見出し画像

芋坊の話(フィクション)

ある村のはずれの小屋に、不具の男の子が一人住んでいた。

不具の子は、言葉を話せず、手足が動かず、這い回ることしかできず、いつのころからか、「芋坊」と呼ばれていた。

そんな芋坊を、村の人々はみんなで可愛がっていた。食べ物を差し入れたり、歌を聴かせたり、祭りのときは、村の皆で芋坊を抱えて、踊りを見せてやったりしていた。

その代わり、村の男や女は、困ったことがあると、芋坊の小屋に行ってひとしきり話をしては、さっぱりして家に帰ったものだった。

そんな芋坊は、いつも春先と秋口になると、とても悲しくなった。村のみんなが田植えや稲刈りをするのに、自分だけ、働くことができない。自分だけ、働かずに、ご飯をもらっていることを、芋坊は密かに深く深く恥じていた。

あるとき、芋坊が昼寝をしていると、お地蔵様が現れた。

「おい、芋坊。お前は心が綺麗だから、願いを一つ叶えてやろう」。

芋坊は這いずりながら思った。

(おらに動ける手足をくだせえ)

お地蔵様は頷くと、どこかに消えた。

目が覚めると、芋坊は、立って歩けるようになっていた。小屋を出て、村長に手を振った。はじめはたまげていた村長だが、それが芋坊だと気づくと、とても喜んだ。

芋坊はそれからとてもとても良く働いた。泥にまみれて汗を流す芋坊に、村の娘っ子や嫁っ子たちは、いつしか見惚れるようになった。

ある夜、村長の後妻が芋坊の小屋に忍んできた。芋坊は何が何だか分からなかったが、次の日、村長の家で物音がしたと思うと、さんざんに打たれた後妻が走って村を逃げ出してしまっていた。

それから、段々と村人達が、顔を合わせば、お互いに罵るようになった。罵りあわなくても、むっつりだまり合っていることが多くなった。祭りも、行われなくなった。

芋坊はただ、働くことが楽しかった。

村長と村の男衆は、芋坊を除いて、三日三晩話し合った。その日の夕暮れ、村主と、村の屈強な男達が、芋坊の小屋にいった。そして芋坊を囲んで皆で土下座して泣きながら言った。

「芋坊、みんなのために芋坊にもどってくんろ」

芋坊は、男達の様子がただならぬことを感じ、小さく頷いた。

その刹那、男達は芋坊に跳びかかり、芋坊の手足を折った。芋坊は痛くて痛くてたまらなかったが、「みんなのため」と思うと、歯を食いしばって耐えた。

芋坊は、「芋坊」に戻った。

村人たちは、一生懸命芋坊の看病をした。そして、昔のとおり、食べ物をあげたり歌を歌ってあげたりした。祭りも、また行われるようになった。

村が、かつての村に戻っていったとさ。

めでたしめでたし。

いいなと思ったら応援しよう!

masaru sakamoto(坂本 勝)
ありがとうございます!!