石破内閣でデジタルと地方経済はどうなる?
2024年10月10日(木)のNACK5『Good Luck! Morning!』内「エコノモーニング」では、こんなお話をしました。この日はアロハ太朗さんが夏休みで、お相手は代役のJOYさんでした。ありがとうございました。
ついに昨日、衆議院が解散されまして、今日から世の中は選挙モードになっていきそうですね。ということで、今日は「石破内閣でデジタルと地方経済はどうなる?」というお話をしたいと思います。
石破政権の経済政策全体の中でも、地方の問題というのは重要な柱になっているようでして、私は、石破首相が所信表明演説で「地方こそ成長の主役」というキャッチフレーズとともに示した「地方創生2.0」という政策に注目しています。これは、地方の人口減少や経済の衰退という問題に対して、デジタル技術を活用しながら新しい活力をもたらしていこう、東京に集中している人材や企業を地方に分散させていこう、という取り組みのようなんです。
そして、この政策のキーパーソンとして注目されているのが、デジタル大臣に就任した平将明さんです。平大臣は以前から「Web3」という新しいインターネット技術や「AI(人工知能)」に関する政策の取りまとめもしていた方でして、大臣就任の際の会見でも、記者からの質問に答えてweb3技術の重要性を語っていました。
しかし、「Web3って何ですか?」という方が大半だろうと思います。Web3というのをひとことで言うのはなかなか難しいのですが、ここで期待されているのは、私たちのデータを企業や政府などの一か所に集中させず、分散管理にして、個人や企業が自分でデータをコントロールできるようにするというような仕組みです。集中ではなく分散型の管理にすることで、情報の安全性が高まったり、大企業の一人勝ちにならず地方のコミュニティや中小企業などにもビジネスチャンスがでてくるんじゃないか、という期待がされているようです。
具体的な活用例では、NFT(ノンファンジブルトークン)というものがあります。(新しい技術なので新しい言葉がたくさん出てきてしまいますね。すみません)これは言い換えると、暗号技術などを使って偽造を不可能にしたデジタル鑑定書といようなものです。たとえば、デジタル写真やイラストなどは、ふつうは簡単にコピーすることができてしまいますので、データをいくつもコピーしてしまったらどれが私が最初に持っていた写真データであるかわからなくなります。しかし、NFTは偽造できないデジタル鑑定書ですから、写真データに紐づけることで、これは唯一無二・私だけの写真データである、私の所有物であるということを証明できるんです。
デジタルデータに鑑定書をつけて唯一無二のものにしたら、どんなことができるようになるでしょうか。たとえばこういうことです。ある地方の観光地の美しい写真をNFT付きのデジタルアートとして販売しましょう。その唯一無二の作品に対して、高い値段を払ってでもほしいという人が出てきたら、絵画などと同じように鑑定書付きで転売することが可能になります。ここ数年で、そういう市場が生まれてきているようでして、地域独自のNFTを発行して資金調達をし、地域の活性化に役立てようという取組みが各地で登場してきています。
ただ、私自身は、web3という技術や、この技術を活用したサービスやアプリなどには半信半疑でして、正直言ってまだまだ発展段階にあると思います。アート作品の鑑定書ではなく一種の会員権のようなものの所有者証明書として使ったりすることもできて応用の可能性はよく語られていますが、本当にこれで大きな経済効果が生まれるのか、というと未知数ですし、短期的な成果が求められる政権の目玉政策とするには課題が多いと考えられます。
政府は、Web3以外には、AIを活用したサービスを開発するような新しい企業、スタートアップ企業の成長によって地域に雇用を生み、新しい産業を育成していこうということも期待しているようです。平デジタル大臣は、ヨーロッパでは政府によるAI規制を強める方向で議論が進んでいるのに対し、日本は新しい産業の成長スピードを止めないために政府による規制は必要最小限にとどめるという発言をして注目されたりしています。
では、新しいテクノロジーを使った「地方創生2.0」によって東京の一極集中が解消したり、地方経済が活性化したりするでしょうか。私は、地方経済は重要だけれども、少し冷静に考える視点も持ったほうがいいだろうと思っています。まずこれまでの政府による「地方創生」の取組みがどれだけ成果を上げたかを見直すことが大切です。2014年に安倍政権の下で始まった地方創生交付金は岸田政権で「デジタル田園都市国家構想」交付金という名前になりましたが、毎年、千数百億円ほどのお金が地方に交付されてきました。その使い方の中には、お金を確保することが目的となってしまっていたケースや、必ずしも十分に結果がでていないケースもあったと思います。むしろ都市問題の解決にもっとお金をかけるべきであるという議論もあります。国がお金を配ることで、地方は国への依存を強めてしまうのではないかという批判もあります。石破首相は、地方創生2.0では地方創生交付金を倍増させるとも宣言していますが、お金の金額で注目を集めるだけではなく、移住したい・働きたい・暮らしたいと思う若者が増えるような効果的な使い方であるかどうかですとか、地域が継続的に発展できるような改革を伴っているかどうかですとか、そういったことにも注目していく必要があると思います。