使っていますが、お知らせやおすすめのニュース記事などを、どれくらいの量や頻度で流すか、どの時間帯に流すか、けっこう気を遣いますね。
企業に話を戻しますと、さまざまな働き方やさまざまな考え方があり、一方でワークライフバランスや、健康管理の問題、パワハラなどの問題もある中で、良いバランスをそれぞれの職場で模索していく必要があるんだろうというのが今のところの私の結論です。最初にこの権利を言い出したフランスも業務時間外の連絡を一律で禁じているのではなく、労働者と企業が話し合うことを求めているというのはそういうことなんでしょうね。
以上、「つながらない権利」と「つながる権利」についてのお話でした。